第8話 もうゴールしてもいいよね
「こんなところに連れ込んで……聖くんもわたしとシたくてたまらないってことだよね?」
「おいやめろ麻栗声出すな」
個室の外に人がいるんだぞ。
そんな状況で話しかけられたら、ここに麻栗がいることがバレてしまう。
そんなことになったら、「天才美少女クリエイターを男子トイレの個室に連れ込んで無理やり迫ったやつ」として日本全国に俺の悪名が轟き渡ってしまうことになる。これはヤバい。字面だけでヤバい。『推卷莉子』のファン連中から翌日には
俺の身の安全のためにも、今後も快適な人生を送るためにも、とにかくこの場をやり過ごす必要があるのであった。
なんて……そんな風に俺は考えているというのに。
「うん♡ 声はガマンするからぁ……聖くんのおっきぃの、奥にちょうだぁい♡」
麻栗の方は「声出すな」という言葉をどう曲解したのか、ハァハァと息を荒げながらそんな風に耳元で囁きかけてきた。
「ち、違う! そういう意味じゃない!」
「違うって、どうしてぇ……? 聖くんの聖くんは、こんなにたまらなそうにしてるのに……」
「たまらなそうにってなにが……はっ」
麻栗の視線の先には、モロ出しにしたまましまい忘れた我が息子が「準備万端でござる!」とばかりに社会の窓から首をもたげていた。
「ち、ちがっ、おま、これは……これはお前が誘惑するから……」
「そうなんだぁ♡ じゃあ……わたしのおかげでこんなに立派になってくれたんだね? 嬉しい♡」
「こんなことで喜ぶなぁ!」
デカくなった息子を慌ててズボンの中へと押し込みつつ、声を潜めて麻栗に突っ込みを入れる。
てかヤバい、俺の息子が反抗期なのか、頑なにズボンの中に戻ろうとしない。
それどころか、戻そうとすればするほど、いやいやをするかのように右に左へと首を振り始める有様であった。
「聖くぅん……そんなに立派な日本刀、抜き身のままじゃつらいよね? だからちゃんと、鞘に納めてあげないと♡」
「そ、そんなことは分かっている! だから今必死でズボンの中に戻そうとだな……」
「違うよ聖くぅん♡ その子の鞘はぁ……ズボンの中じゃなくて、こーこ♡」
そんなことを言いながら、麻栗が自分の下腹部を指先で撫で上げる。
それから俺の耳元で、濡れた声音でこう囁きかけてきた。
「聖くんのご立派様を納める鞘はぁ……わたしの中以外にありえないんだから♡」
「学校の、しかもトイレでハメるのは、どう考えても立派じゃねえんだよぉ!」
麻栗の妄言にそう返しつつ、
「……なんか、話し声聞こえてこねぇ?」
「……ッ!?」
個室の外から、そんな言葉が聞こえてきた。
「え、マジ?」
「ああ。なんか、男と女? っぽい声が聞こえてきたような……」
「いやいやエロ漫画かよ。ここ男子トイレだぞ?」
「そうなんだけど……気のせいかなぁ」
ナニをしまうことすらできていない状態で、思わず俺は硬直する。
そんな俺を不思議そうに見上げて、麻栗が囁きかけてきた。
「あれ、どうしたのぉ、聖くん? いきなり固まっちゃったりして……」
「しっ。静かに、麻栗! バレちゃうから!」
「わ、分かった。じゃあ……静かにヤるね?」
超小声でそう言いつけると、麻栗もまた小声でそう言ってこくこくとうなずく。
それから彼女は、言いつけ通りにしっかり口を噤むと……おもむろに未だにモロ出し状態だった俺の股間へと手を伸ばしてくる。
「ッッッ!?」
慌てて麻栗のその手の動きをインターセプトする。
俺に手首を掴まれて、麻栗は不思議そうな顔になると、こてん、と首を横に倒した。
その目がこう言っている。「なんでわたしの邪魔するの?」と。
そんな彼女に向かって、俺は慌てて首をぶんぶん横に振る。やめろ麻栗分かってくれ。
そんな俺の努力が実ったのか、はたまた幼馴染同士ということもあり以心伝心でも働いたのか。
麻栗は弾けるような笑顔を浮かべて、「分かった!」と言わんばかりに首を大きく縦に振る。
どうやら意図が伝わってくれたらしい。ひとまず胸を撫で下ろすが……次の瞬間、そんな俺の安心は再び裏切られることとなる。
なんと麻栗は、その場で
(待て待て待て待て待て待て待て!?)
再び俺は彼女の頭を両側から挟みこみ、必死でその動きを阻止すると、麻栗は目だけで俺を見上げて不思議そうな表情になる。
不思議なのは俺の方だけどな! なんでこの子、やっていいことと悪いことの区別がつかないの!?
そんなことされたら本当に俺ヤっちゃうよ!? 今も必死で理性を押さえつけて我慢しているんですが!?
ともあれ、改めて麻栗に必死で首を横に振り、NOサインを伝えようとする。
今度こそどうにか分かってくれ。そんな願いすら込めて、痛くなるほどに首を振った。
しばらくの間、麻栗はきょとんとした顔つきをしていたが、やがて「なるほど!」とでも言いたげに首を大きく縦に振る。
それからちょっとニヨニヨした感じの、ちょっとムカつく表情を浮かべ、俺のことを見上げてきた。例えるなら、「まったくもぅ、聖くんったらしょうがないんだからぁ♡」とでも言い出しそうな感じの表情である。
そんな表情を彼女が浮かべるのを訝しく思う俺の前で、おもむろに麻栗は立ち上がる。
それからくるり、と俺に背中を向けたかと思うと、そのまま便器をまたぐようにして足を広げ、ぐいっと俺に向かってお尻を突き出してきた。
それから片手をスカートの中に突っ込むと……次の瞬間、するり、と片方のヒモが外れたヒモパンが滑り落ちてきた。
(って、ヒモパン!?)
仮にも『清純派』が名乗る人間が身に着けてちゃヤバいやつでしょそれ!?
っていうか、それが滑り落ちてきたってことは……もしかして今、麻栗はノーパンということになるのでは……。
い、いや待て落ち着け俺。それ以上考えるな俺。スカートの下に桃源郷があるなんて、そういうことを考えちゃダメだ俺! それ以上考えたら、それこそ麻栗の思うつぼだぞ俺!
しかし、目の前に差し出された麻栗の尻に、どうしても目が釘付けになってしまう。実は胸より尻派の俺にとって、この攻撃はあまりに利く。具体的には海綿体が元気になってただでさえ元気になってた息子がよりバッキバキになってしまう!
(いいやダメだ、冷静になれ俺! こういう時にこそ大事な理性ってもんを、人間は備えているはずだ! ビークール、ビークールが合言葉だぞ俺!)
自分にそう言い聞かせながら、ひとまず俺は目を瞑った俺は、気持ちを落ち着かせようと深呼吸を開始した。
一度視覚情報を遮断すれば、次に目を開いた時には冷静さを無事に取り戻しているはずに違いない。
(そう、心頭滅却すれば火もまた涼し。ましてや性欲など、ただの
そんなことを考えながら、目を瞑ってゆっくり十秒ほど数え、そこで再び俺は目を開く。
取り戻した視界の中では、ふりっ♡ ふりっ♡ ふりっ♡ と、麻栗の尻がこちらを誘うかのように左右に揺れていた。
……もうゴールしてもいいよね?
俺は屈した。
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