第二十八話

「えっと……料理ができるというか、包丁で食材を切ることができたり、ある程度の調理の常識があればいいんだけど……」


 俺は再度聞いてみる。


 もしかしたら、料理が物凄く上手って意味で捉えているかもしれない。


 他の班の女子たちは、元々料理上手かめちゃくちゃ練習してきた様子だったし、その熱に押されて中々言いづらいって可能性もあるよな。


 あっ、俺の手料理が食べたいってことなら喜んで作りますけど!


「……」

「……」

「「……」」

 

 そうして手が上がったのは……0人。

 やはりゼロ。

 

 えっ、これ前みたいに俺だけ何故か反応がないとかそう言うのじゃなくて、本当にみんな料理ができないのっ⁉︎

 美少女の手料理は! 

 俺だけ美少女の料理食べられないの⁉︎


「わたしがいうのもなんだけど……一回みんなで材料切ってみる?」


 留衣が苦笑気味に提案。

 

「そうだなっ。切ってみたら意外とできるっていうのもあるしな!」


 それから5分後……。


「なるほど……。よし! じゃあ俺が料理担当になるよ!」


 目の前の材料たちの様子を見て、言う。


 みんなに切ってもらったカレーの材料たち。

 にんじんはぶつ切りに。

 まだいい方だな。


 玉ねぎは途中、目に染みたのか、皮が中途半端に脱げており、アート作品みたいになっている。


 じゃがいもはあんなに面積があるのにサイコロステーキのサイズよりも小さくなっていた。


 サラダに使うトマトに至っては……べちょべちょ……うん……。


 そもそも包丁の持ち方から危うかったな。

 包丁をこう、拳を握るような時みたいにぐっ、と握っていて……。

 なんだが、ヤンデレヒロインの持ち方みたいだったんだが!

 皮膚ごと切り落としそうでヒヤヒヤしながら見ていた。


 材料ごとに味の染み込み方を考えた切り方とかあるから……って言っている場合の出来じゃないな。


 美少女の手料理は食べてみたいが、みんなにだけに任せていたら、カレーどころか野菜炒めもろくにできなさそうだ。


 ここまで散々感想を述べていたら分かると思うが……みんな本当に料理ができなかった。


「えーと……ごめんね、郁人」

「すいません、市瀬くん」

「「ごめんなさい……」」


 ズーン、とみんな落ち込む。


「いやいや! 料理ができないことを責めているわけじゃないよ! ただ、役割分担があるからさっ。慣れてない人が怪我すると危ないから事前に確認できて良かったよ!」


 なんかここまで落ち込むのを見るのは初めてである。 


「切り替えていこうぜ……!」


 なんとか励ましてみる。


 体育会系みたいな発言になったけど、俺たちこれから料理するだけなんだよなぁ。


「まずは片付けだね」

「うん、そうだな!」


 散らかったみんなの切った野菜がここにある状態では料理ができない。


「ではこの材料は処分しますね」

「あっ、待って鹿屋さん!」

「はい?」


 トレーにある野菜たちを集めて、持っていこうとする鹿屋さんを呼び止める。


「せっかくみんなが切ってくれた材料なんだ。料理に使わないのは勿体無いと思ってさ」

「……いいのですか?」

「もちろん!」


 むしろ、使わせて欲しい!


「でも郁人、この材料でカレーって作れるの?」


 留衣が心配した様子で聞く。


「まあ、家庭用で出る材料がごろっと入った系のカレーは作れないな」

「じゃあやっぱり材料を取り替えた方が……」

「待て待て。お題はカレーだろ?」

「うん、カレーだけど……」

「カレーって言ったら、家庭的なカレー以外にも他にあるだろ?」

「他?」

 

 留衣だけではなく、みんなも疑問な様子。

 

「ドライカレーなんてどうかな?」


 ドライカレーなら、みんなが切ってくれた野菜をあらみじん切りにすればいいだけだ。

 それにドライカレーの方が具材が小さくて女子は食べやすいと思うし。


「なるほど。ドライカレーかぁ。郁人がいいならわたしはいいよ」

「私も市瀬くんの指示に従います」

「私も!」

「アタシも!」


 みんな意見も纏まったし、早速作ってしまおう。

 それに、俺のお腹もそろそろ限界である……。


「じゃあ留衣は、水汲みを頼む」

「分かった」

「2人は火を起こしてくれないかな? それから飯盒でお米を炊いて欲しい。分からないことがあったら遠慮なく俺を呼んで」

「「は、はい!」」

「鹿屋さんは俺と一緒にここで調理して欲しい」

「分かりました」


 みんなそれぞれの役割へ。

 役割分担をすれば、あとはスムーズにいく。


 みんなが切ってくれた野菜をさらに細かく刻み。     

 フライパンには刻んだルウを加えて混ぜ、再び火にかけ水気をとばしながら炒める。

 炒めることだったら鹿屋さんでもできると思い、交代してもらう。


 その間に、火おこししている女子2人のところへ。飯盒で白米を炊く様子を見守る。


 水汲みが終わった留衣には食器の用意をしてもらった。

 

「……ねぇ、アレっ」

「市瀬くんだよね! えっ、市瀬くんが調理台に立っているよ!」

「ええ! あそこの班。男子が料理してるの⁉︎」


 そんな騒がしい声が耳に入ってきたと共に。


「ん? どうしたみんな?」


 ふとみんなから視線を集められていることに気づく。

 ちなみに今は、味の調整をしているところ。


「こうして郁人の料理している姿を見るのは初めてだなぁと思って。郁人は手際がいいね」

「まあ普段から料理してるからな」


 俺も貞操逆転世界に来るまでは料理はしたことなかった。


 母さんが男だからって何かと優遇しないで、とりあえずなんでも挑戦させるって教育方針だったものあるが……。


 何より料理ができるってことは、モテ要素の一つになるかと思ったからな!

 

「それに指示も的確だったし。料理もできるし。凄いよ、郁人は」

「お、おう……ありがとう」


 そんなに褒められるとなんか照れるなぁ。


「私、男の人で料理する人初めて見たっ」

「ねー。カッコいい〜」

 

 女子たちの反応もいいみたいだ。

 俺、料理できて良かったよ!


「でも俺より弟の方が料理上手いんだよなぁ」

「弟! 弟いるんだぁ!」

「市瀬くんの弟なら絶対いい子だよね〜」

 

 おっと、玖乃の話題で盛り上がった。

 これで玖乃が美少年と分かればさらに大盛り上がり。


 玖乃は来年はうちの高校を受験して入るし、時間があればみんなに玖乃のことを話すのもいいかもな。


 それから時間内にちゃんとドライカレーと付け合わせのサラダを完成させた。


「カレールーが入ってないじゃん! これじゃ肉じゃがだよ!」

「あっ! 夢中になってお米焦がしちゃったよ!」

「カレー自体作ってなかったっ」

「むしろ、カレー分けてもらえないかなぁ。男が作ったカレー……」


「お前らー! ちゃんと完成させろよ! 班行動に入るからなぁ。成績に響くぞー」


 聖美先生がそう言えば、みんなドタバタと忙しそうになった。


 他の班もなんとか完成させて、全体で合掌をして食べ始める。


「ん、美味しい!」

「美味しいですね……」

「何コレ! ふわぁぁ!」

「お、美味すぎる‼︎」


 みんなの反応を見るに、美味しく出来たようだ。

 女子2人は若干興奮気味である。


「うん、美味い!」


 ドライカレー自体も美味いが、こうしてみんなと食べるとより美味しく感じる。

 林間学校前はどうなるか心配だったが……楽しい! 

 女子と話せるし、楽しいよ林間学校!


 ただ、贅沢を言えば……。


「はいっ。あーん!」

「あー! ずるいっ。私があーんするんだからっ」

「むしろアタシごと!」


 もっとグイグイ来ても構わないんだけどな!

 

「市瀬くん、どうしました?」

「いや、なんでもないよ。あはは……」


 グイグイ来ても良いよ、なんて俺から言うわけにもいかないよな。

 男性護衛官の留衣や補佐官の鹿屋さんがいる意味がなくなるし。


「おかわりいってくる!」

「アタシも!」

「じゃあわたしも行こうかな」


 女子2人と留衣がおかわりを取りに行く。

 俺と鹿屋さんは2人っきりに。

 

「ドライカレー、本当に美味しいです。ですが、私はもうお腹いっぱいで……」


 申し訳なそうな顔をしている鹿屋さん。

 チラッと留衣たちの方を見たことで察する。


「おかわりするのは自由だから気にしなくてもいいよ。それに、鹿屋さん綺麗に完食してくれてるし!」

 

 鹿屋さんのお皿は一粒も残っていない。

 そういえば、食べ方も凄く綺麗だったよなぁ。育ちが良いのかな?


「市瀬くんは優しいですね」

「ありがとう。まあ怒ったりするより、優しい方がいいよね」

「そうですね。……だから皆さん……」

「うん?」

「なんでもありません。お水のおかわり持ってきましょうか?」

「あっ、お願いしても良いかな?」


 戻ってきた留衣たち入れ替わりに、鹿屋さんが俺の分まで水を注ぎに行ってくれた。


 鹿屋さん気配りができていい子だなぁ。


 だが、鹿屋さんを見ていると……どうしても思ってしまうことがある。


「……」


 俺は……鹿屋さんの脚に注目する。


 ジャージだと黒タイツが見れないじゃん!





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