第2314話・南北が交わる時

※宣伝失礼致します。


 戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。9巻


 6月20日発売です!


 新規書き下ろしの話や加筆修正が随所にあり、web版を読まれた方でも読み応えがある内容に仕上げております。


 また、新しくキャラクターの書き下ろしイラストもあります。こちらは近況ノートにて、どうぞ。


 注意事項、拙作はあまり書店様に並びません。お探しの方はご予約かお取り寄せ、またはネット通販のご利用をお願いします。書籍の場合はネット通販各社送料無料のところが多いです。


 最後に、現在、SNSであるX(Twitter)が原因不明の凍結されて困っています。


 もし、SNS をされている方がいましたら、書籍関連のリツイート等、お願い致します。


 電子書籍版について、6月20日、同日配信されるようです。よろしくお願いいたします。




Side:六角義弼


 どこか、己とは関わりのない他人事ひとごとのように感じる。


 世が動く。そのさまを己が目で見ておるというのに。


 今日は上様の婚礼だ。


 わしは観音寺城下にて、民に婚礼の祝いを振る舞っておる。与えておるのは、酒、菓子、餅などだ。次から次へと運ばれてくる祝いの品は、流れるように民に与えられ消えてゆく。


 民だけではない。いずこの者か知れぬ旅の者であっても与えておるのだ。いささか惜しいと思うのは、わしが至らぬからであろうか?


「はい、どうぞ」


 早朝つとめて殿が、ひとりひとりに自ら手渡しておられる。医師として近江で民の診察をしておることで、四季殿の中でもっとも顔が知られておる者だ。


「ありがとうございます!」


 涙を流さんとする勢いで喜ぶ民が見られる。だが、よくよく見るとそこまで喜んでおるのは早朝殿の下に並ぶ者ばかりだ。


 上様の慶事を喜んでおるのであろうか? それとも早朝殿に会えて喜んでおるのであろうか?


 ふと尾張で若武衛殿が民に声を掛けられていたことを思い出す。なにをしておるか分からず、下郎と罵り、頭を下げろと命じるばかりの武士よりは好まれるのであろうな。


「これは若殿、かような慶事を近江で行える。なんと誉れ高きこと。ようございましたなぁ」


「うむ、皆のおかげだ。さあ、受け取るがいい」


 幼き頃より幾度か会うたことがある商人が、わしのところに並んでくれた。嬉しそうに近江の慶事を喜ぶ姿にわしも嬉しくなる。


 今日、この役目は誰かに命じられたものではない。父上も四季殿も忙しいようでな。かというて、わしは特にやることがなかった。


 そんな最中、早朝殿が慶事の祝いを配るというので同行させてもらったのだ。


 先例なきことをして、六角家の立場を貶めると苦言を呈するような者もすでにおらぬ。少なくとも、この慶事に自ら働いたほうが皆の心証もよかろうと思うてな。


「若殿、御立派になられて……」


 いかなるわけか、わしのところには年寄りが多く並ぶ。父上や祖父上と戦に出たという者や、わしが生まれた時を祝ったという者らだ。


 これも戦場で一番に駆けるようなものであろうか?


 まあ、愚か者と罵られようと構わぬな。実のところ、役目もない愚か者だ。民と共に喜ぶくらいでよかろう。僅かでも父上の役に立つかもしれぬ。




Side:秋


 御所の裏口には多くの者が祝いの品を持ってきてくれている。尾張と同じように大規模な振る舞いをした影響もあるんでしょうね。領民ですら、わずかな祝いをもってきてくれている。


