第20話 都会に行くことになりました
『マルセル。君を帝都に招待したい。ぜひ来てもらえないだろうか?』
皇帝に馬刺しを振舞った後、彼から直々にそう誘われた。
小心者の俺はもちろんそれを断れるわけがなく。
結局、一週間ほど帝都に滞在することになってしまった。
「うう……都会か。緊張するな」
「マルセル様は都会に行くの、初めてですもんね」
俺の強張った声に、レイナがそう返してくる。
現在、俺たちは帝都に向かう馬車の中にいる。
馬車には俺とレイナ、ユーフェリアしか乗っておらず、自分がここにいていいのか不安になる。
だって二人とも美少女だし、俺よりも若い。
俺みたいな売れ残りおっさんがいていい空間じゃないと思うんだよなぁ……。
しかしそんなことを思っているとはつゆ知らず、ユーフェリアが力こぶを作って言った。
「ぜひマルセル様には騎士団の訓練場や冒険者ギルドに足を運んでもらいたい!」
「ええと……俺としては平穏に観光なんかしたいなぁ……とか思ったりするんですけどねぇ……」
騎士団の訓練場とか冒険者ギルドに行くのは少し嫌な予感がする。
どっちも腕自慢が多そうだし、暑苦しそうだしな。
俺はどちらかといえば、カフェやレストランなんか行って都会をエンジョイしたいんだが。
しかしそんな俺の希望はユーフェリアの言葉ですぐに打ち砕かれた。
「いや、平穏な観光は無理だと思うぞ! 父上は新たに公爵の爵位をマルセルに授与するつもりらしいからな!」
「……へっ!? 公爵家!? それって一番地位の高い貴族なんじゃあ……?」
俺は田舎に住んでいたから、都会の貴族同士の舌戦とかは全く関わってこなかった。
だから貴族の位とかにはすごく疎いのだが……。
それでも公爵家ってのがものすごい高い地位なのはなんとなく分かる。
困惑している俺に、ユーフェリアは頷いて答えた。
「そうだな、公爵家は王家の次に偉い立場だ」
「ど、どうして俺なんかがそんな立場に……」
「そんなの決まっているだろう? 父上に気に入られたからだ」
ちなみに現在、皇帝様だけが別の馬車に乗っている。
だからこんな会話ができるのだ。
「俺、そんな特別なことをやった覚えはないんですけどねぇ……」
「いいや、マルセルは自分のやっていることに対して、もう少し自覚を持ったほうがいい」
と言われてもなぁ……。
俺は本当に特別なことをした覚えがない。
なぜそんなに持ち上げてくれるのかも分かっていなかった。
だから自覚するも何もないのだ。
「ともかく、マルセルは帝都で平穏に観光するなんてことはできないと思うから、覚悟だけはしておいたほうがいいぞ」
そのユーフェリアの言葉にガックシと肩を落としてしまう。
そんな俺の背中を、励ますようにポンポンとレイナが叩いてくれるのだった。
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