第二話

「てか、なんで俺はモテないんだ……?」


 心の中で散々叫びまくった後、ふと我に我に返る。


 男が常に求められているという、貞操逆転世界でモテないってことあるか?


 まず自分の容姿から振り返ろう。

 毎朝セットしている黒髪に、筋トレで鍛えた細マッチョ体型。体臭は汗臭いとかはなく、柔軟剤のいい香りがしている。

 勉強は普通。運動はまあまあ得意といったところだ。


 なんでもできる超絶イケメンではないものの、容姿と女子との接し方はそれなりに気を配った。

 それこそ、からこの世の男の中で一番優しくてカッコいい男を目指した。 


 どれもこれも女子にモテるためにやってきた。


 だが、現実は甘くない。

 ほんんっっっっと甘くない。


 小中……そして高校の今。俺は女子にモテることなく、16年間生きてきた。


 鈍感とかではない。マジでモテない。

 入学式後のホームルームとか最初の学校生活では男子ということもあって、注目されているなって視線を感じていたが……。

 時間が経てば話しかられなくなった。


 もうこうなったら、俺だけ変な力が働いているとしか思えないじゃん!


「あ〜〜っ。俺もモテたいーー! 女子に顔を赤らめながら話しかけられたいっ。あわよくば、ハーレムを作りたい!」


 口に出して数秒。なんだが今度は虚しくなってきたぞ……。


 と、その時だった。


郁人いくと、お待たせ。大丈夫? 女子に襲われたりしてない? ああ、今日も1人か。なら大丈夫だね」

「1人で話を完結しないでもらえるかな!」


 余り物のように教室にポツンと1人いる俺をしっかり確認してから、そう言ってきた生徒。


「郁人が1人なことなんていつものことじゃないか」

「あ、明日は違うかもしれないだろっ」

「なら、ジュース一年分賭ける?」

「いや……。なんでもございません……」

「ふふ」


 上品に口に手を添えて笑うこいつは、遠坂留衣るい

 綺麗な銀髪のショートに大きな瞳。すらっとした手足。

 身長は俺よりちょっと高い172センチ。


 ここまででもうイケメン。

 全体を見ればマジもんのイケメンである。


 そして、俺の男性護衛官でもある。


 男性護衛官。

 男の護衛官ってことだな。

 俺と同じ男子用の制服を着ているはずなのに……留衣の場合は、前世の少女漫画に出てくる王子様キャラ感がある。後ろがなんかキラキラ光ってるんだよなぁ。


「おかえりー。遅かったな」


 留衣はさっきまでいなかった。

 何故いなかったかというと、日誌当番だったからである。

 

「わたしも職員室に届けてすぐ終わると思ったんだけど……途中で女の子たちに呼び止められちゃって」

「ぎっっ」


 反射的に歯軋り。


「またファンの女の子かよ……」


 留衣のこの完璧な容姿。女子にモテないはずがない。

 もちろん、ファンクラブができているらしい。 


「羨ましい?」

「そりゃもちろん!」


 実質ハーレムみたいなもんじゃねぇか!


 てか、俺がモテないのって留衣がハイスペックイケメンすぎる可能性ある⁉︎

 隣にいる俺、イケメンオーラで霞すぎている⁉︎


「てか、前に留衣のファンの子たちに俺のこといい感じで紹介してくれって頼んだじゃんっ。あれどうなった!」


 留衣のようなイケメンに紹介されれば、ワンチャン俺に興味を待ってくれる女子が出てくると思って頼んでいたのだ。


「あー……そんなのもあったね。一応言ったけど……みんな郁人に興味なさげっぽいね」


 留衣は目を逸らして言う。

 心なしか声のトーンも棒読み。

 それほど女子たちが俺に興味を示さなかったのだろう。


 今日も1人だった時点だって薄々察していたけどさぁ。


「はいはい。どうせ俺はぼっちですよー」


 女子には何故か避けられている。


 そして同じ男であり、固い絆ができるはずの田中と高橋とも仲良くなれてない。

 理由は、俺の価値観がバグっているから。

 

 いつの日か、男3人だけでお昼を食べたことがあったがその時、俺が女子にモテたいと語った瞬間、「あっ、こいつはヤベェ……」と次の日からあからさまに避けられた。


 あちらからすれば俺は異常。

 それはもう認めざるを得ない。 


 だけど、俺は女子にモテたい!

 モテたいんだ‼︎


 だから俺はそのままの自分でいることにした。


 だが、田中と高橋と仲良くなるも諦めないぞ! 男友達は欲しいからな!


「はぁ……。高校こそはもうちょっと華やかになると思ったんだけどなぁ」


 俺が女子にモテるのはいつになるのやら……。


「郁人にはわたしがいるからいいじゃないか」


 ふっ、と爽やかな笑みを浮かべる瑠衣。


 くそっ! このイケメン憎めねぇ!


「……そうだな」


 納得して、小さく頷く。


 留衣がいなかったら、俺。学校でひとりぼっちだもんな……。

 俺だけ女子からも男子からも避けられてるし。


「……」

「ん? どうした留衣?」


 スクールバッグを肩に掛け、教室を出ようとしたが留衣が一向についてこない。


「留衣?」

「……」

「留衣!」

「っ。あ、ああ。今行くよ」

 

 ちょっと大きめに声を掛ければ、やっと気づいた。


 何やら考え込んでいたようにも見えたが、今の会話に考えるようなことあったか?


 靴箱に行けば、俺と留衣以外ほとんど生徒はいなかった。

 みんな速やかに帰ったり、部活に行ったのだろう。


「家に帰り着くまで油断できないからね。今日も男性護衛官のわたしが安全に届けてあげるよ。郁人に近づく痴女は……わたしが許さない」

「はいはい。よろしくな」


 むしろ、イケメンでハイスペックな留衣の方が痴女に狙われそうだけどな。


 俺は別に痴女でも大歓迎……なんてことは冗談でも言わないでおこう。

 言ったらなんか、やばい予感するし。




◆◆


「今日も送ってくれてありがとな。留衣も気をつけて帰れよ!」


 そう言って、郁人は自宅に入っていく。


 ドアが閉まるまで、留衣はにこやかな笑顔を保ちつつ……郁人の一瞬の動きさえ見逃さまいと目に焼き付けていた。


 完全にドアが閉まり切って数秒。


「……さて、わたしも帰るとしよう」


 名残惜しさがありつつも、留衣は少しずつ足を進めた。


 

◆◆


 郁人の家から10分。そこに留衣の住む高層マンションがある。


 自室に入り、大きな鏡の前に立つ留衣。


「相変わらず郁人は……男性護衛官のことを、''男の護衛官"と勘違いしているようだね。男子の護衛を男子がやるなんて、あり得ないことだと気づかないのかな? まあ、そんなちょっとおバカなとこも可愛いけど」


 郁人は抜けていることが多い。

 その抜けたところに……漬け込んでくるメスどもを、わたしが許さない。


 ふと、留衣はおもむろにブレザーのボタンを外し……さらにシャツのボタンも第二ボタンまで開けた。


 そこまですれば、


 解けかかったサラシと……その内側には、が窮屈に押し込められていた。


 全部脱げばもっとすごい。


 この世界の男性は、比較的女性の体に興味を示さないが……郁人のような男には効果があるだろう。

 むしろ、繁殖を促すようなドスケベボディに理性などいつまで保っていられるか?


「ふふ、郁人にはわたしがいるからいいよね。わたしがいるから……他のメスなんていらない」


 留衣の目には薄らとハートが浮かんでいる。


 郁人が何故か女子にモテない理由。

 どうやら留衣がその原因の……1人でありそうだ。

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