「ありがとう。名はなんというのですか?」


 こちらの指示で、祝いを持参した者たちは、どれだけ僅かな祝いでも名前と住まいをきちんと聞くことを徹底している。


 御所の奉公人は近江者が多い。笑顔で祝いを受け取り、名と住まいを聞いてくれている様子に安堵する。


「久遠の知恵というより、人としての作法でございますな」


 私に付いている奉行衆のひとりは、最初そこまでしなくてもと言っていたものの、いざ始まってみるとその姿に納得している。


「そうよ。上様はここで暮らしていくんですもの。上様の城下の民となる者たちは大切にしないといけないわ」


 どんなに僅かでも祝いを持参した者たちには、後日返礼をする。余所者と言われて世話になっているだけの上様であってはならないの。


「確かに……」


 この時代の人は土地への愛着が強い。また自分たちを守ってくれる人を支えようという意識もね。天下のため国家のため、そういう理由で動くのが悪いとは言わない。でも、ちゃんと地に足を着けて動かないと足を掬われることになる。


 司令はそういう意味では慎重なのよね。ゆっくりと環境を整えて、みんなが活躍出来る場を整える。そういう手法を取らせることに関しては天性の才能があるとさえ思える。


「鯉や魚の干物も結構あるわね。鯉は庭の池にお願いね」


「はっ!」


 観音寺城や御所一帯の物価は基本、私が統制している。それだけに祝いを持参してくれる者たちの身なりから、精いっぱいの祝いを出してくれた者が多いことに嬉しく思う。


「巷では、上様の病がようなるようにと祈祷する者も多いとか。ここ数年、世が落ち着いておりますからな」


 そう、上様の治世の成果は確実に出ている。あのお方の凄いところは、司令やエルたちの助言をほぼそのまま信じて実行していることなんだと思うわ。ご自身で理想の政治もあったのに。


 この様子なら、上様は近江で生きていける。そう確信が持てる。


 慶事のなによりの朗報かもしれないわ。




Side:とある奉行衆


 夕暮れ様の様子から、上様の今後が安泰と分かり安堵する。


 御所を京の都の外に設ける。初めて聞いた時には我が耳を疑った。それでやっていけるのかと。もっとも、六角に世話になっている現状を考えれば、あり得ることであったが。


 我らは流浪の先で上様の滞在する場を御所と称することはあったが、いちから上様の御所を設けるなど先例がなく分からぬ。


 諸勢力に命じて普請をさせるくらいならば分かるが、内匠頭殿と奥方衆が考える手法はもっと奥深くさもありなんと思うことであったな。


 民と共に生きる。国人や土豪ならば分かるが、上様ほどの身分であっても同じことをするとは。それを否と退けた先がいかになるのか。朝廷を見れば分かる。


 朝廷は都の町衆や官位欲しさに近寄る者は助けるが、都を出ると武士も民も朝廷に興味などない。穢れだ、身分が違うと遠ざけた末のことだ。


 管領や諸国の守護などが上様に逆らったとて、これならば上様はこの地で生きていけるのかもしれぬ。


 とはいえ、同じことを出来る者は他にはおるまいな。朝廷、寺社、畿内。いずれも上様が京の都を出るとなると邪魔をする。実際、近江に御所という話が漏れた時には左様な動きもあった。


 上様が管領や三好と争い、京の都を出た折には助けなんだ者らがだ。


 結局、矢面に立ち動く者がおらぬことで誰も止められなんだがな。細川京兆も右京大夫殿は三国同盟寄りのお方だ。


 尾張が新しいことを始め、北畠がそれを助けると誰も止められぬことを示した。


 此度の婚礼で名を上げるのは上様ばかりではない。北畠もだ。敗れた南朝方だったということもあり不遇の身であったが、ここ数年はその権威を戻している。此度の婚礼でより増すこととなろう。


 特に蟹江にて隠居しておる天佑殿は、久遠の後見をしておるのかと言わんばかりの態度で近江に来る。あの御仁の恐ろしいことこの上ない。


 斯波が朝廷に弓引くと兵を挙げても従わぬ者も、天佑殿ならば従えてしまうのでは? 皆がそう言うておる。


 三国同盟の恐ろしさは中に近き者でなくば分かるまい。西国、四国、九州の諸勢力は此度の婚礼でそれを知ることが出来るのであろうか?







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