第14話 俺と麻栗と朝の習慣

 突然だが、朝起きた時に真っ先にすることとして思い浮かべるものはなんだろうか?


 スマホの通知チェック?

 うがいと歯磨き?

 寝起きのコーヒー?


 最近の俺の場合は……。


「おい、麻栗」


 下半身に違和感を覚え目を覚ました俺は、被っていた布団を持ち上げ中を覗き込む。

 そして違和感の正体――いつの間にか忍び込んでいた麻栗へと告げた。


「朝っぱらから……な~にやってんだよお前は……」

「朝フ〇ラ!」


 麻栗のその回答を聞いて、俺は盛大にため息をついていた。


 麻栗と付き合い始めてから、すでに一週間が経っていた。彼女と付き合い始めて以来、その性欲の旺盛さには相変わらず驚かされるばかりであった。

 おかげで今こうしているように、寝起き一番で気づいたら性的に俺を襲おうとしている麻栗を注意するのもすっかり習慣づいていた。


 お袋なんかは、「麻栗ちゃんと付き合い始めてから早起きしてくれるようになってよかったわ」などと喜んでいたが……別にそんないいもんではない。

 うっかり寝過ごすと物理的に念入りに咥え込まれてしまっているので、目を覚まさざるを得ないだけである。


 別に麻栗とエロいことするのが嫌なわけではないが……彼女の場合、一度火が点くと収まるまでが大変なのだ。この間は朝から本格的にムラついてしまった麻栗の手で、学校へ行く途中に公園の茂みに連れ込まれて大いに冷や冷やさせられたものであった。


 とはいえ、朝からあまりハッスルしすぎると正直言って体力が持たない。

 今まさに俺のズボンを引きずり降ろそうとしている麻栗の手を止めながら、俺は彼女に言った。


「あのさ麻栗……こういうのはせめて夜まで待ってくれないか?」

「う、うん……わたしもね、その方がいいってことは分かっているんだけど……でもね? あのね? 実はわたし……」


 麻栗が真剣な目で俺を見つめ返してきながら、静かにこう切り返してきた。


「定期的に聖くん成分を摂取しないと死んでしまう病気に罹っているの」

「俺より学校の成績が良い麻栗なら知っていると思うが、そんな病気は存在しないぞ?」

「うん、今作ったの。具体的には二、三時間ごとに聖くん成分を摂取しないと、わたし唐突死しちゃう可能性があるのよ?」

「嘘の設定を、あたかも事実であるかのように語るのはおやめなさい」

「ちなみに聖くん成分を効率的に摂取するには、聖くんのミルクを飲ませてもらうのが一番なんだよ!」

「俺に下品な育児をさせようとしないでくれ!」

「大丈夫! 付き合う前からこんなこともあるかと思ってピル飲んでるから、ナマでヤりたい放題だよ!」

「そういうこと言ってるんじゃねぇ!」


 そんな風に言い合う間も、麻栗は俺のズボンを引きずり降ろそうと手からは力を抜こうとする気配がない。

 かといって、このまま麻栗の思う通りにさせたら、今日一日を俺が憔悴しきって過ごすことが確定してしまう。この一線パンツとズボンだけは、どうにかここで守り通す必要があった。


 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、麻栗がズボンを引きずり降ろそうとするばかりではなく、ぐいぐいと俺の下半身に胸の膨らみを押し付けてくる。

 すると当然、服越しに感じる彼女の体の柔らかさを知る俺は、それを想像してしまい下半身の方も「準備」をし始めてしまうわけで……。


「あはっ☆ 聖くんの聖くんがぁ……エロキャンし始めたぁ♡」


 テントを張り始めた俺の股間を眺めながら、麻栗がついにはぁはぁと荒い吐息を漏らし始めた。

 目つきもとろんと潤んでおり、理性よりも本能の方が彼女の中で勝り始めているのが分かった。


「ふふ……窮屈そう♡ すぐに楽にしてあげるからねぇ♡」


 ……マズい、これは非常にマズい流れだ!

 このままでは捕食されてしまう!


「ま、待て麻栗! 冷静になるんだ! 自分に負けてはいけない!」

「あ……」


 慌てて俺は麻栗の肩を掴んで腰から引きはがす。

 そのまま俺も麻栗と正面から向き合うようにして身を起こそうとするが……不安定なベッドの上で、大きく動こうとしたのが良くなかったのだろう。


 ギシッ、とスプリングの軋む音がするのと同時に、俺と麻栗の身体が傾ぐ。

 麻栗が背中から倒れ込みそうになるのを、俺はとっさに肩に腕を回すことで支えつつ、もう片方の手をベッドへとついた。


 そうなると、俺と麻栗の上下の位置関係が逆転してしまうわけで……すなわち麻栗が、俺に組み伏せられているような感じに見えてしまうわけで。


 そんな姿勢になっていることに気づいた麻栗が、うっとりと頬を染め、着ている服の前のところをブラジャーごとまくり上げ言った。


「……召し上がれ?」

「上がらねぇよ!? ってか、胸仕舞え胸! 朝っぱらからやることじゃねえ!」


 色ボケしやがっている麻栗の胸を隠そうと、彼女の服へと手を伸ばす。

 そして、麻栗の服へと手をかけたその瞬間。ガチャリとドアノブが音を立て部屋の扉が外から開かれた。


「もぉぉぉ! おにーちゃんさっきからドタバタとうるさい! ――あ」

「「……へ?」」


 文句を言いながら部屋に入ってきた我が妹――貫井麗華れいかと目が合ったところで俺は悟った。

 あ、これ終わったな――と。

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