第2話
校門前のじゃれあい?を終えてからしばらく歩き続けている。
ちなみに今日は光の方から誘われており、どこに行くのかについては聞かされていない。正直なところナニされるか分かったもんじゃないので教えて欲しいところだ。
ちょうど今歩いているこの通りは時間帯的に歩行者天国として解放されているらしく、人通りが多い。食べ歩きのためか路肩には串焼きや、少し早いがかき氷の店があったりする。
「満久くん、ちょっとお腹減ってない」
少し上目遣いで尋ねてくる光。あぁ、そういう事ね。口には出さないが、光も漂う匂いにつられてしまったみたい「そうだな、おやつでも食べようか」
「じゃあさ、あのクレープ屋に行こう。あそこね、最近結構有名なんだよ」
「へぇ、じゃあそうするか。ちなみにおすすめは?」
「えっとね、普通のだとチョコバナナだったりが良くて、変わったのだとお肉が入ってるのとかあるらしいよ。うん、全部おいしいと思う」
まくし立てるかのように情報を教えてもらった。最初からその予定だったのだろうが、あくまで俺から行こうと誘って欲しいみたいだ。
その姿に思わず苦笑を浮かべる。
「そっかじゃあ行こうか」
ちょうど列が途切れたところだったので光の手を引いて向かう。
ショーウィンドウに並べられたサンプルを見る限り、軽く20種類はありそうだ。
えーっと、光が言ってたヤツは…
「すいません、このローストチキンとレタスのクレープをひとつ。光は?」
「ちょっと待って、えっとね…じゃあいちごとブルーベリーのクレープに追加でホイップクリームとチョコソースをお願いします」
圧倒的甘党。なんだ、そのカロリーの権化みたいな選択は。
光のチョイスに戦々恐々としていると受付のお姉さんから代金が告げられた。
「以上で1800円となります」
「ここは俺が払うよ」
すっと光の前に出て、財布を取り出す。ここは彼氏として男気を見せる場面だろう。
「ええー、いいよ半分こで」
「いや大丈夫だって。ここは俺に任せて」
「でも私の方が高いの頼んじゃったし…」
「それも含めて大丈夫だよ」
「じゃあ、後で私のも少しあげる」
そこまで言ってようやく引き下がってくれた。
財布から千円札を二枚取り出して店員さんに渡すと、なんか、地味に冷たい目になっていた。
まあ、うん、すみません。
「お釣りの200円になります。クレープの方は出来上がっておりますのであちらで受け取ってください」
店員さんが指した方を見ると、ちょうど光がキラキラした目でクレープを受け取ってるところだった。
「満久くん、クレープできてるよ」
「あら、もう受けとっていらっしゃいましたか」
むっちゃ皮肉られた。丁寧にお辞儀してるが、その顔には「店の前でいちゃついてんじゃねぇ。営業妨害で訴えるぞゴラァ」と書いてあった。
まじですいませんでした。少し会釈をしてからそそくさと店を出る。
「はい、これ満久くんの分ね」
食べずに待っていてくれたのであろう。両手にクレープを持ったままの光がその片方を差し出してくる。
なんだか精神的にどっと疲れたが、まぁ温かいうちに食べてしまおう。
渡されたそれを見てみると、少し分厚めの生地の中にレタス、コーン、ローストチキンが挟まっており、クレープというよりタコスとかそっち系の印象を持った。
ところで…
「この上からかけてある肉汁以外の液体はなんなのかな?」
大体予想はついているが一応犯人に問いかけてみる。
すると光は油が切れたロボットみたいにぎこちない動きでこういった。
「サア、ナンノコトダカ」
「そういうのはいいから食べれるかどうか教えてくれ」
ボケを綺麗にスルーされた光は仕方なくと言ったふうにポケットから小瓶を取り出した。
「一滴でクジラすら死に至らしめる猛毒…って言いたいところだけど、今回はただのシロップだから安心して」
それを証明するためか瓶の中に小指を突っ込んで少し舐めてみている。
それなら一応安全な代物なのだろう。
「ところでなんでシロップなんだ?」
多分というか確実にこれには合わないだろう。さっき見せてもらった小瓶の残りを見る限り、結構な量入れてるみたいなので、味が一切想像つかない。
「あっ、たしかに」
ですよねー。わかってたら絶対やっていないだろうから。
というか、下手な毒よりこっちの方が余計タチが悪い気がする。
目の前の危険物を眺めながら少しため息をついた。
「少し食べる?」
さすがに申し訳なかったのだろう。食べかけのクレープをこちらに差し出して来る。
気を使わせてしまった。そのことを少し反省しながら光の頬についたままだったクリームを拭ってあげる。
気づいていなかったのだろう。今度は頬を赤く染めて俯いてしまった。
そうそう、こういうのが俺が求め…
「あれ、お前ら満久と三条じゃね?おーい」
誰や俺のラブコメを妨害する不届き者は!!
