第37話 バレンタインの話
今日はバレンタインなのでいくつかある思い出の中の一つを書いてみる。
それは高校一年生の時のバレンタインでした。近くの席に座っていたAさん(名前を覚えていません)が3時限終わりの少し長い休み時間に話しかけてきました。
「ねぇ、私ちゃん、ちょっといたずらしてみない?」とメガネの奥から大きな目をくりくりしながら私の顔を覗いてきます。
「いたずら?」と私は首をかしげながら聞き返しました。
「そう、前に座っているB君の机の中に空っぽのこれ入れて様子みようよ」と小さな箱を見せてくるのです。その小さなプレゼントはバレンタインの贈り物に見えるようにラッピングされていました。
「B君これ見たらどんな反応するかな~~、あはは」と楽しそうに笑うのですが
ちょっと待て、何故私を巻き込むんだこの人? 空っぽのプレゼント貰って喜ぶ人はいないと思うよ、うわもう面倒くさい、B君が可哀そう。
私は聞こえなかったふりをして返事をしませんでしたがAさんは一人はしゃいで止める間もなくB君の机の中にプレゼントを入れてしまいました。
Aさんという人は密かに男子に人気があり、私と仲の良かった男子曰く、あいつ色っぽいよな、絶対処女じゃないよとか言われてた子です。メガネをかけていても大きな目が印象的で胸もそれなりにあります。
休日には行きつけの喫茶店でコーヒーを飲みながら読書をするのが趣味で行きつけの店があると言っていました。
私は喫茶店など一人で入る勇気もなく、というか田舎住まいなので喫茶店なんてねーよという環境だったので住む世界の違う人だというのがAさんの印象でした。
B君は小学生の時に東京から引っ越してきたらしく私とは中高が一緒でした。
別に気取ったところもなく当時としては男子なのにピアノが弾けるので尊敬のまなざしで見られていましたが初心者レベルというのが分かってからは普通の子になってました。性格は優しいので嫌いではなかったです。
で、Aさんがバレンタインにチョコを渡せば断る男子はいないと言っても過言ではないのにAさんは知ってか知らずか大変に罪な事をしているわけです。
さて、午後になってもB君は何の反応も見せません。気が付いているのかいないのか。いや分からないはずはないので誰にも悟られないように隠しているに違いありません。
きっと家に帰ってから喜びを爆発させようとしているんでしょう。だってなんだか後ろから見る背中が喜びに震えているように見えるんだもんね。
焦ったのがAさんです。
「どうしよう~、本当にチョコが入ってると思ってるかも」とおろおろし始めます。
はぁぁぁ~~、Aさんとはそんなに仲がいいわけでもないけど止めなかった私も悪いしなぁ。それよりも罪のないB君が可哀相で仕方ない。
私は生物の先生に渡そうと思って持って来ていたどこにでもある板チョコをカバンから取り出して隙をみてB君の机に中に放り込みました。
「これでいいことにしよう」いいかどうかは分かりませんが取り合えず誰かからチョコレートを貰えたという事実が大事。空っぽの箱はこの際知らん。B君がどう思うかは分かりませんがこの時はこれくらいしか思いつかなかったのです。
Aさんは途端に笑顔になって何もなかったように帰っていきました。
次の日、B君は機嫌が良かったようなので一安心しましたが、よく考えると何で私がこんなことをしないといけないんでしょうか。解せぬ。
私としてはチョコレートをあげたのに誰からもありがとうとお礼を言われない虚しいバレンタインの思い出となっただけです。
そしてバレンタインの悲劇はこのあと高2、高3と繰り返されるのであります。
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