第25話 クワで圧勝しました

「しかし、久しぶりにマルセルさんと戦えるなんてワクワクしますね!」


 サクラは楽しそうにそう言った。

 五年前に村を出て行ったきりだったから、本当に久しぶりだ。


 俺も年甲斐もなくワクワクしている。

 ……が、木剣でサクラに勝てるだろうか?


 アイズの時は弱かったから何とかなったが、サクラとなると少し厳しいかも。

 前戦った時は……まあ、そこそこ強かった。

 それからさらに成長していることを考えると。


 う〜ん、厳しいかも。


「あの……クワってありますか?」

「く、クワですか……?」


 近くにいた騎士の一人の尋ねる。

 すると困惑した声がしたが、彼は少し考えると言った。


「確か……訓練場の土を整えるように木の平鍬ならあったはずです」

「あー、平鍬ですか。本当は備中鍬がよかったんだけど、まあ大丈夫か……。じゃあ、それでお願いします」


 そしてその騎士にクワを持ってきてもらう。

 俺はそれを持って、頷く。


「うん、やっぱりクワが一番馴染む」

「ホント、よくそれで戦えますよね……」


 俺がクワをブンブン振り回していると、呆れたようにサクラが言った。


「確かに武器ではないけど、結構いい感じなんだぞ。殺傷能力も意外と高いし」

「……それだったら普通に剣でいいと思いますけどね」


 と言っても、これで戦うことに慣れてしまったから仕方がない。

 そんな会話をしていると、ユーフェリア様が近づいてきて言った。


「早速始めるか。両者、準備はいいか?」


 その問いに俺とサクラは頷く。

 そして一定の距離を取ると、武器を構えた。


「それでは——始め!」


 瞬間、場の空気が変わる。

 一気にして緊張感が高まった。


 サクラのやる気がビンビンに伝わってきていた。


 どうやら彼女は間合いをとりながらペースを掴もうとしているらしい。

 が、俺は微動だに動かないので、なかなかペースを掴めずにいた。


「……やはりマルセルさんに小手先の技術は通じませんか」


 いやいや、俺ただ動いてないだけだよ?

 そんな技術もくそもないのだが。


 なぜか自分で納得したようにサクラは頷いて、ググッと腰を落とした。

 そして、思い切り地面を蹴って飛び出してきた。

 まあ、なかなか速い。

 が、『俊敏王ファスト・ラビット』ほどではないので、軽々と避けれてしまった。


 ちなみに『俊敏王ファスト・ラビット』はよく村の畑を荒らしに来る。

 だからそれを退治しているうちに、速さに対する対応力は簡単に身についた。


 サクラの攻撃をサラッと避けると、周囲の騎士たちから感嘆の声が上がった。


「おおっ! すごい、これが騎士団長の師匠か!」

「何であれを避けられるんだ! 俺なんて目で追うのも精一杯だったぞ!」


 ……そうなの?

 てか、俺師匠ってことになってるの?


 しかし俺に対して半信半疑の人間もいるらしく——。


「あんなの、ただのマグレだろ」

「あんなおっさんにサクラ騎士団長が負けるわけがない」


 そんな声が聞こえてきた。

 周囲の反応に戸惑っていると、サクラはドンドンと攻撃を仕掛けてくる。


「おっと! なかなかやるねぇ」

「流石はマルセルさんです……っ! このままでは埒があかないですね……!」


 サクラはそう言うと、一旦距離をとった。

 そしてグググッと腰を落とし、正中線に木剣を構えた。


 どうやら今度こそ全力で潰しに来るらしい。

 俺も腰を捻りクワを構えると、ピタッと止まった。


 一瞬の静寂。

 次の瞬間、サクラは思い切り飛び出してきた。


 さっきよりも速度は上がっている。

 俺はそれを避ける——ことはせず、真正面から受け止めにいった。


 ガキッと武器同士がぶつかり合う音が訓練場に響く。

 つば競り合う木剣とクワだったが、俺の方が押している。


 そして——。


 耐えきれなくなり、一旦立て直そうと距離を取ろうとしたサクラを、俺は追いかけそのままクワを振り下ろすのだった。


「ああっ! 騎士団長が負けたぞ!」

「なんだ、あのおっさん! めちゃくちゃ強いじゃないか!」


 先ほどまで疑心暗鬼だった騎士たちも、驚いたような声を上げていた。

 しかし俺はそれを無視して、倒れたサクラに近づくと手を差し伸べる。


「大丈夫か? サクラ」

「ああ、ありがとうございます、マルセルさん! いやぁ、完敗でしたね!」


 どこか晴れやかにそう言ったサクラ。

 そんな俺たちにレイナとユーフェリア様が近づいてきた。


「流石はマルセルだな。圧勝だった」

「マルセル様、おめでとうございます」


 彼女たちの反応に、俺は少し照れたような気まずいような感じがして、思わず頬をかいてしまうのだった。

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