第三話 

 授業が全て終わり、放課後。

 部活やバイトもしていない俺は、今日も真っ直ぐ家に帰る。


 女子からのお誘い? いつも通り何故かなかったよ!


 と言っても、ほとんどの男子は寄り道などせず真っ直ぐ家に帰るらしい。

 下校時には、もちろん男性護衛官も一緒にだ。


 俺は今日も留衣に自宅まで送ってもらった。


 留衣は今日もイケメンだったなぁ。

 2人で並んで帰っているってのに……。


『ねぇ、あの人かっこよくない?』

『でもなんか男性護衛官ぽくない?』

『男子じゃなくても、あんなイケメンな男性護衛官なら普通にアリだよ〜』


 周りの女性の視線は全部、留衣に向けられていた。

 しかも、チラチラと控えめに見るどころか、ジーッと凝視する女性の方が多かった。

 

 一応俺もいたんだが……俺のことは見てない気がしたし、会話にも上がらなかったような……。


 俺なんか眼中にないってことだよな。とほほ……。


「……やっぱイケメンは、どんな世界でもモテモテだよなぁ。次転生する時は、俺もイケメンがいいなぁ」


 今日もそう呟きながら部屋着に着替えてリビングへ。


 時刻はまだ17時前とあり、家族はまだ帰ってきてない。  


 そうそう。貞操逆転世界での俺の名前は、市瀬郁人いくと


 現在、美人な母親と……と3人で暮らしている。

 家族はみんないい人だ。


「さて、今日は何をしようかなぁ」

 

 家族が帰ってくるまでは1人の時間。

 学校からの宿題もないし、小テストもないし……うん、なんでもできるな!


「ゲームは今日は気分じゃないし、いいかな。配信もないし……」


 ぼんやりとやることを決めつつ、俺は冷蔵庫へ向かった。


 取り出したのは、コーラ。

 この甘さとしゅわりとした炭酸がたまんないよな。


 そしてコーラのお供といえば、ポテトチップ。貞操逆転世界に来ても、この最強コンビは変わらない。


 ん? 身体を鍛えている割には高カロリーなものを食べるんだ、って? 

 食べたらその分運動すればいいしな。

 てか、強制的にでも運動する習慣を続けるために好きに食べているところもある。


「ポテチポテチ……あれ?」


 いつもお菓子をストックしている棚を探すも……ポテチが見当たらない。

 ちなみにポテトの味はのりしおと九州しょうゆ推しである。

 だが、その2つの味どころかポテチ自体ない。


「あー……もしかして食べ切ったかぁ?」


 うーん、と記憶を巡らせる。 

 

 ポテチを食べる時は夕食前にちょっと摘んだり、配信を見る時のお供として食べることが多い。

 知らず知らずのうちに食べ切ってしまったのだろう。


「買いにいくか?」

 

 もし買いに行くなら、もちろん俺1人。


 女性が肉食系になっている世界で、男が1人で外出するなんて猛獣の中にウサギが飛び込むもの、と言われているが……。


「まあ俺は何故か女子に話しかけられないし……大丈夫だよな!」


 そう。俺は何故か女子に話しかけられないのだ。


 それは学校だけではない。


 家族で外出した時も、2人がトイレに行っている間1人になる時があったが……。

 

 ナンパはおろか、誰も俺に話しかけてこなかった。

 いいことなんだけど、俺からしたらちょっと残念だった。


「パパッと行って帰れば大丈夫大丈夫」


 むしろ女子に話しかけられてみたいかもな。


 なんて思いながら俺は家を出た。




◆◆


 ——一方その頃。


 ビービービービー!!!


「ん?」


 少し早めの時間のシャワーを浴び終わった留衣が自室に戻れば……彼女のスマホがやけに騒がしく鳴っていた。


 電話が鳴っている、というわけじゃなさそうだ。


「っ、これは……」


 スマホに触れれば音は止まった。

 その代わり、スマホに記されていたのは———赤い矢印のある地図のような画面。 


 これは、郁人の現在地を表示しているものだ。


 男性護衛官は学校での護衛の他に、その護衛対象の一部、個人情報を知る権利が与えられている。 

 その一部として、護衛対象にGPSを付けることが許可されている。

 GPSはスマホに付けられることが多い。スマホは男性が持ち運びすることが多いものであるからだ。


 男性護衛官が付けるGPSは少し特殊で……護衛対象の男子が自宅から出るとブザー音とともに、通知が届く。 


 他の男性護衛官なら、設定でブザー音が鳴らないようにして、通知だけオンにしていることが多い。


 何故なら、女子に対して苦手意識のある男子がわざわざ1人で自宅から外に出ようなんて思わないはずだから。


「はぁ。何をしているんだ郁人は……」

 

 しかし、郁人の場合は違う。


 留衣はすぐに郁人が1人で外に出たことを察する。


「1人で外に出るのは危ないと忠告しているはずに……。もっとも外堀は埋めつつあるから、郁人を手に入れようなんていうバカなメスはないと思うけど。……でも抜かりなくしないとね」


 留衣は落ち着いた口調なものの、すぐさま私服に着替えた。


 でもやはりどこか焦りがあったのか……サラシを巻くのを忘れて郁人の元へ急いだ。

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