第九話 襲撃者の任務
~野盗の頭?視点~
「何! 任務に失敗しただと!」
部下からの報告を聞き、俺は声を上げる。
「はい。あの男たちは護衛を雇っており、一人は女ですが、めちゃくちゃ強かったです。もう一人の男は戦ってはいませんが、未知の力を秘めていると思われます」
「くそう。やはり奴らは一筋縄ではいかないか。あいつらが王国に帰還する前に、始末しなければ。俺たちの首が飛ぶことになりかねない」
額に手を置き、思案する。
さて、どうするか。もう、俺たちに残された時間は少ない。あいつらが目的地に到着するまでに、命を絶たせる方法を考えなければ。
「お困りのようだな。なら、俺が力を貸そうか?」
背後から声が聞こえ、振り返る。するといつの間にか、赤い髪の短髪の男が立っていた。手にはバッグが握られ、見た目は商人を彷彿させる格好をしていた。
「お前はゼッペル。いつの間に俺たちの拠点に侵入しやがった」
「今来たばかりさ。それよりも目的を達成するための力が欲しいだろう? なら、これをくれてやる」
ゼッペルは持っていたバッグから複数の剣を取り出すと、テーブルの上に置く。
あの人から受け取ったアイテムボックスか? となれば、ここに置かれている得物は期待できる代物かもしれない。
「ここにある剣は名工の手で作られた代物だ。切れ味も抜群、これならどんなに強靭な相手でも、一刀両断することができるだろう」
テーブルの上に置かれた剣のひとつを手に取り、鞘を抜く。鞘の内部から顕になった刀身は、自身の姿が見えるほどに磨かれ、光が反射していた。
だが、その美しさと同時に怪しくも禍々しいオーラのようなものがあるようにも感じられる。
「ほう、一発でその剣を手に取るとは、中々の目利きだな。その剣こそが、今回俺が持ってきた剣の中でも一番の名刀だ」
ゼッペルの説明を聞きながら、他の剣にも目を配る。
確かに他の剣も良い出来だが、今握っているこの剣のように、意識が釘付けになりそうなほどの魅力を感じるものはない。
「分かった。なら、今回はお前の好意に甘えよう。おい、お前ら! 適当に好きなものを選べ!」
「しかし、女の方は魔法を使います。しかもやつが使う氷魔法は、通常の3倍の威力を持っているようにも感じられました」
部下たちに剣を選ぶように命じると、1人が敵の情報を開示してきた。
「何! それをさっさと言わないか!」
確かに強力な魔法を使う相手は厄介だ。遠距離から攻撃をされれば、接近する前にこちら側がやられる。
「安心しろ、今回持って来た剣には細工があってだな。魔力を送りこめば魔法を使うことができる」
「魔法を使うことができるだと?」
ゼッペルの説明を聞き、握っている剣にもう一度視線を向ける。
「そうだ。そしてお前が持っているその剣には、肉体強化の効果を発揮する。上手く使いこなせれば、敵の魔法を躱しつつ接近することも可能だ」
やつの言葉を聞き、生唾を呑み込む。
確かに遠距離では魔法は脅威だが、接近戦に持ち込むことができれば、剣を持っている俺の方が有利だ。そのことを考えれば、勝算は充分にある。
「お前えら! 今ゼッペルが言った言葉を聞いたな! 勝ち目は充分にある。臆すことはない! 今回の任務、絶対に成功させるぞ!」
「「「「「おおー!」」」」」
部下たちに激励の言葉を投げかけると、彼らは奮起してくれたようだ。頼もしくも猛々しい声で叫び、目が戦士の目に変わる。
「頼んだぜ。王国軍、第二騎士団の人たち、この俺がここまでお膳立てをしてやったんだ。今回の任務、失敗は死を意味するからな」
後方からゼッペルがポツリと言葉を漏らしたような気がしたが、声が小さかったので聞き取ることが出来なかった。
手に握っていた剣を鞘に戻し、腰に帯刀させると任務の準備を行う。
大臣から頂いたアイテムもある。どうにかなるだろう。あの方の命を奪うのは少々気が引けてしまうが、俺にも家族がいる。任務が失敗すればあいつらが路頭に迷うことにもなりかねない。今回の任務は絶対に成功させてみせる。
覚悟を決めて準備が整うと、俺は部下たちを引き連れて拠点から出て行く。
あいつらが向かう場所は岬の小屋のはず。あそこに行くにはいくつかルートがあるが、最終的にはどのルートからも繋がってしまう道が存在する。そこで先回りをして待ち伏せし、奇襲をかける。そうすれば、あのお方の首を刎ねることもできるはずだ。
拠点から移動して約1時間は経っただろうか? 奴らの目的地付近で待機をしていると、4人組のグループがこちらに向かって歩いて来ているのが視界に入る。
4人の内2人の顔は知っているが、もう2人の顔は見覚えがない。あの男女が、部下の言っていた護衛なのだろう。となれば、あの女が強力な魔法を使うやつで間違いないな。
前情報がある以上、無闇に突撃をする訳にはいかない。やっぱりここは、奇襲をかけて一気にあのお方の首を取る。
部下たちにアイコンタクトを送ると、彼らは無言で頷く。流石に長年共に戦っているだけあって、これだけで通じ合えるのは頼もしい。
茂美に隠れつつ息を潜めて様子を伺い、奴らが横を通るのを待つ。
数秒後、4人が前を通った。今が首を刎ねるチャンス。
「その首我らが戴く!」
跳躍して茂美から飛び出すと、鞘から剣を抜いて勢いよく振り下ろす。
「ライトウォール!」
「何!」
振り下ろした直後、女が魔法名のような単語を口にする。その刹那、俺の持つ剣は見えない壁のようなものに阻まれた。
くそう。防御魔法か。
着地と同時に後方に飛び、一度茂みの中に隠れる。
防御魔法が使えるなんて、そんな情報は聞いていないぞ。
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