第7話 約束

「その後、私たちは男子と女子に別れて持ち物チェックをした。でも、何も見付からなかったわ。」

 伏目がちにしながらゆっくりと首を振り、郷野の話はようやく終了した。凡その流れは山下の話と同じだったが、残念ながら郷野のほうが内容を飲み込み易く、筋道を整理する必要はなさそうだ。まあ、一つ難を言えば、語りが鼻につき嫌らしさが拭えない。


「荷物チェックというのは、それぞれの鞄の中も調べたんですよね?」

 オレの感想を余所に、天ヶ瀬は建設的な問いをする。

「ええ。でも、何も見付からなかった。部室の中も、御手洗や自動販売機の前、その途中の廊下なんかも調べたけれども、それらしき物は一切見当たらなかった。」


「そうですか、」顎の先を撫でるように掻きながら、天ヶ瀬は頷く。「ありがとうございます。また後で、聞きたいことが出てくるかもしれないので、連絡先を教えてもらっても良いですか?」

「良いわよ。」

 鞄の中から携帯電話を取り出し、郷野は天ヶ瀬にQRコードを提示する。


「休み時間にお時間を取らせてしまって済みませんでした。」

 深々と頭を下げ、天ヶ瀬は上級生の教室を出て行く。そのあとに続こうとしたオレの背に、冷たい声が掛けられる。


「本当に、この事件を解決するつもりなの?」

 振り返ると、細い二つの目がオレを見詰めていた。

「そのつもりですけれども、何か不都合でも?」

「いいえ。結局、貴方は現実もパズルのようにして遊んでしまうのね、と思っただけ。」

「別に遊んでなんていませんよ。こっちは頼まれたから、わざわざ考えているだけです。」

「私は頼んだ覚えはないけれども。」

 眉間に皺が寄り、瞳には怒りがちらついている。

「でも、解決出来ずに、手をこまねいているんでしょう。なら、同じことですよ。」


「じゃあ、解決してみせて。もしも、真相を見抜いたら貴方のことを認めてあげる。」

「オレではなく、推理小説を認めてください。」

「……分かったわ、」短く言い、彼女は再び手許に視線を落とした。その姿は、まるで糸の切れたマリオネットのように力なく、今にも倒れてしまいそうだった。

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