【Web版】貞操逆転世界ならモテると思っていたら

悠/陽波ゆうい

何故か俺だけ女子に言い寄られねぇ…。

第一話

 俺がに来てもう15年が経った。


 ……何言ってんだコイツ? と思っただろ、そこのお前!


 前世だったら確かにそのツッコミを受け入れよう。


 だがしかし……俺は本当に貞操逆転世界にいるのだ。

 こっちの世界で生まれるところから始まってもう15年が経ったのだ。


 貞操逆転世界。

 それは、女性の方が性欲が強い世界。

 故に、女性が肉食系になり男性を求め、逆に男性はというとそんな女性ばかりなものだから草食系になってしまう。 

 

 俺が転生した世界の男女比は1:20といったところだ。


 小説や漫画の設定でよく見る男女比1:100や男は世界で俺1人とかいう世界じゃなくてまだ良かったわ……。


 男性が少ない貞操逆転世界。

 女性が肉食系だったり、それによって具体的にどういう状況になっている諸々のことについては一旦、目を瞑り……。


 とりあえず、男がモテるということは間違いない。


 だから男であるだけで美少女に迫られ、仲を深められたらちょっとくらいエッチな思いが……むしろハーレムを作れる。

 

 まさに、男の欲望を具現化した素晴らしき世界だと思っていたのだが……。



◇◇


「今日の授業も疲れた〜」


 ぐーっ、と腕を伸ばす。

 15歳になり、俺は受験を得て今の高校に入った。


 貞操逆転世界の学校生活。

 前世と違うところといえば、やはり男女比。

 クラスにいる男子は俺を含め3人のみ。学校全体だと40人も満たない。


 そして、最大の違いは——という、男子が安全で安心な学校生活を送るためのボディーガード的な存在がいること。


 男性護衛官は、登校から下校。学校にいる間は常に男子の傍にいる。


 ボディーガード的な存在と言っても担当するのはエリートで鍛え抜かれたという大人ではなく……クラスの中から選ばれた生徒。

 

 男性護衛官だからと言って堅苦しいスーツなどという特殊な服装ではなく、制服。を着ていて、外見も男っぽいことから男なのだろう。


 この世界、意外と女子に耐性ある男が多いのだなと思った。


 さて、放課後になったことで教室は賑わっていっていた。


「田中く〜ん。今日一緒に帰らない?」

「ねぇ高橋くん。この後時間あるかなっ」


 視線の先では、クラス女子が放課後のお誘いをしていた。

 青春というか、むしろリア充というか……。

 

 用事がない限り、断る理由なんてないだろう。


 ――――前世の感覚ならば。


「ひっ、怖っ……」

「ち、ちちち近づかないでくれっ」


 誘いを受けたクラスの貴重な男子である坊主の田中とメガネの高橋は……生まれたての子鹿のように震えていた。


 オーバーリアクションすぎないか? と思うが……これがこの世界では普通の反応らしい。


 世の中の半分くらいの男性は、女性に対してこのように怖かったり、萎縮してしまうとか。


「田中く〜ん」

「高橋くーん」


 しかし、そんな反応でも女子たちはお構いなし。


 田中と高橋の周りにはさらに女子たちが集まってきた。

 一方的に話しかける女子もいれば、頬を赤らめ、何やらはぁはぁと荒い息をしている女子もいる。


 なんでこんな盛り上がっているかというと、学校にいる間は男性護衛官が常に傍にいるため近づくチャンスはないが、放課後となれば、男子にとっても自由時間のようなもの。  

 だから比較的、男子と関わりを持つチャンスが放課後は増えるらしい。

 

 と、俺のが言っていた。


 クラスの過半数の女子たちが殺到しているが……誰も田中と高橋の傍まで近づくどころか、触れた者さえいなかった。


 それもそのはず。


「皆さん! 下がってください!」

「これ以上近づくなら男性護衛官のわたしたちが容赦しないけど?」


 相変わらず怯える田中と高橋を庇うように前に立ち、威圧感を出す生徒が2人。


 田中と高橋の男性護衛官である。

 ちなみにどちらも美形だ。


 むしろ田中と高橋のようなthe普通顔よりも、2人の方がイケメンだし、モテると思うんだが?

 毎度不思議に思っている。

 

「え〜〜っ。ケチっ! 男性護衛官ばっかりずるいじゃ〜ん!」

「そーだ! そーだ! うちらにも男子に近づく権利を与えろー!」


 猛抗議しているクラスの女子たちに対して、男性護衛官は冷静に、


「男子を怖がらせて学校に来なくなったら、それこそ困るのではないのですか?」

「そうなったらもう一生……男子と同じクラスで学校生活を送れないかも。それでもいいの?」

「「「ゔゔっ……」」」


 男性護衛官の正論パンチに集まった女子たちは苦い顔になる。


 この高校を受験した時、俺は男というので推薦枠だったものの、女子の方は推薦枠というのは滅多になく、めちゃくちゃ倍率が凄かったらしい。


 最大の理由は、うちの高校が県で1番男が在籍しているからだとか。


 それくらい女子にとって、男子は生き甲斐なのである。

 むしろ、男子に会うために学校に行っているって、テレビの街頭インタビューで見たことがある。


「も、もう俺、おうち帰るっ」

「女は怖い……女は怖い……」


 女子たちが怯んだ隙に、田中と高橋はバックを胸に抱きながら急いで教室を出た。

 男性護衛官もすぐさま追いかけた。


「あ〜。行っちゃった〜」

「今回もダメかぁ〜」

「ちょっとだけ……先っちょだけでもいいからお近づきになりたいよね〜」


 お目当ての田中と高橋がいなくなったことで、みんな肩を落として離れていく。


 この光景を毎日見ているなぁー。


 で……なんで男にも関わらず俺がこうして呑気に実況できていたかというと……。


 俺の周りには誰もいないから。

 放課後になっても俺の方には、女子が1人も来なかったのだ。


「……」


 俺は無言で立ち上がる。

 自分から行動することにしたのだ。

 大事だよな! うん!


 早速、近くにいた女子2人に話かけてみた。


「あのさっ、俺とかどう? 放課後暇だし?」

 

 ちょっと緊張して、浮ついた声になる。

 前世では彼女もいなければ、仲のいい女友達もそれほどいなかった。

 だからいくら貞操逆転世界といえど、こういうのはやっぱり慣れない。


 俺は爽やかな笑顔で返事を待っていたが……。


「えと、市瀬くんは……」

「うん……市瀬くんは……」


 女子2人はまるでこいつは地雷だとばかりに俺から目を逸らした。


 なんで!? なんでいっつもこうなの!?


「あのっ、俺なんかしちゃいました? 俺だけなんか扱いが違うよな気がするんだけど……?」


 目を合わそうとするも……全然合わん! 

 全力で避けられてるよ!


「今日は真っ直ぐ帰ろっか……」

「うん、そうだね……」

「え、え?」


 しまいには質問まで無視されて、女子たちは俺から逃げるかのように早足で去っていった。


「……」


 また1人になった俺。

 周りの女子は、俺が1人になったところで興味なさげ。

 そそくさと荷物を纏めて教室から去っていくばかり。


 ついには教室にポツンと1人だけ残された。


「……」


 俺は、無言で天を仰いだ。


 そう。これが現実。

 これが俺の貞操逆転世界。


 周りの男子はチヤホヤされているのに、俺だけチヤホヤされないどころか、目を合わせてくれないし、積極的に話しかけてもらえない。


 あっ、でも俺から話しかけたら一応は返してくれるからいっか……じゃなくて!


 ここは男女比1:20の貞操逆転世界なはずなのに……。


「なんで……」

 

 なんで俺だけモテねぇんだよおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!




————————————

※一部修正致しました。


書籍版とカクヨムでは内容が大幅に違います。

ちなみに、1話目から違ってます。


カクヨム版も楽しんでいただけると嬉しいです!



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