第16話 幼馴染ルインの苦悩

——ルイン・ライナー視点——


 私は宣告通りファンズ王国の騎士団長をやめた。

 ガードナー領の素晴らしさが世に知れ渡った今、やる必要がなくなったからだ。


 現在、私は王城からガードナー領に向けて出発したところだ。

 本当は結婚式後、そのまま居座りたかったのだが、後任探しもあるし王都に戻った。


 それからようやく二週間が経ち、引き継ぎを終わらせたのだ。

 全ての責務を全うした私は、考え事をしながら草原を歩いていた。


 はあ……どうしようか——。


「私の敵は帝国第一皇女ユーフェリア様とマルセルの婚約者レイナ様ですか……」


 強敵すぎる。

 私の目標はその強敵を退けて、マルセルと結婚することだ。


 三十四歳彼氏なし、職も先ほどなくなった。

 そんな私が結婚するには間違いなくマルセルしかない。


「あー! 私も結婚したいぃ! マルセルと結婚したいぃいいい!」


 思わず叫んでしまう。

 周囲に人がいないことをいいことに、思わず全力で叫んでしまった。


「はあはあ……私はどうすれば……」


 そう呟き、がっくしと肩を落とす。

 私の武器は、マルセルの幼馴染であると言うことだけだ。


 若さでも美しさでも立場でも負けている。

 そう考えて、ふと妙案を思いついた。


「そ、そうです……私はマルセルの幼馴染。だから彼については一番知っているはず!」


 それにマルセルとの心の距離も間違いなく私が一番近い!

 ということは、やっぱり私にアドバンテージがある!


 ……本当にそうか?

 本当にそうなのか!?


 ぐぎゃぁあと頭を掻きむしって私は悶える。


 よく考えれば、私はマルセルのことをよく知らない。

 どんな食べ物が好きで、どんな食べ物が嫌いか、それすらも知らない。


 私はマルセルのために騎士団長になることで頭がいっぱいだった。


 そういえば!

 私にはもう一つ武器があった!


 胸が大きいことだ!

 レイナ様はぺったんこだし、ユーフェリア様は普通くらいだ。


 マルセルが巨乳を好きかどうか分からないが……。

 しかし! こればっかりは明確に私に優位があるはず!


「ということはつまり! ドキドキ温泉大作戦をすればいいのでは!?」


 以前、村の言い伝えで『吊り橋効果』というものも聞いたことがある。

 確かあれも大勇者アカネ様が言い伝えたものだったはず。


 たまたまマルセルが温泉に入っているところに、私が無意識を装って温泉に入る。

 そして私はマルセルに気がつかないふりをして、そのまま温泉に浸かれば——。


 マルセルはドキドキして私に恋してくれるのでは!?


 少々無理があるかもしれないが、これならワンチャンありそうだ。


「よ、よぉし! 決まりました! ドキドキ温泉大作戦、やってみましょう!」

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