第2313話・いざ……

※宣伝失礼致します。


 戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。9巻


 6月20日発売です!


 新規書き下ろしの話や加筆修正が随所にあり、web版を読まれた方でも読み応えがある内容に仕上げております。


 また、新しくキャラクターの書き下ろしイラストもあります。こちらは近況ノートにて、どうぞ。


 注意事項、拙作はあまり書店様に並びません。お探しの方はご予約かお取り寄せ、またはネット通販のご利用をお願いします。書籍の場合はネット通販各社送料無料のところが多いです。


 最後に、現在、SNSであるX(Twitter)が原因不明の凍結されて困っています。


 もし、SNS をされている方がいましたら、書籍関連のリツイート等、お願い致します。




Side:北畠具教


 足利と北畠の婚礼か。両家をよく知る者になればなるほど、何故、婚礼となったのだと目を見開き驚く。


 まして足利が血縁にて北畠を従えるための婚礼ではないのだ。なにがあったのだと驚くのも無理はない。


 わしは父上と共に上様の御前にいる。他には武衛殿、弾正殿、石橋殿、管領代殿、塚原殿、一馬、エルがおる。一番強張った顔をしておるのは石橋殿か。


 己の娘が北畠の養女として上様に嫁ぐ。いかに石橋家が名門とはいえ、本来ならばあることではない。言い方が悪かろうが、ちょうどよかったのだ。家柄も立場も。


 武衛殿の正室を出していること。尾張に在住して斯波一門として扱われつつおかしなことをせず励んでいたからな。抜きん出た功はないが、一馬らのやることにも理解を示しておったこともある。


「いよいよだな。これでようやく南北朝の始末を終えることが出来る。皆、ようここまで盛り立ててくれた。礼を言う」


 明日からの婚礼を控え、上様もまた戦を前にした武士のような顔をされておられる。


「かつて南朝方だった諸家も喜んでおりまする」


 ああ、そうだな。父上の言葉の通りだ。近江に到着して以降、多くの南朝方だった者たちと会うた。それなりに生きておる者もおるが、不遇の者も多い。


 誰一人として祖先のような立場に戻れると思うておらぬ。されど、南北朝以来続く争いの種が今も各地で残るのだ。此度の婚礼に喜んだ者が多いと言えような。


「奥羽では楠木が正成公を思い起こさせる武功を挙げたからな。さすがは楠木よ。世の変わり目には相応しき役目を果たす」


 楠木か。正直、いずこにでもいる国人と変わらぬ程度でしかなかったのだが。織田に降り化けたひとりだ。


 強訴を起こした寺社を相手に味方をまとめ上げ、瞬く間に鎮圧した。口で言うほど容易いことではない。


「終わりなき争いなど、もうたくさんだ。今しかないのだ。今しかな……」


 そうであろうな。一馬は己らが動かずとも、いずれ誰かが世をまとめると言う。されど、それはいつなのだ? 誰がまとめる? 


 数多の血を流し、因縁の上に生まれる天下など長続きするまい。穢れなどと言うつもりはないが、古き因縁や争いが子々孫々の足を引っ張るなどようあること。


 朝廷はもう頼りにならぬ。ならば己らで世をまとめ太平の国を作らねばならぬのだ。




Side:久遠一馬


 皆さん、まるで戦に出陣する前のような雰囲気だ。石橋さんは緊張したままだけど。このメンバーに同席するの初めてだしね。少し可哀そうかもしれない。


 史実の戦国時代では、織田信長が躍進する頃、足利家は力を落とし北畠家も伊勢の名門くらいになっていた。


 それも畿内を中心として歴史を見ればという話で、地方は地方の歴史がある。


 ちょっと不思議な気分かもしれない。オレたちは古き時代を取り戻したいわけではなかったんだ。足利や北畠を担いで世をまとめようなんて思ってもいなかった。


 むしろ時代の変わり目を足利や北畠が察したというべきか。


 生きて行くのは難しい。特にこの時代は争いのルールでさえ、あってないようなものだからな。


 しかし、崩壊寸前だった足利政権をよくここまで立て直せたね。もともと発足当時から足利家は地盤や武力に事欠いて苦労をしていた。それを思うと、地方が勝手をするのはある程度仕方ないところがある。


「一馬、支度のほうはいかがだ?」


 つらつらと考えていると義輝さんからお声がけがあった。いつもと違い、将軍としての威厳がある。


「はい、順調でございます」


 遠慮している場合じゃないし、妻たちも表立って動いているからな。奉行衆もこの期に及んで地位が足りないなどと頓珍漢なことを言う人はいない。


 普段はあまり動かないジュリアでさえ、夏と共に警護衆や六角家と協力して問題が起きないかと警戒を厳にしている。千代女さんとお清ちゃんはケティと共に毒などが混入しないようにと細心の注意を払っているし。


 エルも今回は全体の差配が忙しいので、料理は完全にセルフィーユに任せてあるくらいだ。


 一連の差配と管理は奉行衆と義賢さんとウチでしている。


「ああ、思ってもいなかったこととしては、与一郎殿のはも料理が公家衆の間で評判となっています。皆様、どうもウチの料理と勘違いしておられたらしく……」


 いくつか想定外のことが起きた。ひとつは鱧だ。いろいろと深読みしていた鱧料理の新しい技が、奉行衆である与一郎さんのものだと近衛さんたちに教えたことで結構な騒ぎとなった。


「あの骨切りか。京の都で手に入る鱧がうなぎのように食えたらと悩んでおったからな」


 義輝さんが嬉しそうな顔をした。藤孝さん本人も名を上げようとかそんな目的ではなく、鰻のかば焼きを習得したことで、鰻と似たような鱧を美味しく食べられないかと考えての行動だったらしいからな。


 ちなみに藤孝さん、シンディが教える久遠流茶の湯も免許皆伝クラスだし、メルティに習った書画も上手い。菊丸さんのお供として尾張にいる間、妻たちに教わったりして多芸になった人だ。もともと和歌、連歌、蹴鞠とかも出来るしね。


 公家衆からすると、ウチの技と勘違いする技を奉行衆の与一郎さんが生み出した衝撃は相当だったらしい。変わりゆくのは尾張だけで、あとは自分たちと変わらないと思っていたかららしいけど。


「明日からの婚礼も、与一郎殿は料理番と共に腕を振るうことになっています」


 尾張からも料理番は連れてきているけどね。与一郎さん、ウチの料理が作れるし、信頼出来るから、そのまま手伝ってもらうことになっている。


「そうか、それは楽しみだ」


 与一郎さんに関しては、本人が目立たないようにと常に気を付けていた人だ。今回の騒動で本人が困惑していたくらいだからなぁ。


 正直なところ、与一郎さんが名を上げても大丈夫だと思うんだけどね。だから隠すこともしなかった。


 鱧料理、骨切りと湯引きは、上皇陛下の料理番に教えていいんじゃないかと思っている。史実でも京の都の料理として有名だったし、与一郎さんも京の都のために考えたらしいからね。


 この技を義輝さんから上皇陛下にお伝えしたという形にしてしまうつもりだ。それにより義輝さんが京の都のことにも配慮を示しているとなるだろう。もとは近衛さんが勘違いしたことだが、それをそのまま利用することにした。


 偶然ではあるが、これで挙国一致での婚礼となるだろう。


 義輝さんたちが苦心して選んだ足利と北畠の婚礼だ。これを新しい時代の先駆けとして日ノ本に示す。


 それはオレの役目かなと思っている。




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