俺の周りの女の子だけ様子が変な林間学校
第二十六話
2週間後。
ついに林間学校当日の朝を迎えた。
生徒手帳よし。荷物よし。しおりよし。よし! 林間学校に行くぞおぉぉぉぉ‼︎
朝早いので心の中でそんな雄叫びを上げながら玄関へ。
母さんと玖乃を起こさないようにそーっと階段を降りて、靴を履いて……。
「兄さん。もう行くんですね」
「っ、玖乃⁉︎」
ドアを開けて外に出れば、待ち構えたように玖乃がいた。
そういえば玄関のドア、鍵開いていたな。
「兄さんのことだから私とお母さんを起こさないようにと、朝ご飯も食べずに静かに家を出るかと思いまして」
さすが、玖乃。俺の行動パターンをすべて読んでいる。
「見送りだけでもさせてください」
玖乃がまっすぐな瞳で見つめてきた。
なんていい弟なんだ……。
おそらく心配だからって理由が大きいのだろう。
なんせ今日は林間学校……。俺は中学では行ったことがないけど、男子と女子それぞれの反応を見ても、普段とは違って何か起きそうな感じはする。
「兄さん、ネクタイ少し曲がってますよ」
「お、マジか」
「直しますね」
玖乃が結び直してくれる。
普段制服で自分のネクタイを直し慣れているので手際がいい。
その様子を眺めつつ……。
「……」
身長差はまだあるものの、玖乃も成長したよなぁ。
なんてことを思う。
従兄弟である玖乃がうちに来たのが約4年前……。俺が中学1年生で、玖乃はまだ小学6年生だったもんなぁ。
あの頃の玖乃は人見知りでどこか他人行儀で、仲良くなるのにちょっと時間がかかった。
今は休日一緒に出掛けたりするくらい、仲良しだけどな!
「はい。これで大丈夫です」
「ありがとう」
「何かあったら連絡してくださいね? 特に……身の危険を感じた時とか」
「分かった。でも留衣や鹿屋さんがいるから何も起こんないと思うけど」
「その油断が命取りですよ」
命……⁉︎ いや、林間学校だからさすがにそこまでは……。
「ま、まあ……はい。肝に銘じておきます」
「はい」
ここで「大袈裟だなぁ」なんて言うと、また玖乃のお説教が始まりそうなのでとりあえず頷いておく。
話が一旦終わり、お互い無言になる。
朝が早いので辺りはシーンとしている。
玖乃はまだ家に入る様子はない。
俺はスマホを確認して……。
「玖乃」
「はい」
「留衣が来るまであと5分らしいから……それまで雑談に付き合ってくれるか?」
「! はい、もちろん」
玖乃は小さく笑みを浮かべた。
その後、迎えにきてくれた留衣と一緒に学校へ向かった。
「兄さん、留衣さんと行きましたね。その留衣さんが一番危ないですよ。……そして私も」
◇◇
「じゃあ各クラス、バスに乗り込んでください〜」
出発前の集会も終わり、クラスメイトたちがバスに乗り込む。
男の俺たちは最後の方だ。あらかじめ席が決まっているらしい。
隣にはちろん、男性護衛官が座ることになっている。
つまり、俺の隣は留衣。
「ふわぁ……」
「眠そうだね、郁人」
「んぁ……まあな」
家を出る時には目が冴えていたものの、今はあくびが止まらない。
昨日は早めに寝たが、その分早く起きてしまってゲームで時間を潰していたんだが……。結局、ゲームのしすぎなのが目がしょぼしょぼして眠い。
「早く起きたから時間を潰そうとゲームでもしていたんじゃないか?」
「おお、正解」
玖乃といい留衣といい、俺の行動パターン読めるの凄いな。
えっ、俺そんな分かりやすいのか?
「睡眠をしっかり取らないとせっかくの林間学校楽しめないよ?」
「だな」
最近は女子たち話しかけられているのに、林間学校になったら眠くてそれどころじゃないってなったら最悪だ。
「それに……」
「うん?」
バスに乗る順番が回ってきたので、進もうとしたが……。
留衣に服の裾をちょこん、と控えめに掴まれた。
「わたしも郁人との林間学校、楽しみだから」
「お、おう……」
頬を少し染めて上目遣い気味に言う留衣の姿に、少しドキッとした。
◆◆
「すぅ……すかぁー……。ふへへ……」
バスが出発して5分後。
わたしの隣には、何やらいい夢を見ているのか、だらしない笑みを浮かべた郁人の姿が。
「全く……。危機感がないねぇ」
相変わらず、女子がこうして一緒の空間にいる中で寝れるのも凄いけど……。
一応、隣にいるのは君のことが大好きな女の子なんだけどなぁ……。
「んん……」
「っ」
こてん、と。郁人がわたしの肩に頭を預けた。
「はぁぁ……」
ほんと、無自覚とは恐ろしい。
わたしは今日も郁人にドキドキさせられる。
視線を夢中にさせられる。
そしてそれは――――わたしだけではない。
わたしはそういう視線には人一倍敏感だ。
通路を挟んだわたしの隣の席。
先程からチラチラと郁人を見ているのは……鹿屋さん。
気になるよね。
だって鹿屋さんは――――
「市瀬くん。やはり……覚えていないですよね、私のこと」
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