第十八話
「はい、じゃあくじ引いたなー。自分の班の番号も確認したなー」
聖美先生が再び教壇に立つ。
くじは引いたし、番号も確認した。
だが、俺には……いや。みんな疑問に思うことが出ただろう。
「先生ー! くじを引いてない人がいるのはなんでですかー!」
1人の女子生徒が声を上げた。
聖美先生は箱を差し出して、生徒にくじを引かせて回っていたが……。
『あっ、君は引かないでね』
何故かそう言い渡される生徒が数人いた。
全員の注目が聖美先生に集まる。
聖美先生はにぃ、と意味深な笑みを浮かべた。
「じゃあ改めて班決めのことについて説明するなー」
えっ、くじ引きで決めるんじゃないのか?
そんな疑問が出たのは俺だけではないだろう。
「さっきくじを引かなかった3人。まずは男性護衛官の3人だな。お前たちは担当する男子が引いた班にセットでついていってもらう。林間学校でも引き続き護衛してもらうぞ」
俺はボールの数字を留衣に見せる。
"2"と書かれている。
つまり、俺と留衣は2班ということ。
「それと、男性護衛官以外でくじを引いていないのが……あと3人いるよな? 君たちは今回、男性護衛官の補佐役的なことをしてもらう」
「補佐役?」
そんな声がチラホラ上がり、クラスがザワザワと騒がしくなる。
「ああ、補佐役だ。林間学校では、男性護衛官は連絡関係でちょくちょく集められることになるからな。その時、傍に護衛官してくれる人がいないんじゃ、不安になるだろ? 補佐官は、その時の代わりの護衛としての意味合いもあるが……」
聖美先生は一息ついて、
「林間学校の班は5人。男性護衛官はいいとして……。男子1人対して女子は3人関わることになる。だがそれだと……ハードルが高いだろ?」
田中と高橋の方にチラッと視線を移した。
2人は分かりやすく肩をすくめた。
俺はというと、全然平気だけどな!
聖美先生もそれも分かっているのか、俺の方は見向きもしない。
「今回、事前に男性護衛官の3人に補佐役の生徒を選抜してもらった。男性護衛官が選んだ女子生徒ってことなら、少しは話しかけることもできるだろう?」
「ま、まあ……」
「そうですね……」
田中と高橋が小さく言う。
ところで先生! 俺は大丈夫ですからね!
一応そういう視線は向けときます!
「今回の林間学校では、男子のお前らが少しでも話せる女子を見つけられたら、アタシは嬉しいよ。まあ? うちのクラスの女子はチンパンジーみたいにうるさいやつが多いが……」
「ちょっと先生言い方ー!」
「もっといいところ言ってよ〜〜!」
「アタシたちチンパンジーじゃないしー」
そんな声が上がるのを尻目に、聖美先生は……ふっ、と小さく息を漏らして続きを話す。
「ちゃんと節度は守れる生徒がばかりだ。それに関われば、それぞれ癖もありつつ、面白いやつばかりだしなぁ。だからお前らも、ほんのちょっとくらいは信用して、聞かれたことには返すぐらいはしてもいいんじゃないか? 女だからって全員が全員同じやつって決めるのは勿体ないと思うぞ」
聖美先生の言葉が染みたのか、田中と高橋は先ほどよりもほんの少しだが……大きく頷いた。
それから黒板にはそれぞれの班のメンバーの名字が書かれた。
林間学校の班決めといえば、1限まるまる使ってでも決まらないイメージがあったが……。
ここまでの時間はわずか20分。
「よし、これで班決めは終わったな。いやぁ、スムーズだっただろー」
「ほとんど先生が決めたじゃん!」
「もうちょっと私たちにも決めさせてよ〜」
「これ以上自由にしたらお前ら、絶対揉めるだろ? それはそれでめんどい。隣の竹林先生のとこは、生徒に押し切られて班決めは自由にしているが……ありゃ対応が大変そうだけどなぁ……」
先ほどから隣のクラスが騒がしいとは思っていたが、そういうことか。
「その点先生は……ふふ。先生意外と考えているだろ?」
ドヤっ、とした表情になった。
褒めてもいいんだぞ? って感じも入ってそう。
普段気だるげなことが多いが、意外と効率が良い方法を思い浮かぶよなぁ。
それに、今の班決めは先生がほとんど決めたと言いつつも、クラスを見渡せばなんだかんだで納得している雰囲気があるのは、先生が生徒からの信頼されているってこと。
「……まあ補佐官制度については考えたのは、アタシじゃないんなけどなぁ」
クラスが少し騒がしく中、聖美先生が何か言ったような気がしたが……。
俺には聞こえなかった。
◇◇
それぞれの班で集まって顔合わせや軽く自己紹介の時間になった。
俺が動く前に、他の女子たちが机と椅子を素早く会話がしやすいようにくっつけて並べてくれた。
「ありがとう!」
ニコッとお礼を言えば、並べてくれた女子たちは小さくぺこぺこしてささっと移動した。
「はいはいー。早く移動するぞー! はい、そこっ。男子がいないと分かって座りたくないとか思わない!」
5班いるうちの3班は男子がいないからな。
尻目に見えば、5人女子が揃った班はどんよりとした空気になっていた。
俺と留衣も移動し、同じ班となる女子生徒も来て、みんな席に着いたところで……。
「じゃあまずは自己紹介でもしようか」
留衣がそう言って、進めてくれる。
俺と留衣の順でまずは自己紹介をし、続いて女子2人も終わった。
あとは……。
「最後はわたしが抜選した生徒だね」
留衣が視線を向ける女子生徒。
俺の対面にいる子だ。
「はい。
鹿屋さんは淡々と述べた。
鹿屋さんは茶髪をポニーテールにしていて、前髪は綺麗に真っ直ぐ切り揃えれている。
口調は落ち着いており、クールな優等生という印象だ。
そしてうちのクラスの委員長でもある。
普段、個性豊かなみんなを纏めており、テキパキと無駄がない仕事をしているイメージだ。
「みんなよろしくね。このメンバーなら林間学校も楽しくなりそうだね」
そう言って、留衣が爽やかな笑みを浮かべれば、女子2人がぽっと顔を赤らめた。
このイケメンめっっっ! かっこいいから憎めない‼︎
「確かにこのメンバーでなら楽しい思い出ができそうだなっ」
俺も留衣に続いて言ってみる。
べ、別に対抗とか、いうわけじゃないぞ……!
ただ留衣の次に言えば、流れで少しは反応がもらえるのではないかと……。
「は、はい……」
「よろしくお願いします……」
「よろしくお願いします」
俺の時は冷静な返事が返ってきた。
反応を返してくれたのは嬉しいけど、さっきとテンションが違う⁉︎
やっぱり顔が良くないとダメなのか!
「はいはい。郁人は一回置いといて」
「なんで⁉︎ 素直な気持ちを述べただけなのに!」
留衣までなんか反応が雑じゃないか⁉︎
「班のリーダーはどうしようか?」
真面目な話になったので、大人しくする。
班のリーダーかぁ。俺がやってもいいけど、男がなるのはダメそうな気がするなぁ。
「わたしは男性護衛官の仕事があるから……ごめんね」
留衣が言う。
それは仕方ないと思う。
男性護衛官もして林間学校の班のリーダーもしたら大変だろうし。
となれば、残るは女子3人の誰か。
3人とも視線をチラチラ合わせていた。
この様子だと話し合いというよりかは、ジャンケンになるかと思いきや……。
「わたしがリーダーになりますよ」
鹿屋さんが手を上げた。
「ありがとう、鹿屋さん。助かるよ」
「いえ」
2班のうちのリーダーは、鹿屋さんに決まったのだった。
◇◇
6限目終了のチャイムが鳴り、合わせていた机を元に戻して、自分の席へ。
「今日はこれで終わりだ。次は林間学校のスケジュールについてだな。あと、男性護衛官の3人は終わったらちょっと前に来てくれ」
終わりの挨拶をすれば、留衣は聖美先生のところへ行った。
「市瀬くん」
「ん?」
スクールバッグに教材を入れていると、誰かに名前を呼ばれた気がした。
顔を上げれば、鹿屋さんがいた。
「………」
あれ? 今俺……女子に話しかけられた?
留衣以外の女子に話しかけられた?
「市瀬くん?」
また、話しかけられた。
ちゃんと聞いた。
俺は、女子から何故か話しかけられないどころか、避けられていた。
そんな俺だが、話しかけられた……。
「市瀬くん? なぜ泣きそうなんですか?」
「気にしないでくれ!」
涙をすぐ引っ込め、満面の笑みを浮かべる。
そんな俺など気にせず、鹿屋さんは淡々と言う。
「市瀬くんに改めてご挨拶をしようと思いまして」
「挨拶?」
「はい。遠坂さんがいない時の護衛をさせてもらいますから」
「お、おう」
鹿屋さん真面目だなぁ。
チラッと周りを見れば、田中と高橋のところにも補佐役として選ばれた女子が行っていた、
きっと彼女たちも挨拶とかだろう。
みんな偉いなぁ。
「しっかり護衛しますのでご安心を」
「鹿屋さんなら安心できるね。普段もしっかりしているし。よろしく!」
「………」
「ん? 鹿屋さん?」
「……いえ。なんでもないです。よろしくお願いします」
本当に挨拶だけだったようで鹿屋さんは小さくお辞儀した後、自分の席に戻った。
ふむ、俺としてはまだまだ話し足りないが……。
「林間学校で俺も少しは女子に話しかけられるといいなぁー」
「林間学校……さて、どうしようかな」
一方で。
留衣は何やら悩んでいるように、少し険しい表情でそんなことを呟いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます