第2310話・お披露目の宴

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 戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。9巻

 6月20日発売です!

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Side:伊勢貞孝


 上様が御成りになると、場が引き締まるように静まり返った。そのまま上様が次席にお座りになると、最後に院が上座に鎮座された。


「面を上げよ」


 院と上様。共に、なんと晴れ晴れとしたお顔をされておられるのだ。


 特に上様は荒れ果てるばかりの世を嘆き、勝手ばかりする者らに苛立っておられた頃とは別のお方のようだ。


 諸国から参った者らも驚いておろう。


「皆、よう参った。諸国からかように多くの者たちが集まること、院の譲位と主上の即位以外ではいつ以来であろうか? 余は多くを望まぬ。されど、たまにはこうして皆で宴をするのもよかろう。今宵は日頃のことは忘れて楽しむがいい」


 上様……。歴戦の武士たちが上様のお言葉に呑まれておるのが分かる。足利の血筋でも朝廷の権威でもない。上様が皆に畏怖を与えておる。


 皮肉に思えるのは、わしが愚かだからか? かつて上様が望んだ将軍の姿がここにある。だが……、今の上様は決して満足した様子ではない。今この時ですら、まるで日々の雑務と変わらぬような。左様な様子にお見受けするのは気にせいであろうか?


「朕は大樹と日ノ本の皆が共にあることを願う」


 院のお言葉を賜ると、より一層、集まった者らの顔つきが変わったかもしれぬ。


 乱世となり幾年月。将軍も管領も政所も、皆、乱世を鎮めようとしていたことだけは同じだ。されど、成し得ぬままに時が過ぎ、諸国では足利の権威が通じぬようになりつつあった。


 ふと上座から随分と下座寄りのところに座るあの御仁が見えた。いや、わしが見たと言うべきか。斯波の臣下としての立場のまま、まるで情けで同席を許された。左様な者たちと同じ場にいる。


 本来、管領代殿と共に上様のお傍に座るべきであろうに。今までの武士ならば必ずやそうしていたはずだ。


 いかな顔をしておるのかと思うたが、安堵したような嬉しそうな顔をされておられる。


 あの御仁は今までにも自ら表に出ぬままに、斯波と織田を変えつつ押し上げてきたのであろうな。


 わしには分かる。管領代殿とて、内匠頭殿に担がれている立場であろう。今の世を動かしておるのはあの御仁だ。


 この乱れた世を鎮定するには、あれほどの御仁が必要だというのか? 内匠頭殿と奥方衆が日ノ本に現れて十年を過ぎた。多くの者は内匠頭殿を軽んじ、噂の黒船すら真似てしまえば、すぐに己らが勝るだろうと高を括っておった。


 無論、わしもそのひとりと言えよう。


 十年を過ぎて諸勢力が得たものは、尾張流の茶の湯と金色酒を飲むことなど、久遠の暮らしを幾ばくか真似ることだけだ。


 先年には奥羽の地において末寺が強訴の企てに加担した。京の都や西国の者たちが、叡山が信じられぬほど慌てたのを見て驚いておったくらいだ。


 天下の叡山が尾張と事を構えるのか。皆が固唾を飲んでみておったが、叡山は尾張を上位と認めるのを憚ることなく速やかに謝罪して収めてしまった。


 わしもあれには驚いたが、今にしてみると分かる。叡山は内匠頭殿を見据えておったのだ。


 船ですら真似ることが出来ず、同じ時が過ぎた分だけ久遠はより力を得て、東国において上様を超えるほどの権威を得つつある。


 近江には伊勢の神宮の使者が参っており、この慶事に誰かが斯波、織田、久遠との仲介や和睦をしてくれるのを待っていたようだが、その噂すらない。


 これはわしの推測になるが、院がそれを止めたのではあるまいか?


 院が内匠頭殿を神仏の使者とお考えだという話は知る人ぞ知ること。噂故、少々大袈裟なところもあろうが、神宮とて愚かなことをしたなら罰を与えることを容認したのではあるまいか?


 もっとも、立場が危ういのは神宮より若狭の管領殿か。譲位に続き此度も呼ばれることがなかった様子。上様がそれだけ嫌っておられるのか。それとも内匠頭殿が関わるのを避けておられるのか。


 とはいえ、少し前まで細川の内乱として管領殿と共に疎まれていた右京大夫殿は、近年になり上様からお声掛けや下命を賜るなど許されつつある。


 このまま乱世が終わるのか?


 わしには、あの御仁の胸の内だけは分からぬ。




Side:近衛稙家


 内匠頭を下座で見つけた院が、僅かに驚かれたようだ。


 無論、驚いておるのは院ばかりではない。三国同盟の者ら以外は、何故あのような下座におるのだと訝しげにしておる者すらおる。


 表に出て来ておるのだ。相応の席に座ったとて誰も異を唱える者などおるまいに。


「ふふふ……」


「近衛公?」


「いや、あやつらしいと思うてな。皆に問い掛けておるのじゃ。己が生き様を示し、いかに生きるべきかとな」


 思わず笑うてしまったわ。内匠頭とて、すでに一介の武士であるという体裁が通じぬのは承知のこと。意外に形にこだわる男ということもあろうが、自らを見て考えろ。そう問うておるのだ。


 慣例、当然であることを考え直す。久遠の知恵そのものじゃ。


 さて、内匠頭らはいかなる料理を出してきたのか。


 吾が知る料理、知らぬ料理があるが、目に留まったのは白い綿のようななにかに赤いタレが掛けられたものじゃ。


 これは……鰻か?


「違うの。これは……」


 赤いタレは梅じゃの。魚は鰻ではない。食うたことがあるものに思えるが、味わいが違い過ぎて今ひとつ思い出せぬ。


「大樹、これはいったい、なんじゃ?」


「はっ、鱧と聞き及んでおります」


 そうか! 鱧じゃ!! されど、あれは骨が気になりすりつぶすなどして食うもの。これは……、なるほど鰻のように開き、骨を切ったのか。その姿が綿のように見えたのはそのためじゃの。


「これが……鱧? なんと美味しものだ」


「梅ともよう合うの」


 居並ぶ公卿公家が見知った鱧の見知らぬ料理に驚きを隠せず騒いでおるわ。なんと品がよい味か、それでいて鱧と梅の味により、食欲が増して他の料理が食いたくなる。


 此度は大智と食師が揃って来ておるとか。いずれの料理であろうかの。院の御幸と大樹の新しき御所。その披露目の膳に鱧の新しき料理を用いる。


「近江にあっても大樹は京の都を忘れておらぬ。左様な気遣いを感じるの」


 愚か者にも分かるように声に出して教えてやると、周囲の者らが驚いた顔をした。鱧などわざわざ運ばせたのは左様な意思があるとしか思えぬ。


 されど、新しき技で料理を出したのは、畿内や京の都にも変わると良きことがあると示すためか? 


 あとで聞いてみたいものじゃの。



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