第5話 電マも電気あんまもそんなに変わらない気がする
「電マって電気マッサージ器の略だって最初知らなかったんですよね」
むっつりスケベな彼女、羽月さんと、不名誉ではあるがそれを上回るむっつりスケベである僕の部屋を掃除していた時に発見された小型の電気マッサージ器を見ながら、彼女がぽつりと言った。
弁明しておくが、これは我が母が、息子の健康を案じて贈ってくれたものなので、決してそういう用途では使用していない。まあ、引っ越しのための荷造り兼掃除で発掘したくらいなので、正式にも利用していない親不孝者には変わりないが。
「なんだと思ってたの?」
「電気あんまの略かと」
「それだとあんまり変わらないね」
笑いながら彼女の手からそれを取り上げようとして、華麗に躱される。
「電気あんまってあれですよ、罰ゲームでおなじみの」
「もう羽月さんの口を通すと罰ゲームすら卑猥に聞こえる」
「おや、それは後ろめたいことがあるからなのでは?」
今度は鼻先に掠るくらい距離を詰められて、思わず固まった。
「う、後ろめたいことなんて」
「本当ですか?」
そっと、電源の入っていない微動だにしないマッサージ器を胸に当てられて、心拍がはやくなる。
「私は、こう見えて嫉妬深いんですけれど、これは橋本さんが使ってたんですか? それとも使われてたんですか?」
ゆっくりとマッサージ器が下がってきて、臍のあたりで止まる。動かない電マを突きつけられての尋問は、なんだかソワソワというかゾワゾワというか、後ろめたいことなんてなかったはずなのに、仄暗い感情を抱かせた。
「羽月さんは使ったことがあるの?」
「質問返しなんて、後ろめたいことがありますって言ってるようなものですよ」
ムッとした表情の彼女に、ポスポスと電マで腹を軽く打たれ、ますます暗い悦びが膨れ上がった。
「橋本さん?」
「もう少し、嫉妬しててもらいたかったけど、ごめん。それ母さんが誕生日にくれたんだよ」
最近、心を許してくれていると感じることが増えていたが、とうとう嫉妬までしてくれるようになったとは。いや、それを隠さずに伝えてもらったことが嬉しい。
彼女は「こう見えて嫉妬深い」と言ったが、本当に嫉妬なんてするように見えない彼女だからこそ、そう言われてびっくりした。
「あら、残念。ならこれはそんなヨコシマな用途では使っちゃだめですね」
くるりと背を向けて、電マを元の場所に戻そうとする彼女を抱き締める。
「羽月さん、罰ゲームだね」
「なんで私が」
抗議の声を上げる彼女は俯いているが、耳が赤い。勘違いに照れているのか、罰ゲームに興奮しているのか。
「だって僕の言うこと信じてくれなかったでしょ」
「……罰ゲームってなんですか? 電気あんま?」
さすが橋本さん、えっちですね。
こちらを振り向いて、吐息まじりに耳元で囁いた彼女は、耳だけではなく真っ赤な顔と、うっとりした眼で
「痛くしないでくださいね」
と、言った。
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