第27話 皇帝陛下に謁見しました

「プププッ! すまんすまん! それは私のせいだな!」


 騎士に足止めされていたことを伝えると、ユーフェリア様は笑いながら謝ってきた。

 俺はそれに対してムスッとした表情で言う。


「本当に困ったんですからね。危うく拘束されるところだったし」

「いやぁ、マルセルが拘束されているところも見てみたかったがな!」


 笑い事じゃないと思いながら、俺はため息をつく。

 ちなみに先ほど拘束してこようとした騎士は、恐々と俺たちを交互に見ていた。


「本当にすまんな。通行証を渡すのを失念していたよ」

「……はあ、まあ反省しているなら許しますよ」


 そんなふうな会話を聞いていた騎士は震える声で尋ねてくる。


「この方々が客人なのは本当なのですか……?」

「ああ、本当だぞ。すまんな、騎士よ。これは私たちの不手際だ」


 騎士に対しては申し訳なさそうに謝るユーフェリア様。

 なぜその態度を俺にも向けてくれないのか……。


「い、いえっ! 私に頭を下げる必要はありません!」

「そんなことはないぞ。これは私たちのミスだ。ミスをしたら謝る。当然だろ?」


 しかしそんなことを言える皇族は少ないだろう。

 思わず感心してしまうが——。


「それにマルセルたちの面白い姿を見れたからな。逆に感謝する」


 絶対にそっちが本音だろ。

 思わず再びため息をつきそうになるが、堪えて俺は言った。


「この騎士さんは別に悪くないので、クビにはしないでくださいね」

「ああ、当たり前だろ。そんなことをする人間に見えるか? 私が」

「いえ、見えませんが」


 俺が言うと、彼女は満足そうに頷いた。

 そして騎士に一言


「それでは今後も頑張ってくれたまえ。こいつらは借りていくぞ」


 そう言ってズンズンと王城のほうに向かっていく。

 なかなかに強引というか、自由奔放な姫様だ。

 そんなことを思いつつ、俺とレイナはユーフェリア様の後に続いて王城に入るのだった。



   ***



「すぐに謁見の間に呼ぶから、とりあえずここで待っててくれ」


 そう言って控室に俺たちを案内すると、ユーフェリア様はどこかにいってしまった。

 一応、メイドさんが控えてくれている。


 俺はソワソワしてしまい、メイドさんにちょっと話しかけてみることにした。


「あの……普段のユーフェリア様ってどんな感じなのですか?」

「ユーフェリア様ですか? あの方はとても気さくで、私ども使用人にも優しくしてくださる、とても心優しい方ですよ」


 俺の問いににっこりと笑ってメイドさんは言った。

 うーん、やっぱりさっきの態度も、別に俺たちの前だからしたわけではないようだった。

 普段からあんな感じなのだろう。


 ちょっとだけ好感度が上がるが、でも結婚となると俺にはレイナがいるから出来ない。

 そもそも彼女と釣り合う器の人間でもないし。


 しかし好感度を上げたのはレイナも同じみたいで。


「なるほど……ユーフェリア様は普段からあんな感じなのですね」

「はい。あの方は裏表のない、素敵な方ですよ」


 メイドさんにもそう言われるって、相当慕われてるんだろうなぁ。

 そんな会話をしていると、俺たちを呼びに別のメイドさんがやってくる。


「それでは謁見の準備が整いましたので、ご案内いたします」


 俺たちは彼女の後に続いて、王城の長い廊下を歩き、謁見の間まで行く。

 その間、レイナは俺にこう言った。


「しかしようやくあの村も陽の目を浴びますね」

「いや、そんな浴びなくてもいいんだがなぁ……」

「私は浴びるべきだと思いますよ。あんなすごい村、そうそうないですから」


 そうなのだろうか?

 俺は首を傾げてしまう。


 ずっと村に引きこもっていたし、すごいと言う感覚がわからなかった。

 しかし何度もそう言われて続け、少しはそうなんじゃないかとも思い始めている。


「——そろそろ謁見の間に着きますよ」


 そうして俺たちはガチガチに緊張しながら皇帝陛下へ謁見するのだった。

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