第29話 幼馴染ルインの苦悩・その2

——ルイン・ライナー視点——


「まだ帰ってこないのですか……」


 私はもう一人の幼馴染ジンの家でそう呟いた。

 ジンはそんな私に呆れ顔をしながらコーヒーを淹れていた。


「そう急くなって。絶対すぐに帰ってくるんだからさ」

「くっ……でも待ちきれません。私には作戦があるのですから」


 私の作戦でマルセルは間違いなく落ちる。

 そうすれば、私がマルセルと結婚できるはず。


 レイナさんには申し訳ないが、マルセルのことは昔から好きだったのだ。

 それに今結婚できないと、間違いなく売れ残りになってしまう。


 ジンはコーヒーを淹れ終わると、私の前に置いた。


「まあ、どちらにせよその作戦は成功しないと思うがな……」

「ど、どうしてですか!?」

「そりゃあ……あんだけ村から離れてりゃな……」


 ジンはそう言うが、私はまだ勝機があると思っている。

 なぜならマルセルとレイナさんだって、そんなに付き合いが長いわけではないからあd。


「ともかく、急がば回れだぞ。焦ったってしょうがない」

「それはそうですが……」


 でもジンの言う通りだった。

 焦ったところでマルセルが私に振り向いてくれるわけではない。


「でも私は二十年近くも我慢したんですよ?」

「それだったらもう二、三日くらい我慢しろって」


 呆れたようにジンは言う。

 くっ……確かにこれも彼の言う通りである。


 私は思わずため息をついて、席を立ち上がった。


「ちょっくらストレス発散に行ってきます」

「ああ、それは構わんが、暴れすぎるなよ?」


 そう言われ、私は頷くと外に出るのだった。



   ***



 それからたまたま出会ったオーガ・リーをフルボッコにした私は、夕暮れ時に村に戻った。

 このオーガ・リーは間違いなくなぜ自分がやられたのか天国で不思議に思ってるに違いない。


「……オーガ・リー一体か。今日は大人しいな」

「流石に私だってもう大人です。もう無闇矢鱈に暴れまわったりはしないのですよ」


 そう。

 子供の頃は私も加減を知らなかった。

 カージス山に行っては魔物を片っ端から潰して回った。


 でも今では加減を知り、制御することを覚えた。


「そうか……ルインも成長したんだな」

「わ、私だって成長しますよ! 散々騎士団で学んできましたから!」


 するとジンは遠い目をしてこう呟いた。


「ああ……そうか……。騎士団は相当大変な目に合ってたんだろうな……」

「そ、そんなことはない……はずです……」


 でも絶対にないとは言い切れない。

 かなり厳しく育てたしな……。


 そんな会話をしていると、外が少し騒がしくなった。

 何事かと思いジンの家から出ると、どうやらマルセルが帰ってきたところらしかった。

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