第16話 休憩は大事

「むぅぅ……なんでおばさんも麗華ちゃんも、聖くんが綺麗だってことが分かってくれないのっ」


 学校へ行く途中も、麻栗はぷんすかとそんな風に怒り散らしていた。

 どうやらその怒りはなかなかに激しいらしく、普段と比べて語調は随分と荒っぽい。


 そんな彼女をどうどうと宥めつつ、どうしても拭えない疑問があり俺は訊ねた。


「綺麗、綺麗ってさっきから俺のことを言ってくれるけどさ……麻栗には俺のどこが、どんな感じに綺麗に見えてるんだ?」

「そんなの、全部だよっ!」


 などと即決する麻栗。


「全部全部聖くんは綺麗じゃん! ほら、太くて堅くておっきくて、わたしの奥までしっかり届く……そういう綺麗さが聖くんにはあるんだよ!?」

「どんな綺麗さだよ! あまりにゲテモノな美的感覚に聞いた俺のほうがドン引きだわ!」

「聖くんが聖くんのこと分かってくれない!?」


 ガーン! とショックを受けたような表情になる麻栗だが、無理なことを言わないでほしい。

 だって太くて堅くて大きいとか、そんなの完全にチ〇ポの話じゃん。そんなもんを綺麗とか言われても、そんなもんコメントに困る。


「……ってか麻栗。ちなみに聞くけど、俺と、俺のちん〇ん、どっちが好きなの?」


 興味本位でそう質問してみたところ、


「どっちも大好き!」


 めっちゃハキハキした様子で彼女はそう答えた。


「そ、そうか……」


 自分から聞いておいてなんだが、こうもはっきり大好きだと言われるとさすがに照れるし、はっきり言って嬉しい俺がいる。冷静になって考えてみると「チ〇ポと同列ってそれどうなん?」と思わないでもないが、それも部類としては幸せな悩みってやつだ。


 麻栗の切り返しに内心照れていると、彼女が熱を込めて語り出した。


「どんな風に好きかっていうとね、まず聖くんがぎゅっとしてくれる時の体温が好き! 痛いぐらいにハグされるとね、心臓と心臓の音が重ねって、トクントクン、って脈打つのがね、まるでわたしが合わせた肌と肌の上から徐々に聖くんの中に沈んで行ってそのまま融合していっているかのような気がして、それがうんっと幸せでね――」

「待った待った待った! 待て麻栗、それはいけない!」

「そしてね、聖くんの心臓がうんと力強く鳴り始めるとね、聖くん自身もわたしを求めるかのようにおっきくなってくれるのが嬉しいの。パンツの上から、太腿でぐりぐりって挟み込むようにしてあげると、ビクンって反応する聖くんも可愛くって――」

「やめろ麻栗ぃぃぃぃぃ! ここ、往来のど真ん中!」

「はぇ? ……っ、あ、ご、ごめん聖くん、そうだよね……こんなところでする話じゃなかったね……♡」

「お、おう、分かってくれたか……ほんと気を付けてくれよ、頼むから」

「だから、ね♡ 聖くん♡」


 気づけば麻栗は、とろんとした目つきで俺のことを見上げていた。

 ……あ、やべ。これ完全にスイッチ入っちゃってますね?

 絶対に逃さない、とでも言わんばかりに二の腕もがっつりホールドしてきてらっしゃいますね?

 おまけに下半身までぐりぐり俺の体に押し付けてきて……うーん朝からスケベすぎやしませんかね麻栗さんや。


 そんなあからさまな発情ムーブをかましつつ、彼女は俺の耳元へと唇を寄せてきて言った。


「……そこの公園の茂みなら、誰にも邪魔されないでこの話の続き、たっぷりデキるよ♡」

「……っ」

「聖くんのかっこいいところ……たくさん見せてほしいなぁ♡」


 ま、まあ、うん……。

 ここで無理に我慢をさせて、学校でまた襲われたりするのもリスキーだよなぁ?


 それに、恋人に求められたら応えることが彼氏の務め――。


「――って、んなわけあるかぁ!」


 頭に弾けた煩悩を振り払うようにして首を振ると、俺は必死で理性をかき集め麻栗の言葉を拒絶した。


「ダメだダメだダメだ! 朝っぱらからスケベに走っちゃいけません! 恋人同士であるとはいえ、世の中には最低限の節度ってものがだな――」


 どうにか取り戻した冷静さでもって、ムラついてしまった麻栗をどうにか宥めようとしたところ。


「~~~~~~~~~~~~~~ッッッ♡♡♡」


 俺の体に服の上から股間を擦り付けていた麻栗が、声にならない声を上げて一際激しく体を震わせていた。

 ビクビクビクンッ! と俺に取り縋るようにして激しく痙攣させたかと思うと、そのままぐったりと全身から力を抜き、こちらへとしなだれかかってくる。


「ん……ふぅぅ♡ 聖くぅん♡ んふっ、好きぃ♡」


 それからさらに、荒く乱れた吐息を漏らしながら夢見がちな口調でそう呟く。


 そんな彼女の姿を見て、俺は察した。


(コイツ、一人で勝手に満足しやがった)


 ――と。


 それに若干イラついた俺は、歩くのもままならない彼女をすぐ近くにあった公園の茂みでしばらく休憩・・させてやりましたとさ。


 おかげで学校には危うく遅刻しそうになったが、疲れた時には体を休めることも大事だから仕方ない。

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