第十四話 岬の小屋での戦闘

 身を隠していた洞窟から出た俺たちは、周囲を警戒しつつ目的地である岬の小屋へと向かっていた。


 周囲からは気配を感じないな。これなら当分襲撃を受ける可能性は低い。


「そろそろ協力者たちがいる小屋が見えて来る頃だな……ほら」


 ヘイオー王子が指を向けると、視界に小さい建物が映り出す。


 あそこが目的地か、あそこに到達すれば、一応依頼完了となる。


 小屋を発見してから1、2分後、目的地に到着。小屋は普通に木で作られた、どこにでもある建造物となっている。


 ヘイオー王子とトウカイ騎士団長を送り届けた。ここからは依頼の延長だ。


「キング!」


 扉の前に立ち、ヘイオー王子が言葉を放つ。しかし中からは何も反応がなかった。


「キング!」


 もう一度ヘイオー王子が扉に向けて合言葉らしきものを言うも、先ほどと同様に反応がない。


「可笑しいな? 僕が『キング』と言えば、『ヘイオー』と返ってくるはずなのに」


 ポツリと言葉を漏らしながら、ヘイオー王子は首を傾げる。


 合言葉が違ったのだろうか?


「合言葉が違ったのですか?」


「いや、それはない。この合言葉で間違っていない」


 正しい合言葉であるかを訊ねると、ヘイオー王子は間違いではないことを告げる。


「ねぇ、フリードちゃん。どこからか臭い匂いがしない?」


 俺の服を握りながら、異臭がすることをマヤノが教えてくれた。


 念のために鼻をひくつかせて臭いを嗅いでみると、確かに僅かだが、腐った肉のような匂いが鼻腔を刺激してくる。


「確かに匂うな? 僅かだけど、肉が腐ったような異臭が小屋の中から漂っている」


「まさか!」


 小屋の中から異臭の元となるものがあるのではないかと言うと、ヘイオー王子が直ぐに反応して扉に手をかける。


 扉には施錠がされていなかったようで、直ぐに扉は開いた。そして小屋の中を見た瞬間、言葉を失う。


「酷い」


 マヤノが両手で口元を隠して呟く。


 小屋の中は協力者と思われる人物の死体が複数あった。


 誰も中に入ろうとはしなかったので、俺が先に中に入る。


 死体を目の前にしても動揺しないのは、俺が裏側の人間で、奴隷の死体をよく見ていたことがあったからだろう。


 1人の死体に近づき、状態を確認する。


 肉は腐り始めてはいるも、まだ白骨化はしていない。となると、1週間以内に殺された可能性があるな。


 部屋の中は争った形成がある。壁には刃物で切られた痕跡が残っており、遺体も切り刻まれているのも居ることから、相手は剣士の類いだろうな。


 さて、協力者を失った以上、今後の方針を改めて考え直さないといけなくなったな。


「フリードちゃん、みんな! ここから離れて早く!」


 これからのことを考えようとしていると、急にマヤノが小屋から離れるように言ってきた。


 鬼気迫る表情で言う彼女の顔から、時間がないことを悟った。直ぐに急いで小屋から出ると、マヤノたちと一緒に建物から離れる。


 その後、小屋に火球が飛んでくると、瞬く間に燃やし尽くされた。


「あーあ、もう少しで全員纏めて始末することができたと言うのに、まさかギリギリで悟られるとは思っていなかったな。運の良い奴らだ」


 どこからか声が聞こえてくる。この声には聞き覚えがあった。


「ゼッペル! 隠れていないで姿を見せろ!」


 声の主の正体に気付いた瞬間、俺よりも先にトウカイ騎士団長が声を上げる。


 やっぱり、この声の正体はゼッペルだったか。


「姿を見せろと言われてノコノコと姿を見せるバカがいるかよ」


「いるよ! マヤノのパパは素直に姿を見せるもん。あ、でも、パパはバカじゃないよ。あなたみたいに弱いことを隠すために隠れるような卑怯者ではないもん。隠れる必要がないくらいに強いから、堂々と姿を見せるだけだからね!」


 ゼッペルの言葉をマヤノが論破する。


 さすがだな。相手を論破した上に挑発して、姿を表さずを得ない状況を作り出した。


 ここで姿を見せれば儲けもの。姿を見せないで隠れ続ければ卑怯者の烙印を押されることになる。後はゼッペルの精神面次第だ。


「誰が卑怯者だ! これは戦略だ! 姿が見えない以上、お前たちは恐怖心を覚える。恐怖心は心を揺さぶり、行動に制限をかけることができるからな。どこから攻撃が来るか分からない状況の中、震えるが良い! ワハハハハ!」


 マヤノが挑発をする中、ゼッペルは冷静さを欠いてはいないようだ。売り言葉に買い言葉のような気がするが、それでも冷静になれるところは凄いことだ。


「自分が卑怯者であることを隠すために、正当そうな言葉を並べられても、全然格好良くないよ。ここは素直に姿を見せる方が男だとマヤノは思うな?」


 もう一度マヤノが挑発を試みるが、彼は口を閉じたようで無言になる。


 相手にするだけ時間の無駄だと判断したのかもしれないな。


「ゼッペルビビっている。ヘイヘイヘー! ゼッペルビビっている。ヘイヘイヘー! ビビっているヘイ! ビビっているヘイ!」


 両手を上げて手を叩きながら、マヤノはビビっているコールを何度も繰り返す。


「人が相手にしなければ、付け上がりやがって! 誰がビビっているか! 地の利を活かした戦略だと言っているだろうが!」


 とうとう耐えることができなかったようで、再びゼッペルの声が周囲に響く。


 まぁ、今大声を上げてくれたお陰で、大体の位置を把握することができた。さて、どうやっておびき出そうか。マヤノの挑発にも鉄の意思で姿を見せないからな。


 思考を巡らせている中、視界に通常よりも大きく、黄色い羽を持ったチョウの姿が見えた。


 あのチョウはライトニングバタフライ。あいつを使えば、ゼッペルを炙り出すことができるはずだ。


「スレーブコントラクト!」


 スキルを発動してチョウと奴隷契約を結ぶ。


「我が契約に基づき、命令に従え、発光しろ! みんな目を瞑ってくれ!」


 ライトニングバタフライに命令を下した後、みんなに瞼を閉じるように指示をする。その後、俺自身も両の瞼を閉じた。


「ぎゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ! 目がああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ゼッペルの悲鳴が聞こえた後、閉じていた瞼を開ける。すると視界には地面に転がっているゼッペルの姿が映った。


 案外近くに隠れていたんだな。


「なるほど! さすがフリードちゃん! 突然の強い光を目の当たりにすると、瞳孔の動きが遅れ、瞳の奥に大量の眩しい光が入ってしまうものね! 瞳の奥には光の刺激を電気信号に変え、脳に伝えるための網膜があるから、それに対して大量の光を急激に浴びると、刺激が大きすぎることで網膜に炎症や剥離が起こってしまう。それを利用するなんて!」


 少し難しい言葉を使ってマヤノが誉めてくれるが、俺はただ目眩しをしたにすぎない。


「おのれ! よくもやってくれたなぁ!」


 片目を手で押さえながら、ゼッペルはもう片方の目を細めて俺たちを睨み付けてくる。


「こうなってしまったら作戦変更だ。お前たちは大臣が乗っ取った城で倒す」


 その言葉を言い残すと、ゼッペルは懐から丸い球体を取り出す。そしてその物体を地面に投げ付けた瞬間、黒煙が現れ、視界を奪われる。


「あばよ! お前たちは最高の舞台で切り刻んでやる!」


 足音が遠ざかって行く。あいつ、逃げやがったな。


 黒煙が消えて周囲が見えるようになると、その場にはゼッペルの姿はどこにもなかった。

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