Blue Moon

有理

Blue Moon

「Blue Moon」


愛って。


潮見 由実(しおみ ゆみ)

原 紗栄子(はら さえこ)

白石 礼 (しらいし あや)


由実「紗栄子ー!こっちこっち!」

紗栄子「ああ、ごめん。遅くなって」

由実「全然。礼もまだ来てないしさ。」

紗栄子「あ、そうなの?」

由実「もう20分も1人で待ちぼうけしてた。」

紗栄子「ごめんごめん。」

由実「ほら、何飲む?ワイン?」

紗栄子「じゃあ白」

由実「すみませーん。」


紗栄子「でも久しぶりだね。由実。」

由実「本当。佐和子の結婚式以来?卒業したらなかなか会わないもんだねー。」

紗栄子「そうだね。佐和子以外と同級生会うことないな」

由実「既婚者になっても相変わらずくっついてんのか佐和子」

紗栄子「こっち帰ってきてからひっきりなし。鬼のように連絡くるよ」

由実「紗栄子が結婚して地方行ったって知った時、佐和子凄かったんだから。もう大泣き。」

紗栄子「はは。ごめん。」

由実「なんでそんなに懐いてんだか。」

紗栄子「私も聞きたいよ。」

由実「結構邪険に扱ってるよね?」

紗栄子「その筈なんだけど。」

由実「なんか惹かれるもんあるのかー?」

紗栄子「どういう意味よ。」

由実「不幸オーラに惹かれたか。」

紗栄子「あー。失礼なこと言う。」

由実「あははは。ま、今から来る奴も中々のオーラ使いだしさ!」

紗栄子「恋人いない歴イコール年齢の奴に言われてもねー。」

由実「うっ!仕返しくらった!」


礼「すみません、生二つ。」

紗栄子「あ、礼」

由実「席着く前に注文してるよあいつ」

礼「ごめんごめーん。遅くなって。」

紗栄子「久しぶり」

礼「紗栄子ー。久しぶり。」

由実「あんたさ、普通席に着いてから注文するんだよ。」

礼「あ、お兄さーんここです。ここ、」

紗栄子「相変わらずだね。」

由実「今日鈴音ちゃんは?」

礼「実家よー」

由実「連れてくればよかったのに!」

礼「やだやだ。グラス数えられちゃうから。」

紗栄子「ははは、できた子。」

由実「てか、礼また痩せた?」

紗栄子「本当。この間の結婚式でも思ったけど。」

礼「え?ダイエットばれた?」

紗栄子「いや、ダイエットならいいけどさ。」

由実「うん。最近飲みすぎてんじゃない?」

礼「んー。今冷蔵庫に4本までしかビール冷やせないの。」

由実「は?なんで?」

礼「冷蔵庫ちっちゃくてさー。あんな冷蔵庫使ったことないわー。」

紗栄子「冷蔵庫?」

礼「あ、引っ越したのよ。」

由実「わざわざ小さい冷蔵庫買ったの?」

礼「いや、元々あったのが。」

紗栄子「…え?全然掴めない。家電付きの物件?」

由実「順序立てて喋りなさいよ。」

礼「あれ?言ってなかったっけ?付き合ってる人いて」

由実「え?!」

紗栄子「由実声大きすぎ」

由実「誰?また碌でもない奴じゃないでしょうね。」

礼「またそうやって、碌でもないのは私だってば。」

紗栄子「礼しっかりしてるイメージあるけど?」

由実「男を見る目がなさすぎるのよ。離婚した時だって最悪でさ」

礼「由実。紗栄子だって経験してんだから。」

由実「うわ、2/3バツついてんじゃん。」

紗栄子「重々しいとこなのに、ズバッと言うよね。」

由実「だって結婚って人生の墓場でしょ?」

礼「いや、意味違うし」

由実「ゾンビじゃん。墓からでてきたら。」

紗栄子「何言ってんの。」

由実「あ、でも本当。ゾンビみたいだった。礼。」

礼「…なに?私、生き返ったの?」

由実「まあ、ある意味?」

紗栄子「そんなに泥沼だったんだ。」

由実「あんた達みたいな友達が周りにいたらさー、結婚にいいイメージ全く持てない。」

紗栄子「あはは。確かに」

礼「そりゃ同感だ。」

由実「で?紗栄子は?」

紗栄子「ん?」

由実「いつの間にか結婚して、いつの間にか離婚して帰ってきたじゃん。」

紗栄子「まあ、ね。」

礼「確かに。メッセージの名前が変わったから結婚したんだーって思ってたけどいつの間にかもどってたもんね。」

由実「佐和子じゃないけどさ、連絡くらいくれてもよかったのに。」

紗栄子「うん。ごめん。」

由実「泥沼?」

礼「こら、由実。」

紗栄子「ううん、私の方は全然。子供もいなかったしさ。」

礼「そっか。」

由実「あーあ。結婚、牢獄みたいで夢も希望もないなー。」

礼「夢見る前に現実を見なさい。」

紗栄子「ごもっとも」

礼「万年片思いのくせに。」

紗栄子「え?そうなの?」

礼「そう。でも、一向に相手言わないの。学生の頃からだよ。ずっと黙ってんの。」

由実「墓場まで持っていくんだ!」

紗栄子「結婚せずとも人生の墓場。」

礼「うまい!」

由実「もー。すみませーん生2つお願いします!」

礼「あら、気が利くー。」

紗栄子「2人ともペース早すぎ。」

由実「私は可愛いもんよ。」

礼「私は、って何?同じでしょ。」

由実「いや、駆けつけ一杯一気飲みする奴と一緒にしないでよ。」

紗栄子「2人ともだよ!由実だって私たちが来る前から飲んでるしさ。」

礼「ははは、お互い様」

由実「きー!ムカつく!」


紗栄子「あ、ねえ。それで礼の冷蔵庫の話は?」

礼「え?」

由実「あ、そうだそうだ。新しい彼氏。」

礼「ああ、そう。今、半同棲的な。」

由実「鈴音ちゃんは?」

礼「一緒だよ。今日も一緒に実家。」

紗栄子「一緒に実家?!」

礼「うん。」

由実「…ヒモなの?」

礼「いやいや、ちゃんと私より稼いでいらっしゃいます。」

紗栄子「ちゃんと職についてるんだ。」

礼「うん。そこはご安心を」

由実「いやー職どうこうの話じゃないんだよ。前の奴だって公務員で安定した暮らしーって言ってたじゃん」

紗栄子「公務員だったんだ。」

礼「そ。」

由実「連絡取ってんの?」

礼「誰と?」

由実「元旦那!」

礼「まさか、とらないよ。」

紗栄子「全く?」

礼「全く。」

由実「そんなもんなの?」

紗栄子「いや、私はたまに連絡くるよ。」

礼「え?!何話すの」

紗栄子「え?普通に、台風くるから気をつけてとか、親戚からみかん貰ったから送るねとか、」

由実「仲良」

礼「本当、円満離婚って存在するんだ。幻想都市かと思ってた。」

紗栄子「円満って言うのかな。離婚に円満とかはないんじゃない?」

礼「まあ確かに。離婚してる時点で円満な関係ではないか。」

由実「こうも違うかね。同じ離婚って言ってもさ。」

礼「世界は広いな。」

紗栄子「あ、でもこの間、向こうのお兄さんがどうのって連絡きた。」

由実「まだ家族付き合いしてんの?」

紗栄子「ううん、お兄さんとは殆ど面識ないんだけど由実の会社、」

由実「ん?」

紗栄子「少し前、亡くならなかった?女性。」

由実「…」

紗栄子「三沢、」

礼「…はい、その話はそこまで。」

紗栄子「…ごめん。」

由実「いや、いいよ。」

礼「…世間は狭いな。」


由実「ねえ。こんな酒の場で話すような話題じゃないんだけどさ。」

礼「何?勿体ぶって。」

由実「愛って、何だと思う?」

紗栄子「…」

礼「…」

由実「…なに、その変な顔。」

紗栄子「変なこと聞くなー、と思って。」

礼「聞く人、間違ってんなーと思って。」

由実「ちょっとシリアスな雰囲気だったから、勇気出して聞いたのに。」

紗栄子「愛かー。愛ねー。」

礼「んー。」

由実「聞いといてなんだけど、私はさ、ほら片思い続けてるようなやつじゃん。」

礼「うん。」

由実「そんな私が思う愛ってやつはさ。Win-Winな関係が前提としてあってどっちも、天秤が合う相手だからこそ生まれるもんだと思うわけ。」

紗栄子「うーん。難しいね。」

由実「そう。難しいんだよ、愛って。希少価値の高いもの。誰もがみんな生まれた時から平等に貰えるもんでもないじゃん。」

礼「そりゃ、確かに。」

紗栄子「生まれた瞬間、生まれてくれてありがとうっていう愛くらいは貰えるんじゃないの。」

礼「誰もが貰えてるわけじゃないと思う。」

由実「…」

礼「全く胸張って言えることじゃないけど、私はあげられなかったから。」

紗栄子「礼、」

礼「今は、そう思ってるよ。でも、それは当たり前じゃない。」

由実「愛って目に見えないじゃん。そのつもりで接してても、受け取る側がそう思ってなかったら、愛なんて無いも同然なんだよ。」

紗栄子「由実の思う愛は、対話が不可欠だね。」

由実「対話?」

礼「そうだね。お互い話すことができるなら、かけ違いに気づけるなら、愛が認識できるでしょ。」

由実「…うん。」

礼「でも、対話って難しいよね。同じ土俵に立てる状況ならいいけど。」

由実「難しい、な。」

紗栄子「…私は、本当の愛なんてないと思ってるよ。」

礼「意外なこと言うな。」

紗栄子「愛って、奉仕の心って思ってて。100%誰かのためにってあり得ないじゃない。」

由実「辛辣だけど、痛いとこつくね。」

紗栄子「絶対自分のためでしょ。回り回って自分のため。それを誰かのためって偽善の皮被せてるのが愛だよ。だってさ、そうでも思ってないと妬みで狂いそうになる。なんで私だけ持ってないんだって、さ。」

礼「…紗栄子は欲しくないの?」

紗栄子「あるんだったら、そりゃ欲しいよ。欲しくなっちゃうよ。だからない、って。思ってる。」

由実「私も、そうかも。」

紗栄子「…」

由実「欲しいって、思っちゃうな。」

礼「私はね、愛って雨みたいなもんだと思ってるよ。」

紗栄子「雨?」

由実「詩人的なこと言ってる?」

礼「雨ってさ、恵みの雨っていうこともあれば水害引き起こしたりもするじゃない?」

紗栄子「うん。」

礼「カラッカラで今にも枯れちゃうよーって湖にはそりゃあ恵みの雨よ。いっぱい愛されたい!ってなる。でも片方は小さいコップでさ、もう半分くらい水が入ってるのにいっぱい注がれたら溢れてそのうちコップも割れちゃうよ。」

由実「…割れちゃったんだ。あんたは。」

礼「粉砕!玉砕!大喝采!」

紗栄子「薬みたい。礼の言うそれだと。」

礼「そうだね。薬、うん。薬だね。」

由実「overdoseしちゃうって?」

礼「うん。愛って、溺れちゃいけないからさ。」

紗栄子「…難しいね。」

由実「でもさー。何で欲しくなっちゃうんだろうね。」

礼「生きてるからだよ。」

由実「あーあ。愛されたい。」

紗栄子「本当ね。愛されてみたい。」

礼「迷える仔羊さん。愛は求めるだけじゃいけませんよ。」

由実「堕ちたシスターに言われたくないな。」

紗栄子「でもそうかもね。由実が言ってたみたいに平等な関係じゃなきゃうまく行かないよね。」

由実「…同じくらい重い愛とか、今世じゃ厳しいかも」

礼「愛って罪だねー。」


紗栄子「私達もいい歳だし、そろそろ落ち着かなきゃね。」

由実「あれ?紗栄子ってもうすぐ誕生日じゃない?」

礼「え!」

紗栄子「そう、今月末」

礼「わー、今日サプライズで前祝いすればよかったー!」

紗栄子「いいよ、子供じゃないんだから」

由実「今すればいいじゃん、サプライズじゃないけど。ほら、デザートあるよ?」

紗栄子「ありがと。」

礼「ね、前祝い、シャンパン頼んじゃう?」

由実「いいねー。パーっと!ね!」

紗栄子「それ言い訳に飲みたいだけじゃない?」

礼「まっさかー!」

由実「乾杯しよ!」

紗栄子「私の誕生日に?」

礼「それと、私達の愛に!」

由実・紗栄子「乾杯!」


礼N「カチコチ、と。私の期限はすり減っていく。」


紗栄子N「誰かを愛してみたいだなんて、思えるだろうか。」


由実N「彼女に捧げられる愛は、今世しかないのだから。」


礼N「察されないよう、懸命に」

紗栄子N「上手く笑えているだろうか」

由実N「浴びるアルコールがキラキラ弾けた。」

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Blue Moon 有理 @lily000

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