第二十四話
「ふんふんふんふん〜♪」
「最近機嫌がいいですね、兄さん」
「おうよ! ふふふふ」
また笑みが漏れ出す。
なんたって最近の俺は……学校で女子に話しかけられるようになったのだ!
そう、女子に!
めちゃくちゃ嬉しいいいぃぃぃぃ!!!
何故か俺だけ女子に話しかけられないと思っていたが……どうやら時間の問題だったようだ。
そうだよなっ。林間学校というイベントは女子にとっては男と接近するビッグイベントだもんな!
俺も例外じゃなかったんだな!
まあ話しかけられると言っても、休み時間や昼休みに毎回というわけでなく、林間学校についての時間や放課後のちょっとした隙間時間に会話する程度。
だから、モテているってのとは違うが……それでも友達になってくれそうなくらいの勢いがあるよ、今!
「兄さんが嬉しいそうなのはいいことですが……今は私と出かけていることも忘れないでくださいね? 兄さんから誘ったのですから」
「もちろん。忘れてないぞ!」
休日。俺と
『玖乃! 家でゴロゴロするの飽きたから一緒に外行こうぜ!』
『いいですよ』
といった流れで、玖乃を誘ったのだ。
いきなり誘ったってのに、嫌な顔ひとつせず付き合ってくれるなんて、玖乃は優しいよなぁ。
まあ玖乃はクールであまり自分の感情を表に出さないタイプだけど。
でもたまにめちゃくちゃ分かりやすい反応するけどな。
『兄さんの……ばか……』
ちょっと前までは不機嫌な様子もあったけど、今はいつも通りだ。
いやぁ、良かった良かった。
反抗期なんてこなくていいからな!
「お兄ちゃんなんて嫌い!」なんて言われた日にはお兄ちゃん、号泣しちゃからな!
出掛けると言っても、そこら辺のコンビニまでとかじゃつまらないので、ちょっと歩いた先にあるショッピングモールに行くことにした。
◇◇
「うおっ。やっぱり休日とあって人が多いなぁー」
「そうですね」
ショッピングモール内に入れば、周りは人人人……人だらけ。
休日ということもあって、男性の姿もチラホラ見えるが、やはり圧倒的に女性が多い。
視線ももちろん……てか、かなり感じる!
でもこれは隣の玖乃が集めているんだろうなぁ……。
隣の玖乃を見る。
ベストとパンツのセットアップという一見普通のコーデだが、玖乃のような美形が合わさると特別感が増す。
「ねぇ、あの人かっこいい〜」
「美少年もアリだよね」
「美少年×好青年もアリ……」
ほら、耳をすませば声が聞こえてくる。
1つなんか違うものが紛れている気もするけど。
相変わらず玖乃は、女性にモテモテの様子だが……今回の俺は一味違う。
モテてないのはいつも通りとして……俺も学校では女子に話しかけられてるからな!
それだけで気持ちの持ちようが違う。
あれ? 俺ってちょろいのか?
前の時計を見れば、時刻は11時過ぎ。
「玖乃どうする? お店が混む前に先に昼飯を済ませておくか?」
「そうですね。男性である兄さんが安全なよう、早めにしましょう。兄さんに何かあることだけは避けたいですから」
「お、おう。ありがとうな……」
中学では男性護衛官をしていることもあってか、女性に対する警戒心が人一倍ある。
俺に対してもこうして過保護だ。
「でも玖乃だって危ないだろ? 男性護衛官だとしても、側から見れば、俺たち男2人で外に出ているもんだし」
「……そうですね」
玖乃のほっぺがちょっと膨らんだ。
えっ、今の発言に何か不満なところがあったのか⁉︎
「なんでもありませんよ。とにかく、兄さん私から離れないように」
心なしかワントーン低い声で言われる。
「分かってるよ。じゃあはぐれない手でも繋ぐか?」
「え」
そんな事を言ってみる。
でもよくよく考えたら、男同士で手を握ってもつまらないか。
つまらないというか、玖乃に冷たくスルーされそう。
「なんてな。はは、冗談じょ―――んぎゃ⁉︎」
俺の左手に急に締め付けが!
