第24話 また村の人が活躍していたみたいです
「ええと、君は……?」
その女騎士はフルフェイスの兜を被っていたから顔が見えなかった。
俺がそう尋ねると、彼女はゆっくりと兜を脱いだ。
その中から出てきたのは、昔村にやってきて三年ほど住み着いていた女騎士——サクラだった。
彼女は森の中で遭難して、俺たちの村に辿り着いた。
それからなぜか村が気に入ったのか、三年も居座ったのだ。
「ああっ、あの時の! あれ、前はただのヒラだって言ってなかったっけ?」
「村にいた経験のおかげで昇格することができたのです! 今では騎士団長にまでなれました!」
村にいた経験……?
俺は彼女がいた頃の記憶を呼び起こしてみる。
……無限にご飯を食べていただけだったような?
特に特訓とかした覚えはないし、そもそも特訓をしてあげられるほど村の人間は優秀じゃない。
だから彼女が騎士団長になれたのは俺たちのおかげではなく、彼女自身の才能のおかげだろう。
「いやいや、俺たちは何もしてないぞ? サクラに才能があったから、成り上がれたんだろう」
「そんなことありません! 絶対に村にいたおかげです!」
そう言い切るサクラに困っていると、ユーフェリア様が呆れたようにこう尋ねてきた。
「またとんでもない人間を生み出してしまったか、あの村は……」
「どういうことです?」
「サクラはこの騎士団の騎士が十人がかりでも倒せないくらいに強いんだぞ。アイルもそうだが、私よりも強い人間は悉くあの村に関わっているな」
どうやらサクラもユーフェリア様に勝てるらしい。
「サクラってそんなに強かったのか……」
「だからあの村にいたおかげなんです! 本当に感謝してるんですよ!」
う〜ん、俺は違うと思うが、そこまで断言されるとそうなんじゃないかとも思ってくる。
しかし特別なものは何もないただの辺境の村なんだがな。
「それで……隣の美人さんは誰ですか?」
「ああ、紹介しよう。彼女は俺の婚約者のレイナだ」
サクラの問いに俺が答えると、レイナは丁寧に頭を下げて挨拶をした。
「初めまして、マルセル様の婚約者、レイナです」
「あ、初めまして! しかしこんな美人さん、村にいましたっけ?」
「いや、彼女は遠くの都会から嫁ぎにきたんだよ」
俺が言うと、サクラは不思議そうに首を傾げる。
「へ〜、何でまた」
「色々事情があってな。まあもうほとんど解決したが」
解決したと言っても、まだ追放のきっかけとなった聖女との確執が残っているが。
それもいつかは解決するだろう。
サクラは複雑が事情があるのを察して、それ以上は聞いてこなかった。
しかしじっくりとレイナを眺めるとぽつりと言った。
「しかし本当に美人さんですね〜。マルセルさんとは釣り合わないくらいです」
その言葉にレイナは凛として返す。
「いえ、そんなことはありません。逆にマルセル様は私にはもったいないくらいです」
「ああ、すいません! そういうつもりで言ったわけでは!」
慌てたように謝るサクラにレイナは微笑んだ。
「分かってますよ。ちょっとからかってみたくなっただけです」
「む、むぅ……意外と意地悪なんですか?」
「そんなことないですよ。たまたまです、たまたま」
小さく微笑んで言うレイナに、サクラは不服そうに頬を膨らませていた。
そのやりとりを眺めていたユーフェリア様はパンパンと手を叩いて言った。
「まあともかく、マルセルの相手はサクラで決まりだな」
どうやら俺がこの訓練場で戦うのは確定らしい。
俺は諦めたように言葉をこぼす。
「マジですか。でも彼女、騎士十人でも倒せないくらい強いのでしょう?」
「いいや、絶対にマルセルのほうが強いから安心しろ」
俺の言葉に、ユーフェリア様は断言した。
何だか彼女は俺のことをかいかぶりすぎている気がする。
しかしサクラも納得したように頷いて言った。
「確かにマルセルさんなら、相手にとって不足はないですね——というか、ほぼ私の負け確ですが」
「それはないと思うぞ。だって俺、そもそも剣とかほぼ握ったことないし」
確かに木剣とかならたまに握るけど。
俺のメインウェポンはただのクワだ。
俺の言葉にユーフェリア様は驚き目を見開く。
「それは本当か……!? マルセルは剣を握ったことないと!?」
それに俺が頷くと、サクラは思い出したように言った。
「そう言えばそうでしたね。マルセルさんはクワがメイン武器でした」
その彼女の言葉に思わずと言った感じでユーフェリア様が愕然としてしまうのだった。
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