第二十二話
「あっ、市瀬くん戻ってきたから……」
「そうだね。じゃあタイミングはわたしが出すから、その後はくれぐれも節度を守って……」
「はぁーい」
「やったぁっ」
「うん?」
昼休みもあと少し。
トイレから戻ってくれば、留衣の席に集まったクラスの女子たちがちょうど自分の席に戻っていくのが目に入る。
あっ、鹿屋さんもいた。
みんな、何やら俺を見るなり去っていった気もするが……。
「ただいまー」
とりあえず、留衣の隣である自分の席に座る。
「おかえり、郁人。無事で良かったよ」
「トイレに行くだけで大袈裟だなぁ。……もしかして俺、邪魔した感じ?」
チラッと周りを見てから言う。
「ううん。こっちこそ大勢で集まっていてごめんね。席に座りにくかったよね」
「それは別に気にしてないぞ」
きっとみんな、留衣と話したくて集まったんだと思うし。
留衣はイケメンな上に聞き上手だしな。
くぅぅ! 俺も女子に話しかけられたいぜ!
「でも邪魔したのは確かだよな。すま——」
「郁人が邪魔なんて絶対ないから」
留衣が俺の言葉を遮って言ってきた。
「……留衣?」
なんだが様子が……。
「とにかく、わたしがイケなかったから。ごめんね。郁人のせいじゃないから謝らないで。ね?」
「お、おう……分かった」
妙に真剣な表情だったので、俺は頷く。
でも本当に俺は気にしてないけどな。そんな器の小さい男じゃないし!
そういや、今日の留衣はちょっと様子が変だよなぁ。
朝からかな? 時より暗い顔というか……。
何かあったのだろうか?
◇◇
5、6限目。今日も林間学校についての時間だ。
「これがざっくりした林間学校のスケジュールだが……お前ら。イベントよりも自分の学校名と宿泊場所の名前を覚えとけよー。この2つさえあれば当日遅刻してもなんとかなるからなぁー」
「先生〜。あたしらが遅刻するはずないじゃん〜」
「そうだよ〜。むしろ1時間前に来るよー」
赤ジャージを羽織った我らが担任、
クラスにちょっとした笑いが起きた。
確かに林間学校という女子にとってはビッグイベントな日に遅刻するなんてあり得ないよな。
あとみんな……笑っているはずなのに目にすごい熱気を感じるのは気のせいだろうか? うん、気のせいじゃないな。
いやー、男子は大変だなぁ。
俺? 俺はむしろウェルカムだけど。
「郁人、当日起きれる?」
「もちろん!」
隣にいる留衣に聞かれ、即答する。
俺は林間学校が楽しみで、当日は遅刻なんてするはずがないけど。
むしろ、遅刻しないようオールして行くかもしれない。移動はバスだし、その時に寝ればいいしな。
黒板を見れば、林間学校のスケジュールが簡単にだが書かれている。
その中で、一番大きな文字で書かれているのは、学校名と宿泊場所。
「俺たち
一応、スマホのメモ帳にメモった。
まあ俺が忘れたとしても留衣が覚えているから大丈夫だろう。
先生がスマホを使って調べていいと言ったので三条プリンスホテルについて調べてみると、結構いいホテルだった。
「時間がちょっと余ったなぁ。あとは自由時間だー。班で喋るなりしとけー」
先生のその言葉でクラスが賑やかになる。
それぞれの班で盛り上がっている様子だ。
俺たちの班はというと……。
「……」
「「……」」
静かである。
ちなみに俺の左には留衣。右には鹿屋さん。
目の前に、残りの女子2人という位置で座っている。
さて、俺たちの班も何か話したいところ。
しかし、俺が話しかけてもきっと無視されるだろうし……。
かと言って、話しかけられるのを待っていても結局、話しかけてもらえず無言のまま。
ふむ、どうしたものかぁ……。
「当日、楽しく活動するためにもまずはお互いのことを知ろうか。質問とか……投げてみる?」
留衣が爽やかな笑みを浮かべ言った。
仕切ってくれるの、ありがたいぜ!
だが、こう言う時。質問を投げられるのは……。
「留衣くんってすごいスタイルいいけど、普段気をつけていることとかあるの?」
「留衣くんは休日何やってるのっ」
みんな、留衣に質問したいよなぁ。
留衣はイケメンで人気者だからなぁ。
「そうだねぇ」
留衣は投げられた質問に淡々の返していく。答え慣れているって感じだ。
全てがイケメンだなぁ。
蚊帳の外状態だった俺だが……。
「じゃあ次に、郁人に質問したいことはあるかな?」
「えっ? 俺ぇ⁉︎」
いきなり留衣にそう振られて、変な声が出てしまった。
「留衣……?」
「郁人もみんなと仲良くなりたいんだよね? 林間学校を楽しむためにも」
「お、おう……そりゃあなぁ……」
林間学校はみんなでワイワイしたい。そのためにもせめて班の人たちとは仲良くなりたいなぁ、なんて思っていたが……。
留衣がこうして他の女子と接点を持たせてくれるの、珍しい。
そもそも、男性護衛官だからそんなことをしちゃいけないみたいなところがあるが……。
でも留衣がこうして言ったって、俺が話しかけられるとは———
「あー、わたしちょっとお腹痛いからトイレに行ってこようかなぁ〜」
「え、え?」
突然留衣が、棒読みっぽい口調で立ち上がった。
「鹿屋さん。3分くらいお願いね」
「はい」
鹿屋さんに何か言ったと思えば……スタスタと教壇にいる先生の元へ。
それから許可を貰ったのか、教室を出た。
「……」
一連の留衣の動きを呆然と見てから……俺はゆっくり視線を戻す。
当然だが、隣に留衣がいない。
今いるのは、普段あまり話したことがない鹿屋さんと女子2人だけ……。
「……」
え……どうしよう⁉︎
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