第2話 初体験は地獄だった
「あ、ご、ごめんねっ。聖くんが全部言う前にいきなりキスしちゃって」
そのまま口づけを交わすこと十数分。
そのあたりで麻栗もようやく満足したらしく、ようやく彼女は俺から顔を離していた。
……そんな彼女の顔は、キスの余韻か湯気が出そうなぐらい上気していた。
興奮も伴ってか頬や首筋もうっすらと汗ばんでおり、見ているだけでなんだかドキドキさせられてしまう表情だ。
……当たり前だけど、日本全国の麻栗のファンは、麻栗のこういう表情を見たことなんてないんだろうな。そう考えるとなんか悪いことをしているような、でもなんだか嬉しいような感情が込み上げてきた。
「あ、い、いや……いきなりだったからビックリしたけど、大丈夫だよ」
まさか麻栗がこんなに積極的にキスしてくるとは思っていなかったため、驚いたのは確かだが、好きな相手とキスして嫌な人間などいるわけがない。
とはいえ、麻栗の表情や目つきがあまりに艶めかしかったから、俺は若干しどろもどろになりつつ、彼女からやや視線を背けて答えていた。
――が。
「……? 聖くん、なんでわたしから目を背けるの?」
そう言って、視線を逸らした先へと麻栗が回り込み、上目遣いでそんな風に問いかけてくる。
その時前かがみになった拍子に、麻栗のワイシャツの隙間から彼女の張り出した大きな胸の谷間が見えそうになって、それがいかにも目の毒であった。
「あ、いや、え~っと、その……」
そんな光景は童貞にはどうにも刺激が強い。
どう足掻いても視線が吸い寄せられてしまう俺だが、エロ目的で付き合ったと思われるのはたまらない。必死で取り繕う言葉を考えるのだが、おっぱいの魔力には抗いがたく、先ほどさんざんキスをしたこともあり、頭の中身は一瞬でピンク色で一色に塗りつぶされてしまっていた。
「ふ~ん?」
曖昧な反応しか返せない俺に、不思議そうな目を麻栗が向けてくる。
それから、ふと。
「ところで、なんか暑いね……キス、いっぱいしたからかな?」
なんてそっと囁きかけてきたかと思うと、シャツの一番上のボタンを一個外していた。
「うおっ!?」
さらに大きく胸元がはだけられ、さっきまでは
下半身に控える伯爵様が、「おおっ!」と血の気を滾らせる。いや待て落ち着け、と理性で水を浴びせかけようとするのだが、抗いがたい本能というやつは確かにこの世に存在する。――端的に言えば勃っていた。
当然、俺の顔も興奮で真っ赤に染まっているのだろう。そんな俺の反応に、麻栗は「ふふっ」と妖しい笑みを浮かべると、そっと体を寄せてきた。
それだけで、布の下にある柔らかな肉体や、彼女の身体から立ち上るかぐわしいメスの香りに頭がくらくらとしてきてしまう。これは本当にマジでまずい。性欲旺盛な思春期のサルに、あまりに効果が抜群すぎる。
「いや、ちょ、ま、麻栗? あの、えっと……ちょ……」
何か言おうとする俺だが、低下した思考能力ではロクに言葉も出てこない。
麻栗はそんな俺の頬を両手で挟んで、にっこり正面から笑いかけてきたかと思うと。
「ごまかさなくていいんだよ、聖くん? 聖くんに興味持ってもらえるの嬉しいから……」
と、囁きかけてきた。
「え、あ、そ、そうなの?」
「うん。だってね、聖くんのためにある身体だもの。……ね? だから、わたし、聖くんにもっと求められたいな?」
「お、おう。え、それって、あの、つまり……?」
「説明しなくても、分かるでしょ?」
脳を蕩かすような声で言って、麻栗はぱちんと片目を瞑る。
「それとも、はっきり言った方がいいのかな? ……今日、このあとうちに来て、って」
「……」
「来る? 来るよね? 今日はこの後、聖くんに入ってる用事なんてなかったはずだもの」
麻栗の両親は、毎日仕事で帰ってくるのは夜も遅い。
だいたい日付が変わる前後ぐらいにならないと、帰宅することもないのである。
そのことを承知の上で……気づけば俺は、首を縦に振っていた。
「ふふっ♡ 嬉しい♡」
と、麻栗は幸せそうに微笑む。
まるで清純な天使のような笑顔である。
だが、この天使の表情の裏側に、とんでもない淫獣が潜んでいることを、この後俺は知ることになるのである。
***
――学校で麻栗に告白してから三時間後。
「ま、麻栗、ちょ、も、無理、限界――」
「え? え? せ、聖くん、もう!?」
搾りつくされ、精魂尽き果てた俺がそこにいた。
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