第23話 おっさん、弟子入りを懇願される
「お願いだ! 俺の師匠になってほしい!」
俺の作ったケーキを食べた店主はいきなり涙を流したかと思うと、そう頭を下げてきた。
ええ……どう言うこと……?
俺が困惑していることを良いことに、彼は捲し立てるように言った。
「貴方の作ったケーキは俺の理想のケーキと全く同じ味だ! これは最高のケーキだ!」
でもこれはジンおじさんに教えてもらったものだ。
おそらく俺よりもジンおじさんの方がよっぽど上手く作れる。
だから俺は彼にこう言った。
「俺よりももっと上手にケーキを作れる人を知ってますよ」
「本当か!? ちなみにそのお方の名前はなんと言うのだ?」
「トーリスさんですね。トーリスおじさんです」
俺が言うと、彼は驚き目を見開いた。
そして震える声で尋ねてくる。
「それは……トーリス・アシュベルという名前ではないのか?」
「ああ、そうですね。そうだったと思います」
彼の問いに俺が頷きそう答えると、何故か店主はポロポロと涙を流し始めた。
「ああ……トーリスさんは生きていられたのですね……。よかった……」
ええと、トーリスおじさんはバチバチに元気に生きているけど……。
今も村で元気にクワでバッサバサと畑を開拓しているはずだ。
「それで、トーリスさんはどこにおられるのだ?」
「俺の治める村ですね。ここからかなり離れた小さな村ですが」
「おおっ! そうか! それはいいことを聞いた!」
嬉しそうにしている店主。
何が起こっているのか理解できないが、どうやら彼はトーリスおじさんに会いたいらしい。
「じゃあ一週間後にまた村に帰るから、その時についてくるか?」
「ああっ! ぜひお願いしたい!」
俺が提案すると、彼は嬉しそうに頷いた。
「と言うことは、俺が師匠じゃなくてもいいってことか?」
「いいや、そう言う話ではない! 貴方には俺の師匠になってもらう!」
なんて強引な……。
「てか、なんで俺が師匠になる必要があるんだ? 習うならジンおじさんでいいでしょ?」
「いいや、間違いなく貴方のケーキの方がトーリスさんよりも美味い!」
いやぁ、それはないと思うけどなぁ……。
そう首を傾げるが、どうやらこの店主は折れるつもりはないようだ。
俺は一つ溜息をつくとこう言った。
「はあ……わかったよ。それじゃあいつか教えてやるから。いつかな」
「ありがとう! この恩は絶対に忘れない!」
そうして店主はとても嬉しそうにしているのだった。
***
次の日、俺はユーフェリア様に連れられて騎士団の訓練場に来ていた。
爵位式は明日らしいので、今日はなぜか騎士団の訓練を見学してほしいと言われたのだ。
「どうだ、なかなかすごいだろう? 帝国中の猛者を集めた騎士団だからな」
数十人はいるだろう騎士たちが、訓練場のあちこちで打ち合いをしている。
うん、ここまで統率が取れているのはすごい。
しかしなんだか強そうな人はいない気がするけど……。
そんなふうに思っていると、一段豪華な鎧をまとった女騎士が近づいてきて、こう頭を下げるのだった。
「マルセルさん! お久しぶりです! こうして会うのは十年ぶりとかですね!」
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