自分の中で理不尽だと分かりつつ心の中でキレる。声のした方を見てみると同じクラスの優輝と春信がこちらに向かって手を振っていた。
「よくわかったな、この人混みの中で」
「いやぁ、聞きなれた声がしたと思ったら気温が上がったからお前らだと判断した」
「優輝お前なぁ」
「いや、実際そうだからね。僕たちの教室でもふたりがいちゃついた途端温暖化が始まるから」
「いちゃついた覚えは無いが?」
「「まじか、自覚なしだと!!」」
真剣に驚いた感じでこちらを凝視してくる。
このふたりは幼稚園来の親友らしく、本当に息があってる。
そのせいでふたりから同時に言葉攻めに会うという今みたいな実害があるものの、結構楽しく過ごさせてもらっている。
「いやぁ、まさかそのタイプとは思わなかった」
「流石学校一熱いカップル」
「周りの視線に気づかないとは恐れ入る」
「おいお前ら」
もうそろそろいい加減にしてもらわないとキレそうなのでやめて頂きたい。
すると光がなにか不満のようで腕に抱きついてきた。
「どうしたんだ?」
「満久くんが急に構ってくれなくなった…」
唇を尖らせて上目遣いでこちらを見てくる姿にはすごい心に響いた。
なんだこの可愛い生き物は。
「ごめんって」
謝りながら頭を撫でてあげると満足したようでへにゃっとした笑みを浮かべる。
「ほーらまた始まった」
「ああ、もうダメだね。なんにも聞こえてない」
バッチリ聞こえてるぞー。今彼女の機嫌取るのが大事なだけだから。
仕方なく手放そうとすると、その手を抑えてもっとやって欲しいとねだってくる。
ああ、もう。
その要求に答えてあげるために今度は髪をくしゃくしゃと少し乱暴にかき混ぜる。
「惚気けやがって」
「しょうがない、僕達は退散するとしますか」
くそ、いいように言われたままなのが悔しい。
待てよ……
「そうだ優輝、これやるよ」
ふと思いついた計画を実行すべく、俺は持ったままになっていた危険物を差し出した。
光は何をするか察したようだったが、黙っていてくれている。
「え?いいのか」
「ああ、買ったけど少し味付けが苦手だったから」
湧き上がる黒い感情が表に出ないように気をつける。
その味付けをした本人が少しムスッとしたが無視だ。
「おっけー。ならお前らの惚気聞いた代金として貰っとくよ」
「そうか、また明日」
「じゃねー」
そうして二人が歩き去っていくの見届けた。
しばらくして
「なんやこれあっまっ!!」
してやったり。
「じゃあ行こうか」
ちょっとしたいたずらに気分を良くしつつ、光に話しかけた。
光はなんだか物言いかけた様子だが、悪いのはそっちの方なので納得していただきたい。
いくら彼女とは言え、俺にはシロップの混ざった照り焼きソースの味に挑むことができなかった。
俺を薄情と言うなら勝手に言えばいい。
歩くこと20分。ようやく目的地らしきところに着いた。
目の前にはいわゆる移動式遊園地と言われるものが建っていた。中には意外と本格的な観覧車やジェットコースターなどがあり、少し驚かされた。
某夢の国まで電車で片道1時間以上かかってしまうためあまり行ったことがなく少しワクワクしてたりする。
「ここがそうなのか?」
「うん、この間テレビで特集があって、満久くんと行ってみようと思ってたんだよね」
嬉しそうに笑う姿を見てほっこりする。
だが、個人的にはあまり賛同できない。光の身の上を考えると本当はこういう人混みは避けるべきだ。
事実、今までも何回かそういう目に逢いかけている。