視線を下げれば、玖乃によってぎゅっと握られていた。
「えと……玖乃?」
「兄さんが誘ってきましたもんね?」
「え?」
「兄さんから手を繋いでと誘ってきましたもんね? ね?」
「え、あれは冗―――」
「兄さんは私に嘘なんて付きませんよね?」
玖乃の表情が張り付いた笑みになる。
「お、おう。お兄ちゃん嘘つかないぞ……!」
俺はぎゅっ、と玖乃の手を握り返す。
「っ……」
「じゃあ、行くか」
「……そうですね。ゆっくり行きましょう」
「お、おう」
手を繋いだ状態で歩き始めれば、なんだが先ほどよりも多くの視線を感じる……。
でも兄弟仲良く、こうして手を繋ぐのも悪くないなぁ。
玖乃は従兄弟だけど可愛い弟みたいなものだし。
「……ふふ。これは……いいですね。いい……」
チラッと玖乃を見れば、口角が少し上がっていた。
◇◇
「ふう〜。美味かったぁ……」
膨れたお腹をさする。
ハンバーグセットご飯大盛りにサラダに山盛りポテト。さすがに食ったなぁ……。
「兄さん、お待たせしました。アイスコーヒーで良かったですよね」
「おう、ありがとう」
玖乃からアイスコーヒーを受け取る。
ドリンクぐらい自分で取り行くと言ったのだが……俺に動かれる方が心配だと、玖乃がわざわざ俺の分まで取りに行ってくれたのだ。
俺からすれば、美少年の玖乃がウロウロしている方が女性たちに狙われると思うけどな。
実際、店内の女性の何人かは、玖乃のことを目で追っていた様子があったし。
「兄さん? 私の顔に何かついてますか?」
「いいや。玖乃は今日もイケメンだなと思って」
「ありがとうございます。兄さんもかっこいいですよ」
「あ、ありがとう」
イケメンにさらっとかっこいいなんて返されると、ドキッとしてしまうよな。家族でも。
玖乃はイケメンでもあるが、可愛いところもある。
「ん、美味しい……」
コーヒーのような苦い系の飲み物はダメだけど、メロンソーダが大好きなところとか、デザートにシンプルなバニラアイスを頼むところとか……可愛い。
ギャップ萌えもあるイケメン……強い。強すぎるな。
「それで、これから何をするんですか?」
「そうだなぁ」
実はショッピングモールに来て何をするかは……考えてなかった。
前世では暇だからとりあえずショッピングモールに出かけてやる事を探すっていう感じだったし。
でもここでは言わないと、玖乃はさっさと帰りそうだしなぁ。
「林間学校用に新しいパンツを……」
「それならこちらで用意してありますよ」
「ありがとう。じゃあ、林間学校用に持ち運びしやすいシャンプーセット――」
「それも用意しています」
「あ、ありがとう。じゃ、じゃあトランプ――」
「それもあります。というか、エントランスで借りれると思いますよ」
「そ、そっかぁ……」
なんか、林間学校に必要そうなものは全部用意されてそうだな。
欲を言えば、せっかくショッピングモールに来たのだからゲームセンターには行きたいけど……きっと人(女性)が多いからってダメって言われそうだしなぁ。
「用事がないなら帰りますよ。兄さんは貴重な男性なのですから、長い外出は襲われるリスクに繋がります」
玖乃はスッと立ち上がる。
伝票もさりげなく取った。
俺じゃなきゃそんなかっこいい行動、見逃していたね。
でもこのまま家に帰るのは嫌だ。
せっかく外に出たんだからもっといたい!
だから……。
「玖乃と遊びたいって理由じゃ……ダメ……?」
「……」
返事を待っていたが……聞かなくても分かった。
立っていた玖乃がスッと座ったから。
「こほんっ。そうですか。兄さんがそう言ってくれるならそうしましょう。ただし、16時には家に帰りますよ? 17時以降は帰宅ラッシュになりそうですから」
「分かった。ありがとうなっ」
「いえ……。ふふ」
良かった良かった。
これで今日一日楽しめるな!
「ではここからはお出かけではなく、デー―――」
「おい、お前! 男の俺に何しやがる!」
玖乃の言葉が、他人の声によって遮られた。
「な、なんだ?」
「……なんでしょうね」
俺は周りをキョロキョロ見渡す。
今、怒鳴り声―――男の声が聞こえた気がした。
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