第十五話 お城潜入作戦
ゼッペルを逃してしまった俺たちは、互いに見合って今後のことについていて話していた。
「これからどうするの? ヘイオー君?」
マヤノはヘイオー王子に今後の方針を訊ねる。彼女は彼の正体がこの国の王子であることを知りながらも、平然と君付けでヘイオー王子のことを呼んでいた。
普通なら、身分が上であると知った途端に対応を変えるものなのだけどなぁ? もしかして、マヤノって王族だったりするのか?
ヘイオー王子も君付けで呼ぶことを許しているみたいだ。いや、彼女に注意しても意味がないと悟ったのかもしれない。
彼が威厳のある風格で放った命令を、マヤノは平然と無視したことがある。そのときのことが尾を引いているのかもしれないな。
「本来なら、協力者と小屋の中にある隠し通路から城内に侵入する手筈だったのだが、通路を断たれてしまったようなものだからな」
マヤノの問いに返答をしつつ、ヘイオー王子は未だに燃え続けている小屋を見た。
「あの中に、城に続く道が隠されているのか。マヤノ、君の魔法で消火することができないか?」
「任せてよ! あれくらいの火災、直ぐに消し飛ばすから。ウォーターポンプ!」
マヤノが魔法を発動すると、空気中から集められた水分が集まり、水の塊を形成する。そして筒状になると、勢い良く燃え盛る炎に放たれた。
「炎の燃焼を、水の冷却効果が上回れば炎は消えるからね。マヤノの魔力なら、一瞬で消し飛ばすことができるよ」
彼女の言葉通りに炎は消えた。だが、消えたのは炎だけではなかった。
「あのう、マヤノ? 確かに炎は消火できたけれど、君の言葉通り全てが吹き飛んでいるのだけど?」
正直言い辛かったが、実際に起きていることを彼女に伝える。
マヤノが放った水の塊は、確かに完全に消火させることに成功した。だが、水の勢いが強すぎた結果、小屋の木材や協力者の遺体まで吹き飛んでしまったのだ。そこに建物があったと言う痕跡すらない状況を作り出してしまっている。
「嘘! 予想と違うじゃない! これなら、ミニチュアウォーターポンプにしておけば良かった!」
自分が招いた現状を目の当たりにして、マヤノは驚く。
彼女自身、こんな結末になるとは思っていなかったようだ。
「あはは、これじゃ、隠し通路もどこにあるか分からないよね?」
苦笑いを浮かべながら、マヤノはこちらを見て来た。肩を落としているところから、それなりに落ち込んでいるのかもしれない。
マヤノが落ち込んでいる中、ヘイオー王子は小屋があった場所にゆっくりと歩いて近付く、そして立ち止まると、その場で跪いて地面に落ちている布を持ち上げる。
「いや、マヤノが吹き飛ばしてくれたお陰で、板を外す手間が省けた。城内に通じる通路は無事みたいだ」
どうやら地下に通じる穴が無事だったようで、その言葉を聞いた瞬間、マヤノがホッとしたかのように俺を見る。
「良かった。一時はどうなるかと思ったけれど、マヤノのお陰だね。フリードちゃん!」
「まぁ、結果良ければ全て良し、だな」
結果として良い方向に進んだことを喜び合っていると、ヘイオー王子がこちらに戻ってくる。
「フォローしたのはこの僕なのに、どうしてその笑顔を僕に向けない」
「ヘイオー王子、今何か言いましたか?」
「いや、気のせいだろう」
声が小さかったので良く聞き取れなかったが、ヘイオー王子が何かを言ったようだった。なので、聞き返してみたが、彼は聞き間違いだろうと言う。
何か言っていたような気がしたが、彼が否定するのなら空耳だったのだろう。
「隠し通路が無事だったことは喜ばしいことですが、私はこの通路を使わず、別ルートを探すべきかと思います。協力者が死んでいたこと、そしてゼッペルがこの小屋を燃やしたことを考えると、大臣もここの隠し通路のことを知っているかと思いますが」
ヘイオー王子のことを気にかけていると、トウカイ騎士団長が隠し通路を使わない方が良いと提案してきた。
「確かにそうだね。ここまでのことをされると、敵は当然知っていそうな気がするよ。待ち伏せされている可能性が高いと思う」
「僕もマヤノの意見に賛成だ。ここは別ルートを探して、城に向かった方が良い」
3人が別の道を模索するべきだと言うが、本当にそれが正しいのだろうか? 俺にはこのまま隠し通路からの侵入をするべきだと思う。
「いや、俺はこのまま、この隠し通路から侵入をすべきだと思っている」
「お前はバカか? マヤノの話しを聞いていなかったのか? 大臣たちはこの隠し通路の存在を知っている可能性が非常に高いんだ。入ったところで罠に決まっている」
このまま隠し通路のルートを突き進むべきだと進言すると、ヘイオー王子が語気を強めて俺の考えを否定する。
なんか、急に俺に対する当たりが強くなったような気がするけど、俺、ヘイオー王子の機嫌を損ねるようなことでもしてしまったのだろうか?
「確かに罠の可能性はある。だけど大臣たち側の策は成功している状態だ。作戦が成功し、侵入されるようなことは考えていないはず。きっと守りは手薄になっていると思う」
「なるほど、確かに大臣は頑固で、安心するとそのことは頭から忘れることが多い。作戦が成功したことを知らされているのであれば、寧ろこの隠し通路から侵入する方が楽ではあるな」
「さすがフリードちゃん! 敵の思考を読み取るところはパパに似ている」
俺の説明を聞き、トウカイ騎士団長は考えを改め、マヤノも俺に賛同してくれた。
彼を納得させることができたことは大きい。もし、ヘイオー王子が何か文句を言ってきても、どうにか納得させてくれるだろう。
「でも、フリードの言うことは100パーセントではない。もし、万が一にでも敵が待ち伏せをしていたらどうするんだ!」
案の定、ヘイオー王子が自分のルートを拒んできたな。
「確かに俺の言うことは100パーセント安全とは言えない」
「ほら見ろ! やっぱり――」
「だけど、他のルートを探すにしても、その道も100パーセント安全だと言う保証はないだろう」
「ぐっ!」
再び悪態を付こうとしてきたところで彼の言葉を遮り、論破する。
「ヘイオー王子、我々には時間を無駄に消費することを許されません。ここはフリードの意見を採用し、最初の作戦通りに隠し通路から向かいましょう」
「分かった。確かにトウカイの言う通りだ。どうやら僕は、頭に血が昇って冷静さを欠いていたようだ」
「ここまで戦闘の連続でしたからね。疲れが溜まっていたのでしょう」
トウカイ騎士団長の言葉に納得してくれたことで、ようやく先に進めることができる。
「安心してください。俺が100パーセント安全にしてみせますよ」
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