第4話暮れる世界と『 』と僕

世界が暮れてゆく。

フィクションの世界では日常茶飯事だった事柄が、現実に現れ、侵食し、汚染され。大人のみならず子供ですら世界に希望を見出せず、終末を感じられる様になり、今までの世ならば忌み嫌われていた「 」が、希望となり、一人、また一人、と「 」に堕ちていった。

そんな世界でも、産み落とされてしまう命はあるもので、この終末を急ぐ暮れの世界に僕は産まれ落ちてしまった。

こんな終わってゆく世界に生まれてしまった事は何度も呪ったが、文句を言うべき相手である僕の両親は、僕が幼い間に「 」に導かれてしまったらしい。本当に、迷惑な話だ。

その為僕は幼い頃から身寄りのない子の集う施設で生まれ育った。

大人たちは、教育と称し、世界が暮れる前の事、暮れてしまった後の事、生きる為の生存方法、そして訳の分からない明日への希望を僕らに説いた。

けれど、僕らが大人となる頃には、彼等も「 」に魅了され、行ってしまった。あぁ、なんて無責任。最後まで責任を取れないのなら、「 」を否定せず、「 」の魅力を僕らに教え、学ばせて欲しかった。

残された僕らは身を寄せ合い、無責任な大人の残した言葉に従い、生存を続けた。

良くなる事のなく、暮れてゆく世界。困窮を極む物資。それに伴い現れる争い。

元々数多くいたわけでもない僕の仲間も、一人、また一人と気がつけば「 」を選んでしまった。

結果、また残されたのは僕一人で。それでも、僕は生き続けた。最初の数年は一人で生きた。けれど、すぐに人の温もりが欲しくなり、寂寥の念を埋める為、残っている人類をさがす旅に出た。

残り少ないとされる人類と、稀に僕は行き合った。共に歩き、共に寝、共に食べ、時に争い。

僕は旅を続けた。たったひとときでも、共に歩めた者達は、暖かく、けれどすれ違った後は苦しく、後になって懐かしく。

そんな事を繰り返し、いつからか人類と呼ばれた者達とすれ違えた事さえ遠い昔に感じ。

あぁ、絶望しかない世界に絶望的な状況で生まれた、育ち。いいことなんて何もなかった人生だけど、思い返して見れば、懐かしくて、寂しくて、温もりを感じて。

皆、皆、「 」へ行ってしまった。かねてから僕は「 」が分からなかった。嫌うわけでもなく、好むわけでもなく。見えないけれど確実にあるそれ。何故「 」に皆惹かれたか、ずっとずっと疑問だった。

けれども、とうとう僕も気づいてしまった。「 」に行けば、「 」を選べば。きっと、これまですれ違ってきた、彼等に会えるのだろう。だって、皆「 」を選んだのだから、同一なる「 」を選んだのだから。

もう、独りで見渡す暮れた世界は飽きたのだ。

だから、行こう。僕も行こう。そこに行こう。


そして人類は永遠の眠りについた。

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