第32話 小劇団の女優さん

 デザイン事務所で働いていた時の同僚に小劇団に所属している女性がいました。Aさんとします。

 

 ある日、同じ所属劇団の女優さんが映画に出たので一緒に観に行こうと誘われました。私は映画が大好きなのでもちろん断る理由などなく次の日曜に行こうと待ち合わせの約束をしました。


 そして当日、ある駅で待ち合わせて都心ではあるけれど辺鄙なところにある映画館まで行きました。

 

 大きな公園があり近くには池もありましたが人通りがほとんどなく若い女の子が二人して歩いているのが妙に浮いて見える通りです。


 都心にこんな所があるのかと驚いた覚えがありますがどうやらそこでしか上映していないとのことでした。


 結構なマイナー映画なのかしら? と、思いながら半地下と2階になっている映画館の前に来て目が点になりました。


 2階は普通のポルノ、半地下はガチな男性同士のポルノでした。


 私は驚いてえって声を上げて


「ポルノに出たの?」とオブラートに包みもせずに今思うと失礼な物言いで聞いていました


「違うよ~、ゲイの方だよ、主人公の妹役」


 私は「主人公の妹役って割といいよね」と言った後にはっとして


 いや待て、そっちかよっ。


 この頃にBLという言葉はまだありません。同性愛の事は知っていましたが、少年愛を描いた少女漫画を読んだ事があるくらいで全く興味がなかったのです。今ではどっぷり腐女子ですがガチのゲイものは今でも私の守備範囲ではありません。

 

 話を戻すと、映画の看板を見ただけで卒倒しそうでした。綺麗とはいえない男性同士の絡みを大画面で……無理無理無理無理


 どうしよう、入りたくないよぉ、でも私が入りたくないって言ったらこの人の事だから一人で入りそうだし、ここで一人残されるのも怖い。


 そんな私の困惑をよそに、Aさんは素知らぬ顔をして看板に見いり友達の名前を探しています。私は横で怯えた小動物のように周りを見ながらびくびくと怯えておりました。


 そうこうしているうちに、ちらほらと客らしき男性が映画館に近づくも私たちに気が付いて踵を返して去って行きます。営業妨害もいいところです。


 私はとりあえずAさんに他のお客さんが入りずらそうだからこの場を離れようと提言し、映画館から少し離れた所にあるベンチに腰を落ち着けました。


 するとAさん、好奇心丸出しでベンチの背もたれに隠れながら映画館の入り口を見張り、


「あのリーマンどっちに入ると思う?」とか「うわ、あのおじさん下に入ったよー」など、聞かれたらどうすんだというような事を喋り出します。

 

 変わった人だとは思ってましたがちょっとこの豹変ぶりはどうなの? どうやって止めようかと思ってAさんを呆れてみていたら


「そう言えば知ってる? 私ちゃん、この公園って発展場だよ」


「????? はってんばってなんですのん?」


(ご存知ない方はググって下さい)


 かくして発展場の意味を教えられた私はAさんの手を引いて元来た道を引き返しました。


 そしてその後、私はゲイの何たるかを教えようという謎の熱意を持ったAさんに連れられて「アナザー・カントリー」や「モーリス」などイギリスの美形俳優が出ているゲイ映画を一緒に観に行く事になり、なんだこの世界は!と、新たな扉を開くのでした。


 スパーーーン ←勢いよく扉が開く音

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