第17話 ちょっとした惚気語り

 どうにか朝のホームルームに間に合わせ、そしてそのホームルームが終わったタイミングで。


「おっす! 聖夢、今日もギリギリだったなー」


 一限目が始まる前の時間に、DTがそう話しかけてきた。


「……俺にも色々やることがあるんだよ」

「そんなこと言って、付き合いたての彼女と朝っぱらからイチャイチャしてるだけじゃねーの?」

「バッ、おまっ、んなわけねーだろ!」


 いきなり図星を突かれて、思わずキョドってしまう俺。

 そんな俺を見て、DTがニヨニヨと野次馬根性全開の笑みを浮かべていた。


「おや? おやおやおやおや、これはどうしたことでしょう? 随分と声が上擦っているようですねぇ? まさかまさか、本当に?」

「……そのムカつく表情と言い回しをやめろ」

「はは! ま、いいじゃねーか。彼女と仲良くしてるってのは普通にいいことだと思うぜオレは。惚気話を聞かされる方が、彼女の愚痴聞かされるよりか千倍マシだしな!」

「あ、マジで? 実は麻栗ほんっと可愛くてさぁ……最近毎朝起こしに来てくれるんだよな。麻栗の声で起きるのマジで幸せすぎてさ、ぶっちゃけ朝から超テンション上がるんだよな。麻栗マジで最高に可愛い。世界で一番可愛い」

「いきなり語り出すじゃん。なんなんお前……」


 ドン引き顔をDTに向けられた。


「いやだって、惚気話なら聞いてくれるって言うから……」

「おかしいな、オレは惚気話の方が愚痴聞かされるよりはマシだって話をしたつもりなんだけど……」

「つまり麻栗の可愛いところを聞かせてくれっていうことだろ? しかし弱ったな……麻栗には可愛いところが多すぎてなにから語ればいいのか分からん」

「壁に向かって存分に一人で語り散らしてくれ」


 付き合いきれん、と言いたげな様子で、DTが教室の後ろの壁を指差す。

 随分と付き合いの悪い親友である。これは後で、しっかりと惚気話をしてやる必要があるだろう。


 密かにそんな決意を固めつつ、俺はふと思い出したあることをDTに聞いてみることにした。


「なあDT。ちょっとさ、お前に聞きたいことがあるんだけど」

「うん? どうしたいきなり」

「俺ってさ……綺麗に見えるか?」

「???????」


 特大の、「なに言ってんだコイツ?」という視線が俺に突き刺さった。


「朝っぱらからめちゃくちゃキモいことを言われて、オレはどういう反応を返せばいいんだ?」


 と、口でもだいぶ辛辣なセリフが返ってきた。

 そのセリフで自分の言い方が悪かったことに気づいたが、ここはあえて悪乗りをしてみようと思い、俺は椅子に座ったままグラビアアイドルのような腰に手を当てたポーズを作ってみる。


 それからめっちゃキモい感じにしな・・を作って言ってみた。


「どう? 魅力的でしょ、わ・た・し♡」

「………………」

「待て待て待て待て!」


 無言でDTが踵を返して立ち去ろうとする。

 そんな彼の腕を掴んで俺は必死に引き留めた。


「ええい離せ! オレは変態の友人を持った覚えはない!」

「いやごめん悪かったってぇ! ぶっちゃけ今のは自分でもキモいと思いました! ちょっとだけ反省してるから許してくれ!」

「……ちょっと?」

「訂正します猛烈に。だからごめん許して? 俺お前しか友達いないんだよ」

「ったく……仕方ねぇなあ聖夢は……」


 DTはそう言ってため息を漏らすと、改めて俺と向き直ってくれた。

 それから、「で?」と話を促してくる。


「綺麗だのなんだの、キモいことをいきなり言い始めたのはまたなんでよ?」

「あーいや。実は今朝麻栗に言われてさー」


 朝の一件をDTに話す。


「ただ、麻栗が俺の何を指して『綺麗』とかって言ってるのかが分からなくてな。人に聞けばそれについてももしかしたら分かるかもしれんな、と」

「なるほどなぁ……」


 今度は納得してくれたようで、DTも腕を組み首を傾げた。


「確かに聖夢は、どちらかというとウザくてキモいけど人によってはそれが見ていて面白い、って感じだもんな。『綺麗』かと言われると、そんなことはまるでない」

「さらっとディスるのやめようぜ?」


 さっきのやっぱり根に持ってる? 否定できないのつらいじゃん……。


「まあでも、付き合い始めたばかりだしなぁ。惚れた弱みとか、彼女の欲目とか……まあ、お前に対して幻想抱いてたりするんじゃね?」

「幻想……か。まあ、それが妥当なところなのかもな」

「ま、せいぜい、麻栗ちゃんの中にあるその幻想とやらを殺さないように気を付けてやったらいいんじゃね?」


 そう言って、DTが他人事のようにからからと笑う。

 それからふと、真剣な顔つきになって。


「そうそう。気をつけろって話なら……もう分かってることかもしれないけど、周りの反応には注意しておけよ?」

「……なんだよ、藪から棒に」

「外から見てると、お前より村月嬢のがどう見ても危なっかしいからな」


 そう言ってDTがフッと笑う。


「人目をあまりに気にしなさすぎる。自分の価値に自覚がない。……他人事ながら、肝が冷えるぜ」

「……」

「オレはお前の親友で、聖夢のこと好きだから普通に祝福できるけどよ。哀しいことに偶像アイドルは、個人を愛しちゃいけないもんだと誰も彼もが思い込んでる」

「……」

「――っと、そろそろ授業始まるか。んじゃ、また後で」


 最後にニカっと笑うと、DTは自分の席へと戻っていった。


――――――――――――――――――――


お世話になっております! いつも読んでくださってありがとうございます!

今後の展開上必要となり、タイトルや設定等を一部変更することとなったのですが、それに伴い本日(2023年6月22日)にここまでのエピソードの全編修正を行わせていただきました! 必要に応じて読み返していただければと思います!


といっても、修正内容についてはあえて読み返す必要があるほど大きなものではありません(麻栗ちゃんが『清純派天才美少女クリエイター』になったということが分かっていればこの先読み進める上で支障のない程度の変更です)


読者様方の感想や感想、それに感想が普段の執筆の励みとなっております!

これからも応援よろしくお願いいたします!

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