第二十九話

「今日のスケジュールはこれで終わりだ。これから消灯時間までは自由時間になるが……。くれぐれも男子の部屋に無断で入るな。男子を自分たちの部屋に連れて行こうとするな。男子を―――」


 夕食後。

 大広間に集まっての今日最後の全体説明。

 話しているのは、聖美先生。

 めんどくさそうにしながらも、しっかり仕事をこなしているあたり、真面目な人なんだよなぁ。


 自由時間の過ごし方の注意点という話から入ったのだが……最後らへんは男子関連ばかりだった。

 まあ自由時間が一番男子が狙われやすいというか、女子が男子と距離を縮めるのに絶好の時間帯だよな。

 でも男子は、部屋に篭りっきりになる人が多そうな気がするが……。女子はどうするんだろうな。


 解散となったので、俺たちは部屋に戻ることに。

 男子と女子の部屋は階が違うので、途中で女子2人と鹿屋さんと別れた。


 俺の隣にいるのはいつも通り、留衣だけになる。


「なんだかんだであっという間だったなぁー」

「そうだね。林間学校は明日も続くとして……。今日は楽しかった?」

「ああ、楽しいよ!」


 遊び行くのとは違い、色々学ぶことがメインだけど……。

 やっぱりみんなで何かをするってのは楽しいし、そこから仲も深まる。

 実際班の女子たちともちゃんと話せたし。

 最高だな、林間学校!


「なあ、留衣。自由時間って俺は自由に行動していいの?」


 自由時間なのだから自分の好きにしていいだろ、と思うが……。

 貞操逆転世界だと、こういう確認は重要なのだ。

 ……あと、玖乃くのに散々慎重に、って言われたからな。


「そうだね。わたしに何をするのか連絡して、わたしと一緒に行動するなら自由に行動していいよ」

「……いいのか?」

 

 自分で聞いといて、ちょっと心配になる。


 男子が動くたびに、男性護衛官が付き添わないといけないというのが学校生活での義務。

 林間学校でもそれは変わらない。

 だから俺が自由に行動することによって、留衣の自由時間がなくなるってことにもなるが……。


「うん、いいよ。せっかくの林間学校。自由時間も楽しまないとね」

「留衣……。ありがとう〜!」

 

 留衣は爽やかな笑みを浮かべて頷いた。

 留衣って、ほんと優しいよなぁ!


「それに」

「ん?」


 ずいっ、と顔を近づけてきたと思えば、


「好きな人と一緒に行動できるのは、わたしにとってすごく嬉しいから」

「っ……」

 

 いつもの爽やかな笑みでなく、妙に色気がある微笑み。

 ドキッ、としてしまう。


『わたしのこと、これから君のことが大好きな女の子として、ちゃーんと意識してね?』

 

 告白を保留にしている身でありながらも、めちゃくちゃ意識しまくりである。


「ところで郁人」

「な、なんだ?」

って……どうするの?」

「……ん? お風呂はもちろん入るぞ?」


 午後は身体を動かして汗かいたしな。ちゃんとお風呂に入って綺麗にせねば。


「それはそうなんだけど……。お風呂は部屋で入る? それとも大浴場にいく?」

「あー……」


 そういう問題が出てくるのか……。


 そういえば聖美先生のさっきの説明でも……。


『男子は風呂は部屋に付いているやつを使うやつが多いと思うが……。もし、大浴場を使いたいと思うなら、男性護衛官と補助官の2人を見張として必ず連れていけよー』


 って言っていたな。


 俺的にはせっかく泊まりに来たのだから、大浴場に行きたいが……。

 俺の風呂までも、留衣やそれに鹿屋さんを付き合わせるのは悪いよな。

 

 ここは、自分の部屋で済ませて―――


「言っとくけど、遠慮はいらないからね?」

「え」

「郁人のことだから、わたしたちをお風呂の時間まで付き合わせるのは申し訳ないとか思っているんでしょ?」

「ゔっ……」


 見透かされている……。

 

「それに郁人に遠慮されると……わたし寂しいよ?」


 留衣が続けて言う。


『なんだよ、留衣。お前が遠慮してるなんてらしくないぞ。ちゃんと言ってくれないと………俺が寂しい!』

 

 俺が前に言った言葉をここで返されるとは……。


「……そっかぁ。留衣が寂しいなら、ちゃんと言わないとな」

「そうそう。ちゃんと言って欲しいな?」

「分かった。ありがとうな。じゃあ……」




◇◇


「おお! 広ーい!」


  10人くらい入れる大浴場と水風呂。それにサウナも付いている。

 

 俺は大浴場を選択した。 


 誰もおらず、貸切状態。

 こんな広々とした空間を貸切……テンションが上がるよな!


 なんで誰もいないのかというと、言わずもがな男子はみんな部屋に付いている風呂で済ませるから。

 

 男性護衛官が外で見張っているからと言って、男子の大浴場の場所は女子の大浴場の隣。

 隣といっても、少し離れているが……それでも男子は警戒するだろう。


「郁人ー。大丈夫そう?」


 更衣室の方から留衣の声が聞こえる。


「おーう。大丈夫だ! むしろ誰もいなくて貸切でいいぞ〜」

「それは良かったね」

  

 留衣の顔はもちろん見えないが、きっと微笑んでそうだな。


『どうだ? いい湯か〜?』

『雨で冷えた身体に最高だね』


 この感じ……大雨に遭ったあの時に似てるな。

 今度は俺が風呂に入るんだけどな。


 蛇口とシャワーと鏡のついた洗い場でまずは髪を洗う。

 シャンプーは備え付けのがあったが、男子は一応自分で持ってくるようにと言われたので自分のを使用。


 汚れが落ちるよう洗ったし、そろそろシャワーで流そうと……。


「ほんとだ。誰もいないね」


 留衣の声がまた聞こえた。

 俺が寂しくないように話しかけくれているのかな? 


「そうなんだよー。独り占めって感じで最高だろ?」

「だね。でも今は、2になったけど」

「え?」


 ……2人っきり? 


 引っかかる単語とともに、ペタペタと足音が近づいてくるのが聞こえる。


 髪を洗い流して、後ろを向けば……。


「次は身体を洗うのかな。わたし、手伝おうか?」

「え……留衣、なんで……」


 なんで、留衣が大浴場ここに入ってきてるの⁉︎



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