第10話 イける子イけない子
しかし三人で食うことが決まってからが大変であった。
なぜなら三人で連れ立って歩いている最中、『清純派天才美少女クリエイター』として全国にその名が知れ渡っている麻栗は当然のことながら、実はめちゃくちゃ端麗な容姿のDTもまたやたらと視線を集めまくるからである。
俺たちの関係を知らない人間が見れば、美男美女カップルにおまけでついてくる平凡野郎(俺のことである)って感じに見えているだろうことは間違いない。
「うおっ! ナマ推卷莉子、歩いてるだけでめっちゃ輝いてんな……」
「隣にいるのもすっげぇイケメンだな。やっぱあれぐらいじゃないと、莉子りんとは釣り合わないんだろうな……」
「……てかあの美男美女に挟まれてるモブはなんなんだ? 景観乱しすぎだろ」
実際、そんな風に囁き交わす言葉が周囲から聞こえてくる。麻栗の知名度の高さと、そんな麻栗に引けを取らないほどに人目を惹くDTの容姿端麗さが、窺い知れる内容であった。
そんな視線と声に晒されて、いたたまれない気持ちにならないわけがない。
実際、「俺だけ後からついてっていい?」とぼそりと言ってもみたのだが、麻栗に服の袖を掴まれて笑顔で「ダメです♪」と言われてしまった。
DTはDTで、「お前がいねえと場が持たねえんだよ」と哀願するような目を俺に向けてきたし。男にそんな顔されても可愛くないからやめてくれ。
まあでも実際、麻栗とDTが二人きりでいたところで、めちゃくちゃ悪い空気が流れる展開にしかならないのは確かにその通りなんだよなぁ。
なんせ現在進行形で、
「ねえねえ、麻栗ちゃんって普段は学食派? 弁当派?」
「……」
「聖夢とは幼馴染だって聞いてるけど、何がきっかけで二人って仲良くなったの?」
「…………」
「いやー、しかし嬉しいね。学園一の美少女とこうして飯食う機会が巡ってくるなんてな。持つべきものは美少女と知り合いの親友だ!」
「………………」
「……ねぇ聖夢、オレつらいんだけど」
……などと、会話が成立していない有様なのである。
めげずにコミュニケーションを取ろうと必死なDTなのだが、それに対し麻栗は鉄壁の無反応。「貴方なんかと話すことなどありませんが?」という鋼の意志を感じさせる面持ちで、徹底的に無言を貫き通していた。
挙句の果てに、情けない声でDTが俺に泣きついてくる始末である。
これには俺も思わずため息を漏らす。俺以外の男に対する麻栗のこういった態度は今に始まったことではないが……やっぱりあんま良くねえよなぁ。
「麻栗……もうちょっとでいいから、DTに愛想よくしてやるわけにはいかないのか?」
見かねて俺が麻栗にそう囁きかけてみるも、
「……? わたしには聖くんがいるのに、なんでわざわざ他の男の子に愛想よくしないといけないの?」
と、心底不思議そうな目を向けられてしまった。
その声が漏れ聞こえていたのだろう。麻栗とは反対側、俺の左隣を歩くDTが、がっくりと肩を落としていた。
「……麻栗がすまんな? 俺以外の男子にはなんか全然懐かなくて……」
「はは……いや、いいんだ、全然気にしてねーから……これっぽっちも傷ついてねーからよぉ……」
疲れた声でDTがそう返してくる。
言葉とは裏腹に、めっちゃ傷ついてそうなリアクションであった。
「いやすまん、ほんっとすまん……」
それしか俺が言えないでいると。
「……もっとわたしのこと構ってくれてもいいんだよ、聖くぅん」
今度は反対側から、そんなことを言って麻栗が腕を引っ張ってくる。
そのまま二の腕を抱き寄せられ、二つのたわわの間にふにょんと挟まる。そちらへ顔を剥ければ、麻栗がうっとりとした眼差しで俺の顔を見上げていた。
おまけに吐息も荒く乱して、腕を抱くばかりかこっそり下腹部まで俺へと押し付けたりしてくるわけで……歩きにくいことこの上ない。
「聖くぅん♡ もっとくっついて歩こ♡ ね♡ ね♡ イイでしょぉ♡」
「や、やめろこんな人前で! はしたないぞ!」
「そうなの……聖くんの傍にいるだけで、わたしどんどんイケない子になっちゃうのぉ♡」
「俺のせいみたく言うのをやめろ!」
「まあ、聖くん相手だとわたしはいつだってイけイけなんだけどね♡」
「時と場所はわきまえような!?」
「だったら今から……二人で一緒に別のとこイっちゃう?」
「行・き・ま・せ・ん・!」
真昼間からなんつーこと言うのこの子!?
あと人前でこんなくっつかれたりそんなこと言ってたりすると、リアルタイムで体裁が悪化していくんだが!? ほら向こうの男子は人を殺せそうな目を俺に向けてきてるし、あっちの女子は「え、そっちとなの!? ありえな~い!」って感じで驚いてる表情になってるじゃん! 文〇辺りにリークされたら、『美少女クリエイターと公然猥褻!? Sランク美少女をかどわかす平凡な少年のマル秘ナンパメソッド』みたいな感じで記事にされちゃうから!
そりゃ確かに、体裁とかつり合いとか知るか! 好きなヤツに告って何が悪い! って勢いで告白したけど……麻栗の仕事や知名度を考えると、こうした過剰接触も精神衛生上あまりよろしくないわけで。
まあ端的に言ってしまえば、できれば人前では自重してもらいたいと願ってしまうわけである。
そんな風に、俺が願っている一方で。
「く、くぅぅぅ! オレも彼女ほしい! そんな風に愛されてえ! クソ! 誰でもいいから付き合いたい! 付き合いたいぃぃぃぃ!!」
とあるイケメン(中身は童貞)が本気で男泣きしながら、愛を求めて嘆いているのであった。
…………………………あーうん、なんかほんと、マジでごめんな?
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