第28話 もう逃げられないみたいです

 俺たちが謁見の間に入ると、たくさんの貴族たちがいた。

 みんな一斉にこちらを見てきて、股間がキュッとなる。


 俺とレイナは広間の中央まで行くと、皇帝に向かって跪いた。


「これよりマルセル・ガードナーの授与式を行う!」


 皇帝はそう宣言するが、拍手は疎らだ。

 どうやらまだ完全に俺たちは受け入れられていないらしい。


 まあそうだろうな。

 突然やってきて爵位を授与されるってあんまりいい気がしないよな。


 しかし皇帝はそれを気にせず話を続ける。


「ガードナー領は辺境にある領地だが、その発展性と将来性があると見込んだ!」


 発展性も将来性もないただの田舎なのですが……。


 しかし皇帝はそうは思っていないらしい。

 どこで食い違ってしまったのか。


「というわけで、マルセル・ガードナーには公爵の地位と発展するための資金を提供する!」

「…………え?」

「何だ? 不服か?」

「い、いえ! そんなことはありませんけど……」


 公爵に爵位されることはある程度聞いていた。

 しかし資金ってなんぞや?

 困惑していると、再び皇帝が爆弾を落としてくる。


「ガードナー領を発展させるための資金は白金貨100枚だ! これでガードナー領を一都市として発展してもらう!」


 …………は!?

 はぁ!?

 白金貨100枚!?

 それって一小国家の一年の国家予算くらいあるぞ!?


 ここは大陸最大の帝国だし、もっと予算はあるのだろうけど。

 白金貨100枚渡しても予算に打撃がいかないくらいなのだろう。

 それでもこれは異常な多さだ。


 その皇帝の言葉に、一人の貴族が恐る恐る手を上げた。

 神経質そうな見た目をした貴族だ。


「あの、質問よろしいでしょうか?」


 その貴族を見て皇帝はあからさまに嫌そうな顔をしたが、頷いて言った。


「ああ、許可する」

「白金貨100枚はいくら何でも多いのではないでしょうか? その辺境の地にそこまでの価値があるとは思えないのですが」


 この貴族の問いに、皇帝はきっぱりとこう言い張った。


「俺はあると思った。それでは不十分か?」

「い、いえ! そんなことはありません!」


 どうやら帝国では皇帝の権力が相当強いらしい。

 もうその貴族は何も言えなくなっていた。


「もちろん、発展させきれなかった場合、もしくは長期的に損だと判明した場合は追放とする」


 ……まあ、そうなるよな。

 でも俺には断る権利なんてない。


 どうやら発展させなければ終わりらしい。


 思わず重たいため息をはきそうになるが、必死にこらえる。

 そしてそのまま話が進み、俺は公爵という立場を授かるのだった。

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