第七話 依頼開始
ギルドで依頼を受諾した俺たちは、依頼主が住んでいる町外れの家へと向かう。
「あれが、依頼主の居る家だね!」
目的地が見えて来ると、マヤノが駆け出して家に近付く。だが、目的地の建物が視界に入った瞬間、違和感を覚え、それが拭えないでいる。
やっぱり変だ。マヤノは周辺に気を配っていないのか、気付いていないみたいだ。偏見になってしまうかもしれないが、あの建物は騎士爵様が住むには不適切に思える。
壁はボロボロで、ひび割れが起きており、隙間風が簡単に入ってしまいそうなほどボロイ。
いくら騎士爵の爵位が一番低いからと言っても、貴族ではなく、平民の中でもその日の暮らしもままならない、経済力のない人間が住んでいそうなイメージの建物だ。
本当に貴族なのだろうか? これでは報酬の方も期待できない。
少し残念に思いながらも建物に近付く。そして扉の前に立つと軽く叩いた。
「すみません。俺たち、ギルドの依頼で来たのですが?」
ノックをしながら声をかけてみる。だが、1分ほど待ってみても返事がない。
「留守なのかな? フリードちゃん出直す?」
いくら待っても返事がないからか、マヤノが一度引き返すかと訊ねてきた。
「うーん、どうしようか。出かけているのなら、ここで待っていればいずれ帰って来ると思うけれど」
普通なら、ここはもう少し待ってみて、それでも誰も帰ってきそうにないのなら引き返すだろう。だけど俺は、最初から感じていた違和感が頭から離れずにいる。
もう少しだけ調べてみるか。
扉に耳を当て、聞き耳を立てる。すると僅かだが、会話らしきものが聞こえた。
中に人はいるみたいだな。と言うことは、一応俺の声も届いているはずだ。それでも出て来ないとなると、簡単には客人を迎え入れることはできない状態にあると言うことになる。
ここはあれを試してみるか。
「どうやら出かけているみたいですね。今日は曇っていて採取日和なので、また今度お邪魔しようかな?」
わざとらしく言葉を連ねる。すると家の中から物音が聞こえ、数秒後には扉が開き、家主が顔を出す。
「いやー、すみません。昼寝をしていて来客が来られていたことに、今気付きました」
扉を開けて声をかけてきたのは、鎧を身に付けた男だった。彼は心から詫びている様子はなく、手を後頭部に持っていきながら笑みを浮かべる。
「そうだったのですね。タイミング悪くお邪魔したみたいで」
こちらも苦笑いで返す。だが、これではっきりした。彼は本当に依頼を受けて訪れたのかを試したんだ。裏の人間以外は招き入れられない。合言葉を知る者しか姿を見せる訳にはいかない人物だと言うことが判明した。
「それで、依頼内容は依頼書に書かれてあった通りで良いのですよね?」
「ああ、森を抜けたその先にある岬の小屋までの護衛を頼みたい。岬までは2、3日かかるから、それまでの食事は私が提供しよう」
「やった! これで暫く食事の心配をする必要がないよ!」
食事の提供はすると言われ、マヤノは両手を上げて笑みを浮かべる。
「でも、本当に大丈夫なのですか? 住んでいる家を見ると、そんなに裕福には思えないのですが?」
「それなら心配ない。食料だけはどうにかなっている」
食料だけは備蓄があることを伝えると、騎士爵様は家の奥に顔を向ける。すると、家の奥から物音が聞こえ、足音が近づいた。そして騎士爵様の後からひょこっと少年が顔を出した。
「この子は私の甥っ子のヘイオー君だ。ヘイオー君、この人が私たちの護衛をしてくれる人たちだ。挨拶をしなさい」
「ヘイオーです。よろしくお願いします」
騎士爵様の背中に隠れながら、ヘイオーと名乗った少年が軽く頭を下げる。
「よろしくね! マヤノの名前はマヤノだよ! マヤちゃんって呼んでね! このひとはフリードちゃん! 強いから安心してね! 野盗だろうが、モンスターだろうが、どんな敵でも跪かせるから!」
ヘイオーが自己紹介をすると、今度はマヤノが自分の名と呼び方を教える。そしてついでに俺の自己紹介もしてくれるが、正直一言余計だ。跪かせるなんて言ったら、悪いイメージを与えてしまう。
「へー、そうなのですね。それは安心しました。僕は強くないので、心強いです」
怖がってしまわないだろうかと思っていたが、どうやらその心配はなさそうだ。
肝が据わっているな。
「それでは、わたしたちは出立の準備をしますので、少しの間だけ待っていてください」
準備が終わるまで待つように言うと、騎士爵様とヘイオーは家の中に入り、一度扉を閉める。
するとマヤノが座り込み、地面に何かを書く。
「マヤノ、何をしているんだ?」
「お絵描き! きっと準備に時間がかかるだろうから、それまでの暇潰し」
「おい、人の土地でそんなことをしたらいけないだろう!」
人の土地で勝手にお絵描きを始める彼女に注意を促す。
「それもそうだね。なら、気付かれ難い場所にするね」
「いや、人目につくかどうかの問題じゃ――」
もう一度注意をしようとすると、マヤノは俺の言葉に耳を貸さず、そのまま家の裏側へと歩いていく。
きっと今のマヤノに何を言っても意味がないだろう。こうなれば、気付かれないことを祈るしかない。
騎士爵様たちの準備を待ってから30分ほど経った頃、お絵描きに飽きたのか、マヤノがこちらに戻って来る。
「本当に気付かれないところに書いたのだろうな?」
「もちろんだよ! なら、確認してみる?」
胸の前で腕を組み、堂々とした佇まいで自信満々にマヤノが答える。
それと同時に家の扉が開き、騎士爵様たちが外に出た。彼らは大きなリュックを背負っており、相当な荷物であることが窺える。
「お待たせしました。それでは出発しましょう」
タイミング悪く、騎士爵様たちが出て来たな。今から裏に回れば不審に思われるかもしれないし、マヤノが上手く隠せていることを祈るとするか。
「分かりました。では、馬車の手配をしましょう」
「それなのですが、良ければ徒歩にしませんか? この子が最近運動不足なので、歩かせたいのですよ。
騎士爵様がヘイオー君の肩を掴む。
まぁ、俺たちは依頼される側だからな。依頼者の要求はなるべく聞く必要がある。
「分かりました。では、徒歩で向かいましょう」
徒歩で歩くことを決め、俺たちは町を出ると岬の小屋へと向かう。
岬の小屋に向けて森の中を歩き、かれこれ1時間が経った頃。
「見つけたぞ!」
「殺して身包みを剥いでやろうじゃないか!」
この森を縄張りにしている野盗が現れ、得物を振り回しながら俺たちに接近してきた。
「フリードちゃんは騎士爵様たちを守って! ここはマヤノがやるから! ミニチュアアイスランス!」
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