第31話 温泉に入らせたい幼馴染と今すぐに寝たい俺
「マルセルさん! お疲れでしょうから、温泉とかいかがでしょうか!?」
ルインにそう言われるが、俺は疲れているのですぐに寝たかった。
確かに体がベタベタして気持ちが悪いといえば気持ちが悪い。
でも、今すぐにでも眠れそうなくらいには疲れている。
このままベッドにダイブして、今日くらいは惰眠を貪りたかった。
それに明日からは仕事が始まる。
この田舎を発展させないといけない。
だから今日くらいは思い切り寝たかった。
「温泉か……今日は今すぐにでも寝たいんだよな……」
「で、でも! 気持ちよく眠るなら体を清めてからのほうがいいのでは!?」
まあルインの言う事は一理ある。
でもなぁ……今日は寝たい気分なんだよなぁ……。
「少し悩むけど、やっぱり寝るかな」
「そ、そんなこと言わずに! 私が体を洗いますから! 念入りに丹念にゴシゴシしますから!」
そんなこと言われると、余計に遠慮してしまう。
しかし念入りに丹念にゴシゴシするって……。
俺の体なんて、そんな几帳面に洗うこともないのにな。
「ルインさん。今日はマルセル様はお疲れなのです。休ませてあげては?」
そんな会話をしていると、レイナがそう口を挟んだ。
どこか冷たい声音だ。
それに対してルインは少し考えると、言った。
「快適な快眠を得るには、心も体も清らかになったほうがいいはずです」
「ではルインさんはマルセル様が心も体も清らかではないと?」
いやいや、レイナ。
ルインはそういうことを言いたいわけじゃないと思うぞ。
というか、心も体も清らかなおっさんなんているのだろうか?
「い、いやっ! そういうわけじゃないんですけど……」
レイナの言葉に狼狽えるルイン。
この言い合いはかなり長引きそうだぞ……。
そう思ったので、俺は二人が言い合っている隙を見計らってその場から逃げ出す。
そして自分の家に戻ると、ぐっすりと眠りにつくのだった。
***
「あれっ!? マルセルさんは!?」
その場にマルセルがいないことに気がついたルインは素っ頓狂な声を上げる。
それに対して、レイナは勝ち誇ったような表情でこう言った。
「マルセル様はかなり前にこの場を抜け出し、自分の家に帰りましたよ」
「そ、そんな……。私のドキドキ大作戦が……」
そうショックを受けた顔で呟いたルインにレイナが冷たい表情で尋ねる。
「なんですか、そのドキドキ大作戦とは」
「な、なんでもありません! 気にしないでください!」
「いや、気になりますよ。マルセル様は私の婚約者なのですから」
レイナの言葉にグッと言葉をつまらせるルイン。
そしてその言い合いは、日が暮れるまで行われるのだった。
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