ずっと好きだった幼馴染と付き合い始めたら一途ビッチの性欲ジャンキーだったんだがどうすりゃいいですか?

月野 観空

第一章:淫獣爆誕

第1話 ずっと好きで憧れててようやく付き合えた幼馴染がセ〇クスモンスターだったらどうする?

「……どうしたの、せいくん? こんなところに呼び出して」

「あ、ああ……ちょっとな」


 その日。

 俺、貫井つらい聖夢せいむはある決心を胸に秘め、幼馴染の村月麻栗を放課後の校舎裏へと呼び出していた。


 腰まで届く長い黒髪。

 穏やかで、透き通った瞳。

 顔立ちは極めて精巧に整っていて、抜けるような白い肌はいかにも清純でまるで天使。


 それが村月麻栗という少女で……そして俺の幼馴染だった。


 おまけに、彼女はただ、俺の幼馴染というだけの少女などでは決してない。

 推卷おしまく莉子りこという、もう一つの名前を持つ、日本中にその名が知れ渡っている天才美少女クリエイターなのである。


 デビュー作である漫画、『二十四時間あなたと、ずっと。』は、単巻で150万部を突破。その人気ぶりは凄まじく、単巻読み切りから連載枠を見事に勝ち取り、現在進行形で大手漫画誌で連載中だ。

 おまけにそのサイドストーリーを描いた小説版も複数作品発表し、出れば必ず最低十万部は売れている。その上で読者の反応も非常に好評で、「泣ける」「尊い」「温かい気持ちにさせてくれました」などという感想は数えるのもバカらしくなるぐらい寄せられているそうである。


 また、物語のみならず画力の高さにも定評があり、ゲームキャラクター等の原画やデザインといった方向でも精力的に活動を行っていて、そちらでも高い技術力と表現力を大いに評価されていた。


 それだけの凄まじい実績を挙げている彼女のことを、人は「天才マルチメディアクリエイター」と呼ぶ。おまけにその実力のみならず、飛びぬけて優れた容姿にまで目をつけた記者によって、写真と並べてゲームや漫画系雑誌にインタビュー記事まで掲載された始末である。


 それがさらに大きく人と金と話題を呼び、今となっては「天才マルチメディアクリエイター」の頭に枕詞として「清純派美少女」などという言葉まで並び、もはやアイドル的な待つ入り上げられ方までしている有様であった。


 そんな凄まじい人間が、俺の幼馴染で――そして初恋の人だった。

 どんどん俺の目の前で結果を出していって、どんどん遠いところまで駆けあがってしまった人だった。


 彼女の成功は、俺にとっても喜ばしいものだったが、一方で寂しさを覚えるのもまた事実であった。

 成功すればするほど、高みへと昇れば昇るほど――俺の手が届かないところへと行ってしまうような気がしたから。


 だから本当は分かっている。俺がこれからしようとしているのは、『凡人』が『天才』に対してやっていい告白なんかではない、ということは。

 麻栗には俺よりもよっぽどふさわしい、より付き合うべき優れた男がいるはずだ、なんてことは……。


 ――まあでもだからって告白すんのやめるとかってのはないんだけどな!


 麻栗のことはこれまでずっと好きだったし、これからもきっと好きである。

 彼女の幼馴染として歩んだ人生は俺にとって幸福なもので、その幸福をこれから先一生のものにしたいとも思っている!


 麻栗と俺とではつり合いが取れない? 凡人が夢を見るな? 身の丈に合った恋愛をしろ? 余計なお世話だ。

 好きな相手に好きだと告げる。それからのことはその後決める。――高校に入学してからの半年、悩みに悩んで悩みあぐねた俺の出した結論がこれであった!


 いやいや分かってますよ? 麻栗と俺とでは、客観的に見て比べるのもおこがましいほどにレベルが違いすぎるなんてことは。本当なら迷惑になる前に、告白なんて諦めて黙って身を引いて麻栗の幸せを陰ながら祈るのが正しいのだということだって。


 でも好きなんだから仕方ねえじゃん。黙って身を引いて諦めるなんていうかっこいいマネ俺にはできない。


 ちなみに悩みまくった挙句中間テストは落として追試になった。その時麻栗が呆れながらも追試に向けた勉強に付き合ってくれたのも心温まる思い出である――やっぱ麻栗最高かよ。


 まあともかく、俺にははちきれんばかりの『好きだ』という感情を抑えることなんて絶対に無理なんだってわけ。


 だから――。


「麻栗! これまでずっと隠してきたが、俺は麻栗のことが好――」


 麻栗への想いの丈を告げようと思い口を開いたその瞬間。


「やったぁ、嬉しい! わたしもずっと待ってたの! 聖くん好き♡! わたしも聖くんのこと大好き!」

「……はへ?」


 すべてを言い切る前に麻栗が食い気味にそんな言葉を返してきたかと思うと、正面から抱き着いて顔を近づけてきた。

 そしてその勢いのまま、顔と顔との距離を一気に縮めてきたかと思うと、


「ん、ちゅぅぅぅぅぅ♡」

「ん゛ん゛!?」


 その唇を半ば強引に、俺へと重ねてきたのである。


「聖くん、好き♡ 好き好き♡ わたしもずっと好きだった好き♡」

「ん、ちょ、麻栗やめ……んぶっ!?」

「はぁ、ん、聖くんの唇おいしぃ……ちゅ、んちゅ、じゅる♡」

「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛っ!?」


 ――この時の俺は、まだ知らない。

 まさか麻栗が……『清純派美少女天才クリエイター』として日本中に知れ渡っている麻栗が。


 とんでもないセ〇クスモンスターだったということを。

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