第十六話 お城に侵入
「100パーセント安全にするだと?」
トウカイ騎士団長が説得してくれたお陰で、ヘイオー王子は隠し通路を進むことに対して納得してくれた。しかし俺が確実に安全にしてみせると言った途端に、訝しむようにこちらを見てくる。
「お前、さっきと言っていることが違うじゃないか。さっきは確実だと言える保証はないと言ったではないか!」
手のひら返しをするかのように言葉を訂正したことが気に食わなかったのか、ヘイオー王子が急に声を荒げた。
まぁ、唐突に話しが変われば驚きもするだろう。
「俺が最初に言った『100パーセントの保証はない』あれは無策で隠し通路から侵入した場合です。事前に情報が入手していれば、僅かな可能性をなくすことができる」
「何か策があるのであれば最初に言え! 性格に悪いやつめ!」
誤解を与えないように説明をしたのだが、ヘイオー王子は悪態をついて俺のことを悪く言い始めた。
やっぱり、ヘイオー王子は俺のことを良く思ってはいないみたいだな。ゼッペルから逃げる際に、彼をお姫様抱っこしたのが嫌だったのだろうか。
今思い出せる範囲では、これくらいしか彼から嫌われる原因に思い当たる節がない。
このままでは話しが先に進まない。少し強引で、また彼の機嫌を損ねるようなことになったとしても、ここは話しを進めた方が良いだろう。
「すみません、最初に言っておくべきでしたね。では、方法を話しましょう」
説明をすると言いながら、顔を上げて上空を見上げる。すると、黒い羽を持った鳥、ガーラースが飛んでいるのが視界に入る。
「スレーブコントラクト」
空を飛んでいた黒い鳥を見ながら、スキルを発動して奴隷化させる。そしてこちらに呼んで腕に捕まらせた。
「今からこのガーラースを使って、城の偵察を行ってもらいます。鳥が空を飛んでいるだけなので、兵士たちも警戒はしないでしょう。トウカイ騎士団長、隠し通路はどこに繋がっていますか?」
「城の裏庭だ。枯れた井戸に繋がっている」
「裏庭ですね。ありがとうございます」
トウカイ騎士団長に礼を良い、奴隷契約を結んだガーラースを見る。
「お前の仕事は偵察だ。裏庭を警備している兵士の数を教えてくれ」
ガーラースに命じると、黒い鳥は軽く頭を下げて翼を羽ばたかせ、上空に舞うと城の方角へと飛び去った。
「ゴミを荒らすような鳥に偵察ができるものか」
俺の作戦に納得しきれていないようで、ヘイオー王子がポツリと言葉を漏らす。
「ヘイオー君、ガーラースを舐めてはいけないよ。あの鳥は凄く頭が良いのだから。腕ききの冒険者を泣かせることができるんだよ」
「そ、そうか。マヤノがそう言うのであれば凄い鳥なんだな」
マヤノが注意を促すと、ヘイオー王子は素直に食い下がる。
やっぱりマヤノが話しかけると、俺の時とは接し方が違うな。
しばらく待ってみると、奴隷契約を結んだガーラースが戻ってきた。
『カー、カー、カー!』
「ガーラースは何って言っているんだ?」
ガーラースが鳴いたことで、何かを訴えているように捉えてしまったようだ。ヘイオー王子が訊ねてくる。しかし俺はビーストテイマーではない。当然動物の言葉を理解することなんてできない。
「分からない」
「分からないのかよ!」
正直に言うと、当然の反応のようにヘイオー王子が声を上げてツッコミを入れる。
「分からないに決まっているじゃないですか? 俺は奴隷商だけど、ビーストテイマーではないのですから」
「それで、フリードちゃんはどうやってこの子から情報を聞き出すの? 当然方法は考えてあるのでしょう?」
ガーラースから人数を聞き出す方法をマヤノが訊ねてくる。当然その方法は考えてある。
その場で腰を下ろして指を地面に付け、その場で1~10の数字を書く。
「ガーラース、裏庭にいた兵士の数を教えてくれ。10人以上いた場合は、何も示さなくて良い」
ガーラースに指示を出すと、黒い鳥は地面に書かれた数字の前に歩き始め、そして2のところに立つと、そのまま嘴を地面に突き刺す。
「どうやら見張りは2人のようですね。トウカイ騎士団長が言ったように、大臣は警戒を緩めているみたいです」
「たった2人なら、俺1人でも倒すことができそうだな」
裏庭を警備している人数を把握すると、トウカイ騎士団長が見張りの相手は自分がすると言いたげなニュアンスで言葉を漏らす。
「見張りを倒した後ですが、敵の兵士を誘き出す揺動役と、大臣を捕縛する役に分かれて実行しようかと」
「なら、マヤノは陽動作戦の方をするよ。魔法で暴れれば、騒ぎを聞き付けて、兵士たちが集まるかもしれない」
「なら、僕もマヤノと同じ役割を演じよう。王子である僕が居れば、敵の目は僕を無視することはできないだろうからね」
軽く作戦を伝えると、すぐにマヤノが反応して揺動役をすると言う。すると意外にもヘイオー王子は悪態をつくことなく作戦に乗り、マヤノと同じ役割をすると公言してきた。
「なら、大臣の捕縛は俺とトウカイ騎士団長で行います。大臣の部屋までの案内をお願いします」
「任された。大臣の部屋に通じる隠し通路を知っている。そこに入ることさえできれば、確実に侵入することができるだろう」
作戦が決まり、俺たちは互いに顔を見合わせる。
「それでは、侵入作戦を開始するとしますか。それ!」
俺は地面に掘られた穴に飛び降り、底に着地する。あまり光が届かない地下であるからか、直ぐ真っ暗になるも、時間が経過すると目が慣れてくる。
通路を歩き、先を進むと行き止まりになっていた。しかし1本のロープが垂れており、それを使って登ることができそうであった。
「この先が城の裏庭になります」
トウカイ騎士団長が、この上が城に繋がっていることを教えると、俺は生唾を飲み込む。
ここから先が、ある意味俺にとっての人生の分岐点になっているかもしれない。そんな気がした。
ロープを握り、腕の力で登っていくと外に出る。
いつの間にか夜になっていたようで、空には夜空に輝く星々の姿が見えた。
井戸の陰に隠れて周囲を見ると、ガーラースが報告してくれた通り、裏庭の見張りは2人しかいない。しかも油断しているようで、欠伸をしていた。
「トウカイ騎士団長、今です」
合図を送ると、俺の次に登っていたトウカイ騎士団長が井戸から飛び出し、見張りの兵士に手刀を放って気絶させる。
「どうやら、上手く行ったようだな。ここから先は僕とマヤノの仕事だ」
「フリードちゃんたちは大臣の部屋に向かって」
続けて井戸から出てきたヘイオー王子とマヤノから先に行くように言われ、俺とトウカイ騎士団長は互いに顔を見合わせると、急いで大臣の部屋へと向かう。
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