第七話
「おはよう、貞操逆転世界……。ふぁ……」
朝、目覚めて言うようにしている言葉。
もう15年も貞操逆転世界で生きてきたとはいえ……やはりこの世界は、前世の記憶がある俺からしたら異常なのだ。
そのことを忘れないためにも言うようにしている。
てか、この貞操逆転世界に身を任せるように慣れたらマジでダメ人間になりそうで怖い。
男というだけで何かと優遇されるからな。
女の子にモテモテになってハーレムを作る!
俺はこれさえ叶えることができれば十分だ。
……あれ? めちゃくちゃダメ人間要素ある?
まあ現状の俺じゃ、何故か女子にモテない。ハーレムを作れそうな予感もしない。このままいけば将来は孤独……という可能性もあるけどなっ。
はっはっはっはっ! はぁ……。
顔を洗おうと洗面台へ来てみれば、すでに学校指定の制服に着替えた、
しみひとつないなめらかな肌に中性的で整った顔立ち。
少し華奢な体つきだが女子受けはいいだろう。
うちの玖乃は今日も美少年である。
「おはよ……玖乃……ふぁぁ」
「おはようございます、兄さん。まだ眠そうですね」
「ああ……眠ぃ……」
髪のセットが終わった玖乃と入れ替わり、俺は洗面台で顔を洗う。
最近は朝も徐々に温かくなってきたので冷水で顔を洗うのが気持ちいい……。
「お母さんは仕事でもう出ました」
「ん、そっか」
母さん最近、忙しそうだな。
昨夜もノートパソコンを開いて仕事していたし。
あの様子だと帰るのも遅くなりそうだ。
今日の夕食はちょっと豪華なものを玖乃と作って待っていよう。
「兄さん。昨日の件、反省しましたか?」
「あ、ああ……うん」
「本当……ですか?」
気が付くと、玖乃の顔が近かった。
下から上目遣いで覗き込んでいる。
ちょっと怖い目をしている……。
昨日はポテチを買いに俺が1人で外出したことで留衣と玖乃に怒られた。
玖乃には夕食後も少し説教され……さすがの俺も反省している。
「今後外出する時には、留衣や玖乃に事前に連絡して一緒に来てもらうよ」
「そうですね。その判断は正しいです。さすが兄さん。言われたことをちゃんと生かそうとしていますね。偉いです」
「あはは……ありがと」
玖乃の表情が和らぐ。
次に玖乃を怒らせたらまたとんでもないことになりそうだなぁ……。
「ところで、兄さん」
「ん〜?」
今度は歯磨きを終えて、うがいをしているタイミングで玖乃に話しかけられた。
いつもの玖乃なら先にリビングへ行っている頃なのに。
今日は随分と話題があるなぁ。
うがいが終わって再び玖乃を見れば……何やら真剣な表情をしており、
「兄さんは……おっぱいは小さいのと大きいの、どっちが好みですか?」
「んん?」
……なんか質問されたな?
冷水で顔を洗って、歯磨きをして頭はもう冴えたとはいえ……今の質問は、理解するのに時間がかかる。
「え、今おっぱいって言った?」
インパクトが強かったそこしか覚えていない。
むしろそこが気になる。
「はい、言いました」
玖乃は頷く。
玖乃がおっぱいの話題……。
い、意外すぎる⁉︎
玖乃は見ての通り、美少年である。そして男性護衛官に選ばれるほど優秀。留衣に負けず、劣らずのハイスペックイケメンだ。
中学では女子にモテモテだと聞いた。というか、ラブレターらしき手紙を週に何度かは持ち帰ってくる。
だが、そこまでモテてていても未だ付き合っている女子がいるとか、ハーレムができているという浮ついた話は聞かない。
そんな玖乃が自らおっぱいトークを……。
てか、この世界に来て初めてのおっぱいトークだ!
この世界の男は草食系故に、おっぱいどころか、女性の容姿自体どうでもいいという感じ。そもそも女性に興味がない人がほとんどだ。
クラスの田中と高橋も、せっかく可愛い女の子たちが迫っているというのに一向に慣れる様子がなく、怯えるばかりだしな。
「なんだ、なんだ〜? 玖乃もそういうのが気になる年頃なのか〜?」
前世では男同士でよく語り合った話題に、思わず声が弾む。
今の俺、絶対ウザイ絡み方してるよな。
頭ではそう思いつつ、でも嬉しさの方が勝つのでそのままのノリでいく。
「はい、気になりますよ。だからまず、兄さんの好みを教えてください」
玖乃がにこっ、と笑みを浮かべる。
と思えば、俺の答えを今か今かと待つように見つめてきた。
俺より身長が低いとあり、自然と上目遣いになる。よく見れば、胸に手を添えて待っている。
小さいのと大きいの、どっちが好みか……。
うん、悩む。
正直、3日は欲しいくらいだ。
だが、答えは出さなければいけないというもの。
「まずは大きい方かな。大きい方はなんと言っても、全てを包み込んでくれるような、安心感がある! 衣装によっては、ちょっと横から乳がはみ出てるときまた最高! やっぱりおっぱいと言ったら巨乳だよな」
「っ」
「だが、小さい方もなぁ————」
「……兄さんの」
「ん?」
これから小さい方の熱弁タイムというところで、俺の言葉を途中で遮るように玖乃はポツリと呟いた。
と、思えば急にわなわな震え出し……。
「……玖乃? どこか悪いとこでも——」
「兄さんの、ばか……」
「なんで!?」
何故か不満そうな顔で言われた。
俺は小さい方も大きい方も両方好きなのに!?
むしろ両方好きという癖だよ!
その後の朝食。玖乃は口を聞いてくれなかった。
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