生きやすい世界を作ろう~あなたが居場所を作るために必要なこと〜

結宇籠(ゆうこ)

あなたも誰かの加害者かも~無意識の加害者にならないために~

 今日、職場でひょんなことからジェンダーの話になりました。


 事前に軽く説明をしておくと、《ジェンダー》とは《性自認》。“自分自身の性別を男女のどちらで認識しているか”を指し、《性的指向》は“恋愛対象となる性が何か”という事を指します。

 そして《LGBTQ》とは、【Lesbian(レズビアン=女性同性愛者)、Gay(ゲイ=男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシャル=両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー=心と体の性が異なる人)、Queer/Questioning(クィアまたはクエスチョニング=性的指向・性自認が定まらない人)の頭文字をつなげた略語で、いわゆる性的少数者(セクシュアルマイノリティ)の総称です。】――(LGBTQ 初めてでもわかりやすい用語集 SMBC日興証券*1 より引用)


 それを踏まえ、本日起こった出来事をお話します。



 話題はマイナンバーカードについて。

 個人情報が記載されたカードのスリーブに目隠しが付いていて性別の欄が見えなくなっており、それについて「何でココ?! ウケる〜」と同僚が言うのを聞いて(いや、ウケないし……)と思った私は彼女らに説明します。


「LGBTQへの配慮ですよ。外見と中身の性別が違う方もいらっしゃいますし」

「でも病院だと性別必要だし、それにそもそも名前見た時点で男か女かわかるじゃないですか。性別隠すなら名前とか住所とかの方を隠した方が良くないですか?」

「病院とか必要な場合は性別の開示が要るでしょうけど、例えばどこかのお店で会員証作るときは性別不要じゃないですか」

「まぁ〜、ボーイッシュな女子もいるでしょうけどね〜」


――愕然としました。


 LGBTQへの理解が少しずつ広がってきたであろう社会であっても当時者や関心のある一部を除けば“対岸の火事”でしかなく、差別を差別として認識することも出来ないのだと。


 一旦、そこで会話が終わったのですが、少し時間を置いてもう少し踏み込んだ内容も伝えてみました。

「名前はある程度の手続きさえ行えば改名が出来ますが、性別を変えるには身体の性転換手術を全て終える必要が有ったり等条件のハードルが非常に高いため中々難しく……故にその為の配慮だと思います」と。

 そうすると同僚は「実は知人に身体が女性、心が男性という方が居て……」という話をしてくれ、理解が深まる期待が私の中に膨らみます。しかし、次の言葉に私はショックを受けました。

「でも彼女の場合、胸にサラシ巻いたりはしてるけど乳房切除もしてないし『“人とは違う自分”に酔ってる感じするよね〜』って周りと話してたんです」


……もう溜息しか吐けません。


 私はその方ご本人を知らないので『100%そうではない』と断定は出来ませんが、“本気で男性になりたい”と思っていても物理的・金銭的に不可能な事だって沢山あると思います。保険的応外なので手術とメンテナンスにかなり多額の費用が要るでしょうし、大きな手入れをすればそれだけ術後の肉体にも重い負荷が掛かります。そういった事を考慮せず「手術してないから本気じゃない」と判定するのは早計だし、かつ『自分に酔ってる』なんて揶揄される筋合いなんてないじゃないかと他人事ながら傷付きました。


「本気度は本人にしかわからないし、周りがジャッジすることではないですよね」とだけ返しましたが、令和の時代に入ってもまだこれか……と、とてもガッカリしました。その分、近年のLGBTQへの理解の広がりに対する私の期待値が大きかったのでしょう。しかし、世代によっては未だに“彼女ら”の考えの方がスタンダードなのかもしれませんね。



 一つお断りしておきたいのは、“無意識の差別”を行った彼女らを批判しようという意図はありません。“差別は無知から生まれる”ということを再確認し、そのことを周知したいと思ったのです。


 以前、私自身の問題として『女性も恋愛対象になる』という話題をある方に振られた時、その質問をしてきた方が「女性を好きになる時は男性部分が出てきちゃう感じ?」という追加質問をしてきました。恐らく大半の人は、この質問の何がNGなのかわからないかもしれません。

 私は両性愛者なので傷もそれほど深くはありませんが、真性の同性愛者だったならかなり抉られる言葉です。

 勿論質問をしてきた方に悪気は全くなかったと思いますし、“私(ゆうこ)のことを知りたい”と友好的に出された質問だと信じていますが……では、この質問の何がNGなのでしょうか? まずは考えてみてください。




――『女性を好きになる時は男性部分が出てきちゃう感じ?』


 この質問の大きな問題点。それは《“男女間恋愛”が大前提となっていること》です。


『女は男を好きになるもの』『“女性が好き”ということは“男性的”に違いない』という無意識の公式(=決めつけ)が、『女性として女性が好き』『男性として男性が好き』という人々の存在を丸っきり無いものとして扱ってしまっています。


 私は《性自認は女性》の《両性愛者》なので『女として男性が好き』『女として女性が好き』です。先述したように両性愛者なのでダメージはそれほど大きくはありませんが、同性愛のみに限定された性的指向でこれを言われたら、「男性としてしか女を好きになってはいけないのか?」「自分は女性として欠陥があるのか?」と思い悩んでしまう方もいるかもしれません。特に自我がはっきりと確立される以前の子どもたちの中には『女性として女性が好き』なのに《女性を好きになるのは男性である》という公式(=すり込み)から「自分は女性が好きだから男になりたいのか?」と性的指向と性自認を混同した結果、間違ったカテゴリーと現実のギャップに苦しみ、また不要な悩みを抱いてしまう可能性もあります。

 そんな《無意識の差別》に苦しめられる人たちを少しでも減らしたいと願う私がこの記事を読むあなたに伝えたいことは以下です。



“無意識の加害者とならないために、知らない世界を知ることを放棄しないでほしい”


 今回の出来事のように、普段触れる機会が無かったり、知識のある人間が周りにいないと気付かないことは多々有るでしょう。私自身だって、どこかで誰かの加害者になって居るかもしれません。

“無意識の加害者”になってしまうことを回避するには「無知故に自分が誰かの加害者になっているかもしれない」という認識を持ち、少し気を付けて自分の中の“当たり前”を疑い、改めることです。そして、そうすることが出来れば、“救われる誰か”が必ず居ます。


 初めて触れる文化のタブーを知らずに犯してしまうことはままあるでしょう。そしてそれに対して指摘する人が居なければそれを“普通のこと”としてスルーしてしまうでしょう。しかし、もしも誰かがそのタブーに気付き指摘してくれることがあったなら、それを素直に聞き入れてみて欲しいのです。

 自分とは違う文化に触れて、それに対する個人的な好き嫌いは関係無く、まずは“知り”、その文化を“尊重する”こと。例え理解できない・好きになれない文化であっても、あなたがあなたなりの心情や考え方を持つように、相手にも相手なりの考えや想い、感情があることを忘れずにいてください。


 相手を尊重することは、自分自身への尊重や成長にも繋がります。一人一人がそうやって優しい世界を少しずつ、一歩一歩広げていく。そんな世界で私は生きていきたいです。



――――――――――

*1 「LGBTQ 初めてでもわかりやすい用語集 SMBC日興証券」2023/06/05 https://www.smbcnikko.co.jp/terms/eng/l/E0149.html

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