第十三話

「ホットミルクとココア作ったんだけど、どっちがいい?」


 留衣の話を聞く前に、俺は温かい飲み物を作った。

 いくらシャワーを浴びたからって身体の芯から完全に温まったわけじゃないからな。

 それに、温かいものを飲みながらの方がリラックスして話せるだろうし。

 あと、俺自身も落ち着くために。


「うーん……ホットミルクもココアも甘くて美味しいから、どちらも捨てがたいなぁ」


 ホットミルクとココア。それぞれが入ったカップを交互に見て悩んでいる様子の留衣。

 前から思っていたが、留衣はがっつりご飯系ってより、飲み物系の方が好きだよな。


「おかわりして両方飲むって方法もあるぞ?」

「それもアリだけど……。んー……。あっ、じゃあ」

「おっ、どっちにするか決めたか?」

「"お揃い"って選択肢はあるかな?」

「ん?」

 

 お揃い……?

 戸惑った俺だったが、両手に持っているカップに視線を落とす。

 お揃いってことはつまり、同じ飲み物にするって事か? 

 それだったら、ホットミルクにココアの粉を入れた方がいいよな……?


「両方ココアにするって事でいいのか?」

「うん、そうして欲しい。可愛いわがままでごめんね」

「自分で可愛いって言うのかよ。まあ、そのくらいなら……可愛いよ。うん、可愛いー」

「なんか棒読みじゃないかな? ふふっ」


 先にココアを留衣に渡して俺はキッチンへ。

 味のバランス考えるとちょっと飲んでからココアの粉を入れて混ぜた方がいいよなぁ。

 

「ん、温かい牛乳ってこんな美味かったっけ。あとはここに入れて……。これで良し。美味いココアができた」

「じゃあわたしも飲んでいい?」

「先に飲まなかったのか」

「だって、1人で飲むなんて寂しいじゃん。……ん、美味しい」


 ほぉ、と息を吐く留衣。

 分かるぞ。湯冷めしてきた頃に温かい飲み物は格別だよな。

 ……などと、いつも通りの俺と留衣のテンションで話す。


「……じゃあ、隣失礼」

「うん……」


 再び、留衣の隣へ座る。

 留衣がもう一口飲んで、両手でカップを持ち、膝の上に置いたところで……。


「……その、ね」

 

 留衣が話し出しそうだ。


「……わたしはね、この高身長とこの大きく育った胸が原因で……小学校高学年くらいからかな? 男子から怯えられ、嫌われて。女子から遠ざけられていたんだ」


 出だしから、衝撃を受ける。

 留衣にそんな事が……。

 それから俺は、留衣の過去を聞いた。






「―――これがわたしの過去。だからどっちかというと、あえて大きな胸を隠したりとか、口調をこう、ちょっと大人っぽくしたりとか……。男装して隠し通してきたから、郁人が気づかないのも無理はないよ」

「そ、そうなのか……」


 ここまで黙って聞き終えた俺は、視線を留衣から一旦逸らし、頭の中で内容整理。

 過去の話といっても、この数時間で留衣の16年間が全て分かるはずがない。 

 あくまで留衣が簡潔にまとめたもので、俺が知らない事はまだまだあるだろう。 

 だから……簡単には、「辛い過去があったんだ」って、分かったような口はできない。


「ん〜〜。はぁ……。ありがとうね、郁人。話聞いてくれて」


 留衣が少し足を伸ばしたりして楽にする。


「わたしの過去の話はここまでとして……。まあ? この間の、サラシを巻いてない巨乳なわたしを見て、女装って言ったのはびっくりしたけどね」

「ゔっ、それはすまない……」

「ふふ、いいよ」


 留衣は小さく微笑み、カップに口をつける。

 俺もゆっくりとカップに手伸ば……そうとして、止まった。


『郁人―――わたしの姿、見てよ』

  

 留衣が後ろから抱きついて本当の姿を明かしてくれたのなら。


「留衣」

「うん?」

「話してくれて、ありがとうな」


 俺は留衣の頭を優しく撫でる。 

 これが打ち明けてくれた友達としての立ち位置でできる最大限のことだと思う。


「っ、全く郁人は……」


 頬を赤く染める留衣に、俺までもドキッとして顔が熱くなったのを感じた。

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