第16話 事件の解決

 ふあぁーあっ。顎が外れてしまうのではと思うほどの大きな欠伸をし、オレは机に突っ伏した。


 天ヶ瀬が事件の真相を言い当ててから、一日が過ぎ、昨晩眠ることが出来なかったオレは、放課後になってついに睡魔に抗えなくなった。

 ちょっと、教室で寝てから帰ろう。

 そんなことを考えていると、バタバタと喧しい足音が教室の外から響いてくる。昨日も聞いた足音に、それが誰のものか推理するまでもなく、オレは分かった。


「返ってきた。」山下は教室に入ってくるなり、大きな声を上げる。

「何が、返ってきたのですか?」

 わざとらしく天ヶ瀬は聞き返す。

「部費だよ、部費。ありがとう、天ヶ瀬さん。君のお陰だよ、本当にありがとう。」


 顔を伏しているので分からないが、多分山下は小躍りでもしているのだろう。それほどに声音は跳ね上がり、嬉しそうだ。まあ、昨日の朝依頼したことが、たったの一日で全て解決したのだから、喜ばないほうが嘘だろう。


「まあ、犯人は分からないままだけども、部費が戻ってきたし、合鍵も返却された。これで安心して、文化祭の部誌が作れるよ。」

 本当にありがとう。と、最後にもう一度例を言い、来た時と同じように五月蝿い足音を響かせて山下は教室から去っていった。

 どうやら、ことはうまく運んだらしい。やれやれ、


    ※


「今回、オレたちは事件の真相を誰にも話すつもりはありません。」市ノ瀬涼子と向かい合い、オレは言う。「匿名を使い、部費と同額の金額と詫び状を添えて部室に返還する。これがオレの考えた事件の決着方法です。」


「私を庇ってくれるって言うの?」

「先輩を庇うつもりはありません。自分で盗んだのだから、本来ならば謗りを受け、文芸部からの追放、最悪退学になったって、オレの知ったことではないです。でも、」


 オレの脳裏には、郷野の姿が浮かんでいた。恐らく、彼女は市ノ瀬が今回の事件の犯人であると知ったら、相当の衝撃を受けるだろう。


「そうなったら、悲しむ友人がいますよね?」

「雅美のこと、ね。」

「はい。郷野先輩は市ノ瀬先輩のことを、本当に信頼しているはずです。先輩のことを、責任感の強い人間だと言ってました。」そこまで信じている人間が自分たちを裏切ったと知ったら、彼女は一体どうなってしまうのだろうか。「だから、これは市ノ瀬先輩のための提案ではなく、郷野先輩のための提案です。」


「これが、君なりの雅美に対する接し方ってこと?」

「そういうことです。郷野先輩に直接何かしてあげようとかは思いませんが、まあ、好意を寄せてくれていたとしたら、これくらいのお礼はすべきかなって。」

「分かった。貴方のアイデアに従うわ。」

「ありがとうございます。」


 礼を言い、オレは自らの計画の概要を話した。

 まず、返すお金を用意する。そして、匿名の謝罪文。この二つはまあ、当然だ。これに加えてオレは合鍵を要求した。犯人が合鍵を持っていたとなれば、外の人間でも犯行可能と考え、部内での疑心暗鬼も解消されるだろう。


 一日掛け、オレたちは部室の合鍵を作製し、現金と手紙、そしてその鍵を一緒にして、文芸部の部室においた。山下の様子から考える限り、作戦は成功したらしい。これで、文芸部でのいざこざは回避できるだろう。争いが起きなければ、オレみたいに無意味に辞める人間も現れなくて済む。とりあえず、これでひと段落ついた。


 オレは安心して眠りの淵に落ちていった。

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