第30話 あさり

 息子が小さい頃、スーパーで買ってきたアサリの砂抜きをしようと

ボールに塩水を入れてアサリをつけた上にアルミホイルで軽く蓋をして放置しておりました。


 真っ暗になり周りが静かになったせいかアサリ達は安心して潮を吹き始めます。


 アルミホイルの隙間から塩水が飛んでくるのが面白かったらしい息子に長く伸びた出水管と入水管(貝から伸びる触手みたいなやつ)を指さしてお口が伸びてるね~なんて言って観察したりしておりました。


 それから3日後、主人に「まだ食べないの?」って聞かれました。


 情が湧いたわけではないですが飼ってる気分で塩水を変えたりし、観察を続けるも息子はとうに飽きてるし私が一人であちこちに飛び散る塩水に元気だなぁーとか思ってただけで作るのを忘れていたわけでは……ゲフゲフ。


 次の日、そろそろアサリのお味噌汁にでもするか、と、


 ボールを覗くと安心しきって口(出水管と入水管)を長~~くびろ~~んと貝殻から外に出してだらけきっているアサリ達が目に入ります。寝ているようです。


 私はいきなりボールの中身をざるにザバザバとぶちまけました。


 寝込みを襲われ驚いたアサリ達が一斉に貝をパンパンと閉じます。


 長く伸びた口を引っ込める余裕もなくいきなり閉じた貝に挟まれた口(出水管と入水管)が見事に千切れてざるの中にバラバラと落ちていました。


 ギャーーー


 まさかの出来事にビックリして声を上げると何事かと飛んできた息子はざるの中の惨劇を見て、


「気持ち悪いよ~~~」と泣き出しそうな顔をしていました。


 すまん、息子


 勿体ないのでお味噌汁は作りましたが息子は食べませんでした。

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