おっさん、都会に出向く
第15話 婚約者とラーメンを食べます
「マルセル様。この辺境の土地はファンズ王国からジーサリス帝国へと所有権が移りました。今日よりここはジーサリス帝国です」
……へ?
どういうこと?
俺が困惑していると、帝国の使者が説明してくれた。
「ジーサリス帝国からファンズ王国へ国宝【勇者の剣】が贈られる代わりに、この土地を譲っていただくことになりました。なので、今日よりこの地はジーサリス帝国です」
「どうしてそうなったんだ……」
意味がわからない。
確かにこのガードナー領は王国と帝国の国境に位置する。
だから所有権が移ってもなんら問題はない。
ただ……なぜそうなったのかがよく分からない。
しかも【勇者の剣】と引き換えなんて……。
あれは相当な国宝なはず……。
そう不思議に思っていたが、ふとユーフェリア様のとある言葉が思い出される。
『それじゃあ、マルセルが私と釣り合う身分を手に入れればいいんだな?』
もしかして……。
彼女が俺と結婚するためだけに、この領地を手に入れた……?
あり得る……。
あの人ならあり得てしまう。
俺をジーサリス帝国の貴族にして、なんらかの理由をつけて高い爵位を与える。
すると、確かにユーフェリア様と結婚することができてしまう。
俺はそこまで思い至って、頭を抱えた。
「なんてこった……どうすればいいんだ……」
そんなふうにしていると、レイナが不思議そうに近づいてきて言った。
「何があったんですか?」
「ああ、それがだな……」
俺がことの経緯を話すと、彼女は難しそうな表情になる。
「マルセル様は……ユーフェリア様が好きではないのですか?」
「いや、嫌いとかではないんだけど、俺にはレイナがいるし……」
俺の言葉にレイナは少し考えた後、こう言った。
「私がいなくなれば、マルセル様はユーフェリア様と結婚しますか?」
「いや……それもないな」
確かに俺はレイナがいなくても、ユーフェリア様と結婚はしなかったと思う。
そもそも今の段階でこの土地を離れるつもりもないし。
皇女様と結婚するってなったら、忙しくなるだろうし。
……うん、やっぱり田舎でレイナと慎ましく結婚するのが一番性に合ってる気がする。
俺がレイナの言葉を否定すると、彼女は嬉しいような恥ずかしいような表情をする。
「それでは、私はこれからも……マルセル様と一緒にいていいんですね」
「あ、ああ。構わないぞ」
笑みを浮かべてそう言ったレイナに、俺も思わず頬が赤くなる。
そんな俺たちに、使者の二人は淡々とこう言った。
「それでは、お伝えすることは以上ですので」
そうして去っていこうとする彼らに、俺は一つだけ尋ねる。
「それで、この領の所有権が移って、俺は何かやることが増えたりするのか?」
その問いに、ジーサリス帝国の死者はにっこり笑ってこう言うのだった。
「もちろん、増えます。まずは領地の開拓から行ってもらおうというのが方針です」
***
「はあ……今日も疲れた……」
俺は家に帰り、ソファに身を投げるとそう零した。
するとレイナが近づいてきて、労いの言葉をかけてくれる。
「お疲れ様です、マルセル様」
「ありがとう。今日はせっかくだから美味しい料理でも食べようか」
そう言うと同時に父がキッチンから出てきて言った。
「おう、お前ら! 今日はラーメンにすっから! 文句は言わせねぇぞ!」
「おお、ラーメンか! それなら全然構わないぞ」
ラーメンもどうやらこの土地ならでのは食べ物らしい。
レイナも父の言葉に不思議そうに首を傾げて尋ねた。
「らーめん、というのはなんですか?」
「ラーメンとは小麦を練って細く切り、魚介や豚骨などで作ったスープで食べるというものだ!」
しかしこういうのは言葉では通じないのだ。
やっぱりまだ理解できてなさそうなレイナを、俺はキッチンに連れていった。
「おおっ、とてもいい匂いがします!」
「これがラーメンのスープの匂いだよ。美味しそうだろう?」
「はい! とても美味しそうです!」
ちなみにこのスープはオーガ・リーの骨を使って出汁をとっている。
これがまた美味いんだよなぁ〜。
「おうおう、料理しないやつはキッチンから出ていけ。すぐ作るから待ってろよ」
父に後ろからそう言われ、俺たちはリビングに戻った。
それからしばらくして、ワクワクと待っていると、ようやくラーメンが完成した。
「へい、お待ちどう! ラーメンいっちょあがり!」
俺たちの前に置かれるラーメン。
ホクホクと湯気が立ち上り、いい匂いを充満させていた。
「うまそ〜!」
「本当に美味しそうです」
そして待ちきれない俺は、すぐに箸を持つとラーメンを啜った。
「ああ〜、やっぱりラーメンは体に染みるなぁ!」
レイナはまだ箸の持ち方に慣れておらず、苦戦しながらもラーメンを啜った。
「おっ、美味しい……!」
「だろうだろう? よかった、口に合って」
それから俺たちは夢中でラーメンを啜り続けるのだった。
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