第28話 貫井聖夢のイタい過去1 ~あるいは、イキりオタクが恋に落ちるまで~
あの頃の俺――まあつまり、麻栗と知り合うよりもちょっと前の俺って意味なんだが、悪い意味で『イタい奴』だったと思う。
今にして思えば、他人は自分を演出するための道具だと思っていた節があるし、この世界の主人公は俺なんだって無邪気に信じ込んでいた。
少しばかり腕っぷしが強く、おまけに気性も今と比べれば幼い激しさに満ち溢れていたというのもあるだろう。
それでニチアサの戦隊ヒーローなんぞに憧れていたのだから始末に負えない。
要するにその頃の俺は……正義ってのは、悪いやつをコテンパンにぶちのめしてもいいもんだと思っていた。
***
「さなちゃんを虐めるな!」
そんな俺の声が教室に響いたのは、三年生から四年生に上がって間もない頃のことであった。
当時、自分のことを正義の味方だと信じて疑わなかった俺は、クラスの女子を泣かせていたとある男子(
悪は問答無用でぶちのめしてよい、徹底的にやっつけてよい、というニチアサ教育の賜物により、俺は正義の拳を振るうことに一切の抵抗がない系のヤバい奴であった。そんな奴が、手加減などという言葉を知る由もない。
哀れ、クラスの女子(
それから、鼻血を流して床に伸びる尊くんに馬乗りになっていた俺は、彼に向かってこう告げていた。
「分かったか!? 二度と悪いことするんじゃないぞ!」
……恥ずかしい。めっちゃくちゃ恥ずかしい。
目の前にこのガキがいたら、その勘違いしきった根性を叩き直してやるために顔と頭の形が変わるまでどつきまわしてやりたいと本気で俺は思うのである。
***
当然、俺の行いが問題視されないわけがなかった。
尊くんの取れかけていた乳歯はこの一件でぽっきり根本から抜け落ちてしまっていたし、さんざんに殴ったせいで顔や身体は痣だらけ。
先に尊くんが女の子を泣かせていて、それを俺が守ろうとしたと主張したところで、誰がどう見ても「やりすぎ」であることに変わりはなかった。
尊くんの家に菓子折りを持って頭を下げに行くのは当然のこととして、親からも先生からもさんざんに注意されたし説教された。その時母親が、「うちの子、頭に問題があるんじゃないかしら……」としきりに不安がって担任教師にしきりに相談を持ち掛けていたのをよく覚えている。
とはいえ、それはまあまだ良いだろう。これだけなら俺が悪いことをして大人に叱られておしまい、幼い頃のイタいけど教訓深い思い出の一つ、ぐらいに収まってくれたはずである。
通り一遍の謝罪巡礼と大人のお叱りが終わった後が酷かった。
なんとある日、「貫井聖夢くんに悪いところを自覚して直してもらう会」が放課後のホームルームで開かれたのである。
***
「貫井聖夢くんに悪いところを自覚して直してもらう会」がいったいどんなものかというと、要するに断罪集会である。
クラスメイト一人ひとりに、俺の悪いところを一つずつ挙げてもらって、それに対して俺が「分かりました、直します。反省します」と返すだけの集会である。
ちなみにこの会の主催者は当時のクラス担任で、「これは一人ではなくみんなの問題です! ちゃんとみんなでこの問題を共有して同じ過ちを誰も起こすことがないようにしましょう!」というのが、担任教師である彼(
これは非常に効果的で、俺のメンタルは無事ボコボコにされ、クラスメイト全員から「こいつは関わったらヤバい奴なんだな」と認知されることとなった。そんな人間に友人などできるわけもなく、翌日からは一人ぽつねんと過ごさざるを得なくなった。
こうして俺は、一時の拗らせた正義感によって、順調に小学四年生の滑り出しから孤立と孤独が決定づけられたのであった。
***
折しもそんな時である。
俺が幼い頃の麻栗と、図書室で運命的な出会いを果たしたのは。
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ちょっと親しらず抜くのに入院しており更新滞っておりました。大変申し訳ございません。
この物語はもうちょっと続くはずだと思うので、これからもお付き合い願えれば幸いです。
あとね、感想とか感想とか感想とかね、いつも読ませていただいております。励みになってます。他の何よりも読者様方からの感想いただくのがモチベーションに繋がっておりますので、これからも応援よろしくお願いいたします。
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