第29話 ある眼科でのお話し

 これは私が眼科で働いていた時のお話しです。


 私は受付と簡単な医療事務をしていました。


 ある時、娘さんが眼底検査を受けるという事でお母さまと一緒にお二人で来院されました。

 受付を終えたあと、事前に瞳孔を開くため看護師が薬を患者さんに点眼して待合室で待ってもらいます。


 しばらくするとお母さまが受付にいらして、「TVのチャンネルを変えていいですか?」と聞いてきたので「大丈夫ですよ」と答えました。


 すると


 チャララン 


 もうこの時点であれだと分かるイントロクイズ的なピン!


「東京ラ〇ストーリー」のOPが始まりました。


 そういえば再放送してたなぁ、と私はちらっと画面を見ましたが特に何も思わずに仕事に戻りました。


 そうして30分くらい経って瞳孔開いたかなぁとその母娘の方を見たらですね、


 二人してハンカチ出してすすり泣いてるんですよ。


 画面を見ると、ああ、あの泣けるエピソード、あれは泣く!


 いやいや、そうじゃなくて、泣いちゃダメでしょ。娘さん、点眼したよね、あっ、ちょ、目をこすっちゃダメじゃん、とか私は心の中で叫びながらとりあえず先生に聞いてからにしようと診察室にいる先生のところへ行きました。


「先生、眼底検査の患者さんが泣いてます」


「えっ、なんで?」 


「東京ラブ〇トーリー観て泣いてます」


「はい? 東京…」 


「あっ、それはどうでもいいです。点眼してすぐではないようですがTV観て泣いてるんですよ、眼底検査に支障ありませんか?」


「……、大丈夫でしょ」


「分かりました」


ということで、娘さんは無事に検査を終えて帰りました。


 待合室で他にも人がいるのに二人してドラマを観て泣く母娘、仲いいなぁって思いました。



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