光の笑顔を自らの手で奪わなければならないのは悔しいが、彼女命には替えられない。
「満久くんまた重いこと考えてるでしょ。ハゲるよ」
「それ意外と心に響くからやめてくれ」
今までのシリアスを返せと言わんばかりに反応してしまった。
両親自体は大丈夫なものの、叔父や爺ちゃんにそういう方が居るのでかなり気にしている。
親から今のうちにやっとくべきだと忠告すらされている。
まあその思い悩みの原因は光なのだが、だからといって手放すつもりは毛頭ない。
まだ毛は頭にあります……。
「光!」
そのことを伝えるために呼びかけたが対する光は何もかもわかっていると言わんばかりに笑みを浮かべていた。
「大丈夫だよ。私はそんな簡単に死んだりなんてしない。満久くんの言いたいこともわかるけど、私にはこの"目”があるし、なによりどんなことがあろうとも満久くんが守ってくれるでしょ」
くっ、そんなこと言われてしまったら何も言えないじゃないか。
まったく本当に……
「わかったよ。そこまで言うんだったら行こうか」
笑顔で語りかけて手を差し出す。それを取るのを見てから二人でチケットを買いに向かった。
「わぁー、すごーい。」
いかにも女の子らしい反応を見せながら光が小走りで入園して行った。
なんとなく子供を見守る親のような気分になりながらも心の中で同意する。
今ではすっかり見かけることがなくなってしまった移動式遊園地だが、ここのはすごい部類に入るのだろう。
外から見えていた観覧車やジェットコースター以外にもメリーゴーランドやお化け屋敷といったものもある。
あれはなんだろうか、VRのシューティングゲームがあった。
「光は遊園地とかテーマパークとか来るのは初めてなのか?」
「まあ、そうなるね。知っての通り私中学校になってから引っ越して来たから」
ボソッと「行く時間もなかったしね」という呟きが聞こえた。
確かに、光が猟狼の一員として働き始めたのもここ二、三年のことだろうし、その間は訓練やらで手一杯だったのだろう。
「よし、じゃあ今度一緒に行こうか」
「えっ、いいの」
「うん。確かに遠いけど日帰り出いけない距離じゃないだろ」
「約束だよ?」
「わかってる」
彼氏としてそのくらいはやってあげなければと思って言ったのだが、思った以上に喜んでもらえたようで何よりだ。
さて、これからの話はひとまず終了して今は遊園地を楽しもうじゃないか。
「ねえ、観覧車乗らない?」
「いいと思うぞ。だけど夕方だと日が沈んで綺麗な光景が見れるらしいぞ」
「へぇ、そっか。それじゃあ1番最後に乗ろう」
海沿いに建設されているこの遊園地はちょうど西側を向いているため、夕日が綺麗なのだとグーグルに書いてあった。
やはり大先生は偉大だ。
しばらくぶらぶらと散策していると、外から見えていたジェットコースターの入口が目に入った。
立ててある看板を見ると、待ち時間が5分しかないらしい。これはチャンスだな…
「なぁ、光」
「ねぇ、満久くん」
おっと、揃ってしまった。驚いたような光と目が合う。ここまで来れば何がしたいか流石に誰だって察せるだろう。
「よし、乗ってみるか」
「そうだね」
ジェットコースターに乗るための興奮か、それ以外の理由か。少し楽しそうにしながら列に並ぶ光の後ろについて行く。
どうやら俺は、彼女に命を狙われるみたいです。 放課後デイズ @houkagodays
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