第六話 裏の依頼の違和感

 受付嬢から案内された部屋の扉を開けた瞬間、揉み上げと顎髭がつながっているジャンボジュニアと呼ばれる髭を生やしている男が、こちらを睨み付けてきた。


 きっとこの人がギルドマスターなのだろう。


「あいつがこの部屋に案内するとは、お前何者だ?」


 こちらの素性を調べるかのように、彼は眼球を動かして俺たちをジロジロと見てきた。


「俺の名はフリード、そして隣にいるのがマヤノだ。俺は実家から追い出されたが、一応奴隷商だ。だから裏の合言葉を知っている」


 ジロジロと見られるのが気持ち悪かったので、こちらから素性を明かす。すると男は納得したようで、胸の前で腕を組み、瞼を閉じる。


「なるほど、裏の人間の者か。それなら納得した。それで、ここに来たと言うことは、依頼を受けに来たのだろう? どんな依頼を受けたい?」


「俺たちが求めているものは金だ。だから報酬金額が高い依頼を受けたい」


「ほう、金が目的か。裏社会の人間らしい発想だな。もちろん表に出せないような高額な報酬のある依頼は存在する。だが、金額に比例して命を失う危険性が高くなるが、それでも良いのだな」


 覚悟を確かめるかのように、ギルドマスターは親切に問うてくる。だが、そんなことは百も承知だ。楽して金を稼げるようなものがあれば、この世界は永遠に平和であろう。


「俺には莫大な金が必要だ。目的を達成できるのであれば、どんなに過酷な依頼でもやり遂げてみせる」


 意志表明をすると、俺の思いが伝わったのか、ギルドマスターは引き出しを開けて中から1枚の紙を取り出し、机の上に置く。


「こいつが、きっとお前の望むものになるだろう。だが、その分命を失う覚悟をしておけ。お前の身に何が起きても、我々は一切の責任は取らない」


 ギルドマスターが、依頼は全て自己責任であることを伝えるが、そんなことは分かりきっている。


 机の上に置かれた紙は依頼書だった。内容を確認するために手に取ると、目視で確認する。


 依頼内容は町外れに住む騎士爵の護衛か。報酬金額は500万ギル、かなり高い。依頼者のコメントは……。


 依頼者と依頼内容、そして金額を確認した後、最後にコメントを黙読する。


『私は町外れに住む騎士爵だ。貴族と言っても、平民に毛が生えた程度にすぎないので、そんなに身構える必要はない。お願いしたいのは、森を抜けてその先にある岬の小屋までの護衛だ。護衛と言っても、モンスターや野盗が襲ってくる程度だろう。裏社会のあなたなら、きっと分かるはずだ』


 最後まで読み終えるが、この依頼書に違和感を覚えずにはいられなかった。


 この依頼は所々怪しい点がある。本当に依頼を受けて良いものなのだろうか?


「どうした? 依頼を受けるのか? 受けないのか?」


 ギルドマスターがこちらに視線を向けて、受託するのかを問うてくる。


 確かに怪しい。だけどギルドマスターが進めると言うことは、これが一番報酬の高いものなのだろう。


「分かった。こいつを受ける。今からその騎士爵様のところに行って、挨拶をしよう。マヤノはどうする? 危険な任務になると思うから、この町でお留守番をしていても良いけど?」


「マヤノもフリードちゃんに付いて行くよ! だって、騎士爵の護衛なんでしょう? そんなの簡単だよ!」


 マヤノは今回の依頼の裏に気付いていないのか、何も心配していないかのような笑みを浮かべながら、自分も付いて来ると言う。


「それに、マヤノは1ギルも持っていないから、宿屋に泊まるにもお金がないからね」


「確かにそうだったな」


 今回の依頼、移動距離から考えても1日で終わるものではない。お金を持っていない彼女を町に置き去りにしても、野宿をさせないといけない。


 それを考慮した場合、一緒に依頼を受けた方が彼女自身もメリットがある。もしかしたら護衛中の食事を提供してくれるかもしれない。


「分かった。一緒に依頼を受けよう。それじゃギルドマスター、今から行ってくる」


「ああ、生きて帰って来ることを祈っておる」


 依頼者に挨拶をしてくることを告げると、ギルドマスターはばつの悪そうな顔をしながら、俺たちの帰還を望んでいることを口から漏らす。


 ギルドマスターの反応から見ても、この依頼は必ず何かしらのトラブルに巻き込まれると思っていた方が良さそうだな。


 踵を返してギルドマスター室から出て行くと、そのままギルドの受付フロントに向かう。


「あのう、何か良い依頼でもありましたか?」


 受付フロントに出た瞬間、案内をしてくれた受付嬢が声をかけてきた。


「ええ、お陰で一番報酬金額の高い依頼を受けることができました」


「え!」


 騎士爵様の護衛依頼を受けたことを伝えると、彼女は咄嗟に驚きの声を上げ、直ぐに口元を手で隠す。


「あの依頼を受けてくれたのですか?」


「ええ、まぁ。報酬金額が一番高いとギルドマスターが勧めてくれたので」


「そうですか。ギルドの者として贔屓ひいきする訳にはいきませんが、頑張ってください。あなたの活躍を期待しております」


 応援していると伝えると、受付嬢は俺たちに軽く会釈をする。


 やっぱり、この依頼は何かあるな。今から気を引き締めて行く必要がありそうだ。


「ありがとうございます。無事に戻って、依頼達成の報告をしに来ますので」


 受付嬢に軽く会釈をすると、俺たちは依頼者のところに向かうためにギルドから出て行く。

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