第八話 野盗に襲われたから護衛の仕事としてぶっ倒す

 騎士爵様とその甥っ子の護衛を受けていた俺たちは、山道で現れた野盗たちに襲われた。


「フリードちゃんは騎士爵様たちを守って! ここはマヤノがやるから! ミニチュアアイスランス!」


 素早く距離を縮めてくる野盗たちに対して、マヤノが先頭に立つと氷の魔法を発動させる。


 すると空中に五つの水が出現し、槍を象ると凍って個体に変化する。


 彼女はミニチュアと言っていたが、その大きさや質は、通常のアイスランスと同様のものだった。魔法で生み出された氷の槍が完成した直後、マヤノは敵に放つ。


「「「「「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」」」


 氷の槍が直撃した野盗たちは勢い良く吹き飛ばされて、後方にあった木に激突する。しかしマヤノは手加減をしていたようで、野盗たちは血を流しながらも直ぐに立ち上がる。


「こいつら強いじゃないか」


「だが、思っていたよりもダメージは少ない。見た感じ、戦えるのはあの女だけだ。あの女を倒せば、残りを血祭りにすることができる」


「へぇー、手加減をしていたとは言えやるじゃない。普通の野盗とは思えないわね。なら、お望み通りに少しだけ本気を出しちゃおうかな? アイスランス!」


 マヤノが右手を翳すと、再び空気中の水分が集まって水を生み出す。だが、先ほどよりも多く、巨大だった。推定3メートルはありそうだ。


 巨大な水は槍の形を象ると直ぐに氷へと変化し、先端の鋭利さに磨きがかかる。


「何だと!」


「こんな小娘がギガアイスランスを使うだと!」


 マヤノの魔法を見て、野盗たちが驚愕する。だが、彼らの言葉を聞いたマヤノは、不服そうに頬を膨らませる。


「さっきマヤノが言った言葉をちゃんと聞いていた? これはギガアイスランスではなくって、普通のアイスランスなんだけど?」


「嘘吐くな! そんなにでかいアイスランスがあってたまるか!」


 マヤノの言葉を信じられないようで、野盗の男は彼女の魔法を否定する。


「嘘じゃないもん! これがマヤノのアイスランスなんだもん! 信じてくれない人はこうしてやる!」


 声を上げたマヤノが右手を前に出す動作をすると、その動きに連動して通常よりもでかい氷の槍が、野盗たちに向けて放たれる。


「「「「「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」」」


 攻撃を受けた野盗たちが再び吹き飛ばされて地面に転がる。運悪く先端の鋭利な部分に当たった人間は傷口から勢い良く血を流し、直撃を受けなかった野盗たちも吹き飛ばされた仲間に巻き込まれて、道連れとなって倒れていた。


「いてて」


「くそう。なんて強さだ。こんなに強いガキが護衛についているとは」


 比較的軽傷の野盗たちがゆっくりと立ち上がり、マヤノを睨み付けながら言葉を吐き捨てる。


「うーん。まぁ、マヤノは一応まだ子ども扱いだけど、マヤノからしたら、君たちは赤子も同然なんだよね」


 人差し指を頬に当て、マヤノは軽く首を傾ける。


「何を言っているのかさっぱり意味が分からねぇ」


「とにかく撤退だ! 動ける者は重傷者を運ぶぞ」


 戦況的に不利だと判断してくれたようで、野盗たちは重傷者たちを担ぐと背中をこちら側に向け、走り去って行く。


「あ、逃げた! 悪者は捕まえて憲兵に突き出してやるから!」


「待ってください。あまりにも引き際が良すぎます。もしかしたら何かの罠と言うこともあります。撤退と見せかけて奇襲を仕掛ける算段なのかも。ここは彼らを見逃しましょう」


 追いかけようとするマヤノを見て、意外にもヘイオーが彼女を止めた。


 確かに彼の言うことにも一理ある。


「マヤノ、ここは焦って追いかけないほうが良い。俺たちの依頼は、2人を岬の小屋にまで送り届けることだ。野盗の討伐ではない」


 護衛任務を引き受けている以上、野盗やモンスターとの遭遇は想定していた。だけど、俺たちは討伐ではなく守ることが仕事だ。深追いしすぎて、任務外のことに首を突っ込まない方が良い。


「きっとギルドにも、野盗の討伐の依頼があるはずだ。それを引き受けた人の仕事を奪うことにもつながってしまう。マヤノの気持ちは分かるけれど、今は我慢しよう」


「フリードちゃんがそう言うのなら、それに従うよ。でも、次にまた襲って来たときは倒しても良いよね?」


「襲って来たときは、騎士爵様たちを守らないといけないからな。その時は正当防衛で倒すしかない」


 どうにかマヤノの闘争心を宥めることに成功すると、俺の脳内にとある疑問が思い浮かんだ。


 気になるし、聞いてみるか。


「なぁ、さっきマヤノが魔法を使ったとき、通常よりも大きさや威力が違っていただろう? あれっていったい……」


 どうして通常の魔法よりも桁違いの威力を発揮していたのか、それを問い質そうとした瞬間、マヤノが人差し指を俺の唇に押し当てた。


「それは内緒だよ。いくらフリードちゃんでも、話すことができない。まだ、そこまでフリードちゃんへの好感度は上がりきっていないから」


 柔軟な笑みを浮かべるマヤノだったが、どうやら触れて欲しくないことに首を突っ込んでしまったようだ。


 でも、彼女の言葉から察するに、心の距離が縮まれば、いつかは話してくれるのかもしれない。


 今はその時が訪れることをただ待つとしよう。


「分かった。マヤノの魔法に関しては、今後は触れないようにするよ」


「ありがとう。フリードちゃんのそう言う気遣いができるところ、マヤノは好きだよ」


 友達感覚の言葉なのだろうが、女の子から好きと言われると少し照れてしまう。


 何とも言えない気持ちになり、人差し指で頬を掻く。


「あ、フリードちゃん照れている。可愛い」


 天然なのか、わざとなのか分からない。だけど俺の反応を見て、マヤノは少し楽しんでいるように見えた。


「ゴホン。あの、仲が良いことは素晴らしいことだが、そろそろ先に進んでも良いだろうか。いつあの野盗たちが再び襲って来るか分からない」


「あ、そうですね。それじゃあ警戒しつつ、先を進みましょうか」


 俺たちの醸し出す空気を壊すかのように、騎士爵様が先に進むように促す。


 また野盗たちが襲って来るかもしれないが、できれば二度と会いたくはないものだ